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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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人類学内部の対立について

今回は、いつもと毛色を変えて、人類学についての文章をご紹介したいと思います。

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人類学内部の対立について_c0196137_17352427.jpg


昨年の話で古くなってしまいましたが、アメリカの人類学会がある公式な宣言文の中から「科学(science)」という単語を削除しました。その代わりに「一般の人々の理解を深める」という文言が入れられました。

人類学会には大きく分けて2つのグループ、派閥があります。科学として研究を追求する派と研究対象の部族や人々の生活の問題に取り組むべきとする派です。

これら2つの派閥の争いが人類学会に分裂を招いているのは確かなようです。

==========

●「人類学は科学だろうか?ある宣言が争いを激化させている(Anthropology a Science? Statement Deepens a Rift)」 

ニコラス・ウエイド(Nicolas Wade)
2010年12月9日付 ニューヨークタイムズ紙

http://www.nytimes.com/2010/12/10/science/10anthropology.html

人類学者たちは、自分たちが所属し研究している人類学の性質と未来について混乱状況に陥っている。混乱のきっかけは全米人類学学会(American Anthropological Association)の2010年年次総会において、「長期計画に関する宣言」の中から「科学」という言葉を削除したことだ。

この決定は長年にわたりくすぶっていた、2つのグループの間の争いを再燃させた。人類学の世界には、科学を基盤とした人類学の諸分野である考古学、形質人類学、文化人類学の派閥と、人種、民族、ジェンダーを研究する学者たちの派閥がある。後者の派閥の人々は自分たちを原住民の抱える問題や人権問題を解決するための主導者、活動家であると考えている。

ここ10年、人類学の世界では2つの派閥が激しく争ってきた。そのきっかけは政治的な活動を志向する派閥が、ヴェネズエラからブラジルにかけて住んでいるヤノマノ族に関する研究を攻撃したことである。この研究は、科学志向の人類学者ナポレオン・チャグノンと遺伝学者のジェイムス・ニール(2000年に死去)によって行われた。この争いが残した傷はいまだに癒えず、科学志向の人類学者たちの多くは、先月、人類学会が長期計画の宣言文を変更し、人類学を科学として発展させるのではなく、「一般の人々の理解」を深めることを選択したことを知り、狼狽した。

現在に至るまで、全米人類学学会の長期計画は、「人類学は、人類をすべての面で研究する科学」だとしてきた。先月、全米人類学学会の執行部はこの長期計画を見直し、「全米人類学協会の目的は人類に関する一般の人々の理解を促進することだ」と修正した。この長期計画には人類学に含まれる学問分野のリストが掲載され、その中には政治調査研究も含まれている。

「科学」という言葉は、「長期計画に関する宣言」から後2か所削除されている。

全米人類学学会会長のヴァージニア・ドミンゲス(イリノイ大学)は、私たちの取材に対するEメールでの返事の中で次のように書いている。「科学という言葉を外したのは理事会で、自分たちの仕事を科学の範囲内に位置づけない人類学者たちも含めて宣言文を出そうと決めたからです。もちろん科学の範囲内に位置づける人々を宣言文では含んでいます。宣言文は、理事会に素晴らしい提案があれば修正されるものです」

ドミンゲス博士は、「新しい長期計画宣言は、全米人類学学会の『目標に関する宣言』とは異なります。この「目標に関する宣言」について変更はありません」と語っている。「目標に関する宣言」では、人類学を科学であるとしている。

全米人類学学会の傘下の人類学関連諸科学協会会長(Society for Anthropological Sciences)のピーター・ペレグリンは、会員たちに送ったEメールの中で次のように書いている。「全米人類学学会内で提案されて実現した変化はアメリカの人類学を傷つけるものである。私たちの考えを明確にし、全米人類学協会の会員たちに知らせなければならない」

ウィスコンシン州のローレンス大学で教鞭を執るペレグリン博士は、私たちとのインタビューで次のように語った。「科学という言葉を削除したことで2つの派閥の間での緊張感が高まってしまい、2つの派閥の間の関係は修復不可能になってしまいました。理事会が文言を元に戻しても、もう元には戻りません。今回起きたことは、籠の中に閉じ込めていた猫を外に出したら、部屋中を走り回って家具という家具に傷をつけたようなものなのです」

ペレグリンは人類学協会で起きた変化を科学に対する攻撃だと考えている。そして、人類学において大きな影響を与えている2つの流れがあるとしている。1つの流れは、批判人類学を信奉する人類学者たち(critical anthropologists)である。彼らは、人類学を植民地主義の武器として捉え、人類学の植民地主義的な要素を取り除くことを目指している。もう1つの流れは、ポストモダンを信奉し、科学の権威を批判している(postmodernist critique of the authority of science)人類学者たちである。ペレグリンは、「こうした動きは、合理的な主張や思考を否定することを基盤としている創造説(creationism)のようなものだ」と書いている。

ドミンゲス博士は批判人類学とポストモダンを信奉している人類学者たちの考えが新しい宣言文に影響を与えたことを否定している。ドミンゲス博士は私たちの取材にEメールで回答を寄せた。その中で、科学志向の人類学者たちは、長年、科学志向ではない同僚たちの存在を憂慮し、否定的であったと語っている。ドミンゲス博士は、「ある人々を少数派に追いやったり対立したりするのは楽しくて何度でも経験したいという類のものではない」と述べている。

(終わり)

==========

読者からの投稿コーナー(The Opinion Pages)

●投書:「科学の定義(The Definition of Science)」(2010年12月13日掲載)

http://www.nytimes.com/2010/12/14/opinion/l14anthro.html?scp=3&sq=anthropology%20a%20science?&st=cse

編集部へ

「人類学は科学だろうか?ある宣言が争いを激化させている」(2010年12月10日付の記事)への反論

全米人類学学会の旗艦誌である『アメリカン・アンソロポロジスト』誌の編集責任者として、私は、今回の「科学」という言葉の、長期計画宣言からの削除は、人類学の世界の争いを激化させることはないし、誤解を深めることはないと考えている。

私は全米人類学学会が「科学」という言葉を削除したことを再考してくれる、と希望を持っている。それは人類学が科学の定義を拡大することに貢献してきたからだ。科学は何も実験室だけで行われるものではなく、フィールドでも行われるものだ。何回も同じ手順で行われる実験(experiments)だけではなく、同じことを繰り返すことは不可能な観察(observation)も科学研究の手法に含まれる。人類学だけが科学と言うこともなく、動物学や天文学といった幅広い学問分野も科学なのである。

双眼鏡(訳注:科学的方法の象徴)の調整は正しい知識を得るために大変重要である。それと同じくらい重要なのは、コロニアリズムの科学(人類学だけではなく)に対するインパクトを理解することによって、概念の範囲を測定することだ。そして権威に対する様々な要求によって知識は形成されていく。

概念の範囲をしっかり測定することと決めることは、科学をより科学たらしめる。

問題は、「派閥間の争い」ではなく、聞き間違いとそれによる誤解である。私たちは敵対心が渦巻く時代に生きている。その中で、私たち人類学者は、職業を通じて身に着けた「注意深く人の話を聞く」というスキルをお互いに理解のためにより効果的に使わなければならない。そうすることで、人類に関する科学の発展と一般の人々の理解を深めるという二つのことが可能となるのだ。

トム・ボエルストーフ
カリフォルニア州アーヴァイン
2010年12月10日

投稿者はカリフォルニア大学アーヴァイン校の人類学教授である。

(終わり)
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