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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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副島隆彦・武田邦彦著『原発事故、放射能、ケンカ対談』(幻冬舎、2011年6月)を読みました。

原発事故、放射能、ケンカ対談

副島 隆彦 / 幻冬舎



※本の紹介はウェブサイト「副島隆彦の論文教室」の「副島隆彦先生・本サイト寄稿者の本の紹介」ページへどうぞ

この本は、副島隆彦氏が武田邦彦氏と福島県郡山市で会い、そこで対談をした内容が基になっています。対談の日時は2011年5月3日です。これは副島氏が武田氏に対して、東京ではなく、是非福島第一原子力発電所に近い場所にある都市・郡山市で対談をし、もっと正確に言うと、副島氏が武田氏の主張について問い質す、ということをやるために行われたということだそうです。

対談は、『原発事故、放射能、ケンカ対談』というタイトル通り、2011年3月12日に発生した福島第一原子力発電所の事故とその後の放射能物質の拡散について、激しい口調で二人が激論を交わしています。本の帯にある「副島「もう避難住民は戻っても安全だ」と武田「いや、安全を吹聴することがいちばん危険だ」」という表現が二人の立場を簡潔に表しています。

武田氏は、「年間1ミリシーベルトを超えた地域の住民避難のために東電がトラックを出して移動させ、ご飯を出すことをなぜ国民は求めないのか不思議でした」(24ページ)と書いています。この文から分かるように、武田氏は、平時の年間1ミリシーベルトという政府が決めた基準を原発事故発生後も守るように求めています。それ以上はがんの発生数が増えるから、放射能の検出量が多い地域、それはどうしても福島県の原発に近い地域や風の通り道となってしまう地域の人々は避難させるべきだというのが武田氏の考えです。

武田氏はさらに「コンセンサス(consensus)」という用語を多用しています。これは「合意、意見の一致、総意」という意味になります。私は本を読んでいて、多用されるコンセンサスという言葉に混乱しました。本の中で、武田氏がこのコンセンサスについて説明をしていないため、わかりませんでした。武田氏は、コンセンサスの使い方について、一例を以下に引用します。

(引用はじめ)

副島 1億人で10万人ということは、1000人に1人ということですね。それで、武田さん、年間20ミリシーベルトの放射能物質を浴びたら、1000人に1人がんが出る。これはサイエンティフィック・ファクツであると。

武田 いや、コンセンサスなんです。

(『原発事故、放射能、ケンカ対談』113ページから)

(引用終わり)

このコンセンサスについて、武田氏は自身のブログ「武田邦彦(中部大学)」(http://takedanet.com/2011/06/post_4160.html)の、「医学とコンセンサス」(2011年6月10日)で書いています。以下に重要な部分を引用します。

(引用はじめ)

事実は次のようなことです。これさえシッカリと判っていれば不安になることはありません.

1)
医学的に判らないのだから、医者や研究機関に聞いてもムダである。

2)
しかし海外旅行に安心して行くためには、どの国も同じ基準で規制してくれることが必須。

3)
そこで、「医学的ではなく」(ここが大切)、「コンセンサス(みんなでとりあえず決めておく)で決める」という方式がとられた(21年前)。

4)
それが、「誰でも1年1ミリシーベルト以下なら安全としよう。本当のところはわからないが、それで行こう」である。

5)
すでに20年以上、世界中でこの基準で生活し、特にヘンなことは起こっていないので、その意味でのデータは経験的にとられている。

6)
そして、日本では「健康に留意し、栄養のバランスをとり、休養を十分にするなら1年5.2ミリシーベルト」ということでも運用され、これも特にヘンなことは起こっていない。

世の中にはさまざまな危険があります。でも、現代の科学で判らないものは、判らないとして経験や合意によって「これで行こう!」と決めざるを得ません。

研究結果がでるまで100年も待つことはできないからです。

・・・・・・・・・

私は、次のように考えてまったく動揺しません。

1)
可能なら1年1ミリシーベルト以下にしよう。そうすれば悔やむことはない.

2)
もしそれがダメなら1年5ミリシーベルト以下を目指し、その代わり健康には十分に注意しよう。それも仕方が無い.

3)
幼児をこの基準で守って上げれば、大人は安全.

4)
いろいろな報道がされるが、聞いても意味が無い.

5)
努力して生活し、それでも人智及ばざるところは運命と思う.

