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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
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パラグ・カンナの最新インタビュー

パラグ・カンナの最新インタビュー_c0196137_17254068.jpg



古村治彦です。

本日は、私が訳出しました『ネクスト・ルネサンス 21世紀世界の動かし方』の著者であるパラグ・カンナ(Parag Khanna)の最新のインタビュー記事を皆様にご紹介いたします。彼の「21世紀は都市の時代である」という主張は、『ネクスト・ルネサンス』でも紹介されています。面白いのは、インタビューの後半部です。富裕層の資金について、スイスとシンガポールは連携すべきだという「面白い」主張をしています。

それではお読みください。

==========

●都市群国家(The Cities-State)

Schweizer Monat | April 2012
Interview with Florian Rittmeyer
http://www.paragkhanna.com/?p=1767

21世紀の世界を動かすのは、中国でも、インドでも、ブラジルでもない。都市だ。これは、パラグ・カンナによる予言である。カンナは、スイスを都市が寄り集まった国家だと考えている。そして、カンナは、スイスはシンガポールと連携すべきだと提案している。

インタビュアー:カンナさん、都市国家という考えは、ここ数年、スイス国内でよく議論されている話題です。この都市国家という考えについてどのようなご意見をお持ちですか?

カンナ:都市国家という考えはスイスだけで流行しているのはないのですよ。私は先ごろ、ロンドンである夕食会のホストを務めました。この夕食会には、イギリスの政治家、ジャーナリストなどが集まって、ロンドンは、ヴェニス、フィレンツェ、ハンザ同盟のような中世の都市国家のような位置を占めることができるかということを議論しました。参加者の中にはロンドンは、イギリスから離脱すべきだという意見を表明する人たちもいました。私は、都市国家という考えが再び脚光を浴びることに賛成です。このアイディアは素晴らしいですし、議論をすることも素晴らしいことです。もちろん、実効性が大きな問題になってきます。ロンドンはイギリスから離脱すべきだという考えは、滑稽です。ロンドンはイギリスの一部であることで利益を得ていますし、イギリスにロンドンがあることでイギリスには利益になってもいます。同じことがチューリッヒやジュネーブにも言えます。

インタビュアー:スイス全体が大きな都市国家であるという考えについてどのようにお考えになりますか?

カンナ:都市国家という存在は、計画性を持って作られた存在です。スイスは何世紀もの時間をかけて発展してきました。都市国家をConfoederatio Helvetica(ラテン語の「スイス」)にそのまま当てはめることはできません。私はスイスが都市国家とは申しません。それよりは、複数の都市が寄り集まったもの、異なった機能を持つ諸都市の集合と言えましょう。都市国家(city-state)と言うよりは、都市群国家(cities-state)と言った方が良いかと思います。

インタビュアー:えっ、都市群国家ですか?

カンナ:これは私なりの表現です。しかし、チューリッヒやベルンにいるスイスの一流ブランドの幹部の皆さんにインスピレーションを与える表現だと思いますよ。彼らは、スイスという言葉を使うのにうんざりしていますからね。重要なのは、スイス国内にある様々なハブ(都市)が寄り集まった時に発揮する強さを強調することです。スイスは国土の狭い国ですが、多くの魅力を発信しています。グシュタードとサンモリッツは夏でも冬でも楽しめる場所です。チューリッヒは国際的な金融センターです。バーゼルは科学産業の中心地、ジュネーブは、金融と外交の中心地です。それぞれの場所は、スイスという全体に貢献できる強さを持っています。このような都市群国家としてのスイスは、現在の世界に生きるコスモポリタンたちにとって無限の魅力を与えているのです。

インタビュアー:カンナさん、あなたは、コスモポリタン的なジュネーブ、ダイナミックなチューリッヒ、豪華なダボス(毎年世界経済フォーラムの総会が開かれる)といった場所に大変お詳しいと思います。しかし、もしご自身がこのスイスでほとんどの時間を過ごすことになったら、どのような生活になると想像されますか?

