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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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解散の神託:カーティス教授の日本政治論文は野田総理へのお褒めの言葉と惜別の辞だ

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



「日本政治は救われるか?(Can Japanese politics be saved?)」

ジェラルド・カーティス(Gerald Curtis)筆
イースト・エイジアン・フォーラム(East Asian Forum)
2012年11月13日
http://www.eastasiaforum.org/2012/11/13/can-japanese-politics-be-saved/#more-29983

「政治的指導者とは次のような人々のことだ。彼らは指導者であり、どこに人々を導いていきたいかを分かっていて、自分の考えをきちんと有権者に伝え、支持を得る能力がある人々だ」

解散の神託:カーティス教授の日本政治論文は野田総理へのお褒めの言葉と惜別の辞だ_c0196137_2148448.jpg

日本の政治指導者たちは全ての能力を欠いている

 2005年に小泉純一郎総理大臣が辞任して以来、日本の総理大臣はコロコロと変わってきた。日本の有権者の多くが小泉氏以降の総理大臣の名前を全て思い出すのは大変なことに違いない。安倍、福田、麻生、鳩山の各総理大臣は総理大臣就任後1年以内に辞任した。菅氏は彼らに比べればまだ長く、15か月間総理大臣を務めた。この時点では、現職の野田佳彦総理大臣(2011年9月就任)がいつまでその職に留まるか、誰も予測できない。

 総理大臣の約1年おきの交代よりも激しいのは、2009年秋に民主党が政権を取って以降の大臣の交代である。鳩山、菅両政権における大臣の平均在職期間は8.7か月だった。小泉政権下では、18.6か月だった。少子化担当大臣はこの2年半の間に8度も交代があった。消費者担当・食品安全担当大臣と法務大臣は、それぞれ7名ずつが務めてきた。

 民主党は、政治主導の政府を作ることを公約にして政権を獲得した。民主党初の国会議員となった鳩山由紀夫は能力がある政治家で、数年間総理の座に留まり、官僚たちを政治家に従わせ、力強い内閣が率いる政府を実現するための公約を実現させようと思っていた。しかし、就任後11か月で辞任してしまった。鳩山氏が総理を辞任した後、民主党は党内闘争のために分裂し、支持率は急降下した。

 霞が関(日本のエリート官僚たちが働いている場所)の高級官僚たち(mandarins)は、民主党が政権を取った時、防御態勢を取ったが、時間は官僚たちに有利に働くと考えた。官僚たちは、反対している政策の実行に時間をかけた。それは、遅かれ早かれ、内閣は交代するということを知っていたからだ。民主党は、各省の大臣、副大臣、政務官たちが政策を立案するということを宣伝した。これは、官僚たちをただの事務屋にするということを意味した。民主党のこの試みはあまりにも単純で、現実離れしたものであった。日本の伝統からも外れたものだった。また、現代の民主政体にはあまりにもそぐわないものだった。従って、民主党の試みは挫折した。

 野田総理は、鳩山元総理と菅前総理が持っていた官僚たちに対する辛辣な態度を取ることはなかった。野田総理は、政治家が政治において主導権を取ることを目的とする官僚制度の改革に対しての熱意を見せたことはない。その結果、官僚は、自民党政経化の時と同様に強い力を維持することになった。

 官僚たちではできないことがあるのもまた当然のことだ。省庁の垣根を越えて協力して政策を実行する、優先順位をつける、政府のプログラムについて有権者の支持と国会の承認を得るための戦略を描くなどのメカニズムは官僚制には備わっていない。こうしたことは政治指導者の責任で行われることだ。そして、こうしたことは現在の日本の政治指導者たちに欠けている部分でもある。

 野田総理は消費税増税法案を国会で通過させる決心をし、自民党と公明党と法案を通過させるための合意を結んだ。野田総理の決断と能力は、日本はついに指導者の名前にふさわしい政治家を出現させるだろうという期待を盛り上がらせるものだった。野田総理は、増税から交代することを拒否した。野田総理は日本の財政赤字をコントロールするためのプロセスを始める決心をしたことを賞賛していた外国人たちは、野田総理の不退転の決意に対して改めて賞賛を送っている。しかし、日本国民の間では、野田政権に対する支持は拡大していない。