(引用終わり)

最後の部分は、科学者というよりも、宗教家や政治家のような表現だと思ってしまいますが、コンセンサスというのは、「医学的に判らないのだから、医者や研究機関に聞いてもムダである。しかし海外旅行に安心して行くためには、どの国も同じ基準で規制してくれるこ
とが必須。そこで、「医学的ではなく」(ここが大切)、「コンセンサス(みんなでとりあえず決めておく)で決める」という方式がとられた」ということなのです。「学問的には分からないけど、これでいきましょう」ということなのです。年間1ミリシーベルトというの
は、コンセンサスなのです。みんなで話し合いをして、最後は「よいしょっ」という感じで決めた数値なのです。

そうなれば、この数字が厳しくなるのは当然です。科学者と言えども、人から間違っているとか、責任をとれなんて言われて気持ちが良い訳がありません。ですから、絶対にどこからも文句が来ないバラ色の数字を提示するはずです。実際、世界の平均の自然界の放射線量が年間2.4ミリシーベルト、日本の平均が1.4ミリシーベルトです。1ミリシーベルトを超えている場所が多くあることがわかります。そこから人々を避難させているなどとは寡聞にして聞いたことがありません。

あと、下世話な話と言われるかもしれませんが、武田邦彦氏は、自分が東京電力からお金をいくらもらった、ということを正直に話しています(『原発事故、放射能、ケンカ対談』151ページ)。武田氏は「原子力ムラの反対派」を自任していますから、原子力ムラの推進派の人々はもっとたくさんのお金をもらっていることは想像できます。恐らく桁が一つ、二つ違うのではないかと思ってしまいます。日本人の生涯賃金は2億円とか3億円と言われます。その何人か分を武田氏は東電からもらっていたと話しています。

私は、武田氏は、「原子力ムラの反対派」であったかもしれないが、反対派に力点を置くのではなく、やはり原子力ムラの住人であったと思います。また、今回、原子力委員会の専門委員に任命されました。専門委員となれば高い報酬を得ることができます。これだって、武田氏が、「原子力ムラ」の作法に従うことができるエリートだから、ということが理由になっていると思います。

武田氏のエリートぶりというか、社会から超然としていようとして、社会から断絶していることを示す部分を以下に引用します。

(引用はじめ)

副島 今でもそうです。学校給食というのはそういうものなんです。制度なんです。制度、体制、権力、上から押さえつけて、一律で徹底的に守らせるんですよ。武田さん、あなたは政府機関の一部である審議会に入って、その名誉職のお仲間のみなさんの世界に今もおられる。この特権的な人たちは、世の中の現実を見ない。よかれよかれと言っているお公家様たちなんですよ。下のほうで生きている民衆に、自分たちがどれくらい迷惑をかけているか自覚がないんだ、あなたを含めて。

武田 いや、そうそう。

副島 本当に自覚がないんだ。

武田 そう。ない。

副島 本当に自覚がない。

(『原発事故、放射能、ケンカ対談』240ページから)

(引用終わり)

武田氏は正直な人で、こういう言い方をされたときに本当であると認める部分は好感が持てるし、それが人々に受け入れられてテレビにも出ることができる理由でしょう。しかし、私はやはりこの人が、エリートのお公家様である点については厳しく評価されるべきだと考えています。

最後に副島氏の主張の骨子を示している部分を引用します。

(引用はじめ)

ICRPだって、100ミリシーベルト・パー・イヤーを、日本は緊急事態だから許すと声明を出した(前述のp.82~83の新聞記事資料)。これでも発がんの率の発生は、過去のデータから見られないと言った。そして、その倍の200ミリシーベルト・パー・イヤーだったら、0.5パーセントだけ発がん率が増えるという証拠(科学的事実、データ)があるそうです。だから私は、ここで自分の故郷でこのまま生きてゆきましょうと。超微量のほんのわずかな放射線の中でも健康で生きてゆける。日本はこれからも、このまま繁栄を続けられる。日本は3月15日で救われたんです。(『原発事故、放射能。ケンカ対談』160ページから)

(引用終わり)

この一冊に原発事故が起きて約4か月間に交わされた様々な言説が広く網羅されています。多くのポイントがあってうまくまとめることができないほどです。是非お手に取ってお読みください。

※本の紹介はウェブサイト「副島隆彦の論文教室」の「副島隆彦先生・本サイト寄稿者の本の紹介」ページへどうぞ

副島隆彦・武田邦彦著『原発事故、放射能、ケンカ対談』(幻冬舎、2011年6月)を読みました。_c0196137_415183.jpg


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by Hfurumura | 2011-07-04 04:03 | 宣伝
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