カンナ:私が自分の活動のベースをロンドン、ニューヨーク、そしてシンガポール以外に置くというのは今のところ考えられません。人間というのは時間と移動の利便性について考えるもので、自分の仕事がしやすい場所にベースを置くものですね。ですから、その場所のインフラの質というものが大変重要になってきます。田舎でのゆったりした生活と都市部での現代的な仕事の機会がうまく調和していることが望ましいですよね。その点で、スイスは最高の場所です!スイスの美しさ、それは、チューリッヒに住みながら、そこから30分もかからない湖畔で静寂を楽しむことができることです。ジュネーブに住めば、そこから1時間もかからないでシャモニーに行くことができます。スイスに住めば、1日で都市での生活と田舎での生活を楽しむことができますね。

インタビュアー:スイスに来る人々は、チューリッヒに飛行機で行き、近未来のような地下鉄で中心部に向かうことができます。一方で、カウベルとヨーデルを楽しむこともできます。最先端の技術とスイスの伝統との間には、伝統と現代性との間の矛盾があると言えるのではないでしょうか?そして、この2つは相争っていると言えませんか?

カンナ:牛、チーズ、チョコレート、スキー、銀行の顧客の秘密保持、これらは全て、スイスの素晴らしい点ですね。伝統と近代性との間の矛盾と仰いましたが、都市の中に田舎が存在するという矛盾は、人々が進んで作り出しているものなのですよ。ロンドン市長のボリス・ジョンソンは、都市の中に村のイメージを保つことに成功しています。私はロンドンに住んでいますが、ジョンソン市長が言いたいことをよく分かっています。彼は、「ロンドンは多くの村落の集合体だ。大都市ではあるが、村落のような暮らしやすい場所にしたい」と言っているのです。私は自分の娘を小学校まで送るのですが、学校の校庭には羊と鶏がいます。私が住んでいるのはロンドンの中心部です。これは大変素晴らしいことだと思います。現在は都市化が進み、人々は近所の人たちの名前も知らない時代いなりました。人々は自分の住む場所に愛着が持てなくなっています。その中で、都市の中に田舎を作り出すのは素晴らしいことです。

インタビュアー:ビジネスや学術の世界で才能を発揮する人々は世界規模で活躍しています。今日はある場所にいるが、明日には別の場所に行っている、そんな感じです。スイスがそのような才能ある人々を惹きつけ、長く居住してもらうにはどうしたらよいと思われますか。

カンナ:才能を持つ人々は移動することを嫌いません。フットワークが軽いのです。しかし、スイスという場所は、ここに長くとどまりたいと思わせてくれる場所の一つです。イデオロギー的には中庸、国連の機関があり、チューリッヒとジュネーブという金融センターもあります。地理的にはヨーロッパの中心部にあるというのも利点になります。スイスは、シンガポールのように、専門能力を持つ人々が集まって長期にわたって腰を据える場所になります。その際に重要なのは、居住条件の形式がどうなっているかということですね。現在、スイスに帰化するのは大変難しいです。それでも居住許可Cを持っている人はより少ない手間で帰化できます。スイス国内でこれから労働力がますます必要となる際には、現在はそうではないようですが、現在の居住条件を緩和しなくてはいけませんね。もしスイスが望むのならば、より多くのアジアの大企業がスイスを経済活動のハブとして利用したいと考えるでしょう。もちろん、そのためにはスイス国内で議論をして、アジアの大企業を受け入れるかどうか決めねばなりませんが。中国の大企業がヨーロッパ地域担当オフィスをフランクフルト、パリ、ロンドンに設置しているのは好例と言えるでしょう。

インタビュアー:あなたは常々、21世紀の世界を動かすのは中国でも、インドでも、ブラジルでもなく、もちろんアメリカでもなく、都市群だと主張されていますね。このような主張をするに至った経緯を教えてください。

カンナ:重要な点は、21世紀の世界は、覇権国が一極支配する世界にはならないということです。中国、アメリカ、ブラジル、インド、どの国も一極支配することはできないでしょう。同時に、いくつかの大国が世界規模で調和を保つという時代でもないでしょう。21世紀は分極化されたシステムの時代でしょう。こうした世界では、中世のように、都市が支配的な役割を果たすでしょう。