 アメリカ大統領研究の第一人者リチャード・ニュースタッド(Richard Neustadt)は、アメリカの大統領に関する著書の中で、大統領の力を「説得する力(‘the power to persuade)」だと定義した。その中には、もちろん、人々を説得する力も含まれている。自民党一党支配と派閥政治が長く続いた。この間、政治指導者の説得する力というような類の技術は、日本では特に価値があるものとされなかった。しかし、現在の状況は全く別のものとなっている。小泉元総理は、人々の支持を得られない諸政策を実行するために人々を動かす戦略を持つことの重要性をよく分かっていた。小泉元総理は、ポピュリストになることなく、人々の人気を得た。野田総理は小泉元総理と同じ技術を持っていることをまだ示していない。

 日本の政治指導者たちがうまく働けないのは、ねじれ国会や派閥間の争いのせいではない。もちろん、これらの要素は日本の統治を困難にしているものではある。現在の日本で支持を広げている参議院の廃止や首相公選制といった機構改革をしても、日本の政治の行き詰まりは解消されないし、強力な指導者を生み出すこともできない。日本政治が機能しないことのルーツはもっと深いところにある。それは、指導者たちが国家的な目標を決められないこと、民主党も自民党も能力のある政治家をリクルートできないこと、行政改革のための現実的な戦略が存在しないことである。

 1世紀以上にわたり、日本の国家目標は、西洋諸国に追いつくことだった。1980年代にこの目標が達成されて以降、日本は何をすべきかを決定することにバタバタしてきた。そして、何も決められないでいる。

 自民党の一党支配下、効果的な政治家のリクルート体制が発達した。国会議員には、官僚としてある程度出世した人か、地方政治で長年経験を積んだ人がリクルートされていた。リクルートされた人々は、派閥に所属した。そこで、先輩の議員たちから国会での立法過程でどのように行動すべきか、野党とどのように付き合うか、エリート官僚たちとどのように関係を築くかを学んだ。

 こうしたリクルートとトレーニングのシステムは崩壊してしまった。国会議員の候補者となる条件は、それまでの政治的な経験や官僚としての経験ではなくなり、国会議員の子弟や孫であることになった。民主党は官僚制度の改革にタオルを投げてしまった。つまり、改革を諦めてしまった。

 日本は現在のような政治的な袋小路からどのように脱することができるだろうか?おそらく、時間が解決してくれるだろう。楽観主義者たちは、日本は現在、長期にわたる政治的な破壊的創造(political creative destruction)の段階にあるのだと主張するかもしれない。歴史が示すことになるだろうが、民主党が政権交代を成し遂げたことの重要性は、政権交代の可能性を高める二大政党制を確立したことではない。それは、政治の再編成のきっかけになったということである。しかし、再編成のプロセスは、たとえ出現しても、ゆっくりとし、混乱を抱えたものとなるだろう。日本に安定した、新たな政党システムが出現するまでにはこれから数年かかる。

 政治的エリートを無気力状態から抜け出させるためには、望ましくもないし危険でもあるが、日本が国際的な危機に直面することである。領土問題で中国と軍事衝突が起きること、北朝鮮の日本に対する攻撃的な態度、もしくは国際的な金融危機が再燃することなどで、国債市場は影響を受ける。劇的な政治的変化を熱望する人々は、自分たちが何を望んでいるのかということを注意深く考えるべきだ。

 日本では、社会結びつきが強く、一方で政治システムは弱い。様々な問題はあるが、国民の大多数の生活水準は高い。失業率は国際的な基準からすれば低い。国家安全保障は、アメリカとの強力な同盟関係によって守られている。

 現在の日本の政治は、外交政策の危機的状況もなく、現在の政治状況に不満を持っているが大胆な政策転換を支持するというリスクを負いたくない有権者に対応する、ということになる。従って、日本政治はこれからもしばらくは混迷を続けるだろう。長期的に見れば、より安定し、効率的な統治システムが現在の政治のもやもやした状態から脱して出現するだろう。しかし、大きな疑問は残る。それは「さしあたり、何が起きるか?」というものだ。長期的な解決策を模索し、現在必要なものに関心を持たない人々は、ジョン・メイナード・ケインズの有名な格言を心に刻み込むべきだ。「長期的に見れば、私たちは全員死んでしまう」

ジェラルド・カーティス:コロンビア大学バーガス記念教授(政治学)。東京財団上級研究員。

この記事は、イースト・エイジアン・フォーラム・クオータリー誌最新号「日本・後ろから率いていく(Japan: Leading from Behind)」に掲載されている。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


by Hfurumura | 2012-11-13 21:49 | 日本政治
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