インタビュアー:いろいろなことを考えると、誰も中世時代には戻りたくないと思うでしょうね。

カンナ:確かにそうかもしれません。しかし、私はハンザ同盟のようなネットワークのモデルからインスピレーションを得たのです。中世の都市同盟から多くのことを学ぶことができるのですよ。その当時も現在と同じで、新しい技術とビジネスチャンスに機敏に反応するネットワークが多くの人々に利益を与えるのです。私たちがある国が隆盛してきたという話をする際に、どうしても忘れてしまうことがあります。それは、ある国の隆盛がその国の大都市の経済活動の拡大によってもたらされるということです。ある国の力の基となるのは何でしょうか。都市です。それではある国の成長と技術革新をもたらすのは何でしょうか。都市間のネットワークです。

インタビュアー:中国の「大きさこそが力の源泉だ」という考えとスイスの「小さいことは素晴らしい」という考えとの間に根本的に相いれない部分があるとお考えですか?

カンナ:私は初めての著作『「三つの帝国」の時代』で帝国について書きました。その中で「巨大な存在が復活している」ということを主張しています。しかし、小さいことと大きなこととの間に矛盾はないのです。ある部分では小さい存在が活躍します。別の部分では大きい存在が活躍します。アジアには、インドと中国という世界で最大、そして第二位の人口を抱える国々があります。同時に小さいながらかなりの成功を収めている国もあります。それはシンガポールです。異なったモデルが同じ地域で共存しているのです。従って、大きいことと小さいことの間に矛盾は存在しないと私は考えるのです。スイスは、労力の移動、環境保全、財政政策、その他の分野で、巨大な国家に対して教訓を与えることができます。

インタビュアー:例えば、ヨーロッパ各国で債務上限を定める動きが続いています。債務上限という考えは、スイスの各州で生まれ、それがスイス国に拡大し、それがドイツに伝えられ、全ヨーロッパに広まりました。

カンナ:その通りです。ヨーロッパの優れているところは、多様性と分極化した多くの中心部があることで、国境を越えて学ぶことができるところにあるのです。ここ数年、西ヨーロッパは、スカンジナビア諸国やバルト海沿岸諸国のダイナミズムから何を学ぶことができるかについて様々な議論がなされてきました。

インタビュアー:そして、金融危機がそれをさらに促しています。スイスは金融危機後の世界でどのように動けばよいのでしょうか。

カンナ:金融危機によってスイス国内の金融センターも大きなプレッシャーを受けています。スイスは伝統的に中立を守ってきました。ですから、どこかの国や組織と同盟や協力体制を結ぶ際にはそれらは曖昧な形にされてきました。しかし、スイスは、特定の分野においては、必要に応じて戦略的パートナーシップを結ぶべきだと思います。多くの人々は現在、富裕層向けの銀行ビジネスは地理的に分散すべきだと考えています。スイスはこの分散化から利益を得ることができます。具体的に言えば、これは一つの例とお考えいただきたいのですが、スイスはシンガポールと直接的なパートナーシップを結ぶと良いと考えます。ヨーロッパとアジアには富裕な人々が多数います。そこで、スイスとシンガポールがお互いに張り合って利益を失うべきではありません。張り合う代わりに、スイスが、ヨーロッパとアジアの間のお金の動きを促進するようにすれば良いのです。西洋世界は、内向きで、保護主義的な方向に進んでいます。スイスはEUとインドとの間で自由貿易協定(FTA)が締結されるまで待っている必要はないのです。そうではなくて、EUの動きとは関係なく、アジアとヨーロッパとの間のお金の動きを促進するように動けばよいのです。

パラグ・カンナ:ニューアメリカ財団上級研究員。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)にて博士号(国際関係論)取得。著書に『「三つの帝国」の時代』『ネクスト・ルネサンス』(共に講談社)がある。

(終わり)

ネクスト・ルネサンス 21世紀世界の動かし方

カンナ,P. / 講談社


by Hfurumura | 2012-04-09 17:26 | 国際政治
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