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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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第46回衆議院議員総選挙での自民党の大勝利に思う

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



 2012年12月16日に第46回衆議院議員総選挙の投開票が行われました。12月4日に公示され、1504名の候補者たちが厳しい冬の選挙戦を展開し、その結果が判明しました。各党の獲得議席数は以下の通りです。

民主党:57(230)
自民党:294(118)
日本未来の党:9(61)
公明党:31(21)
日本維新の会:54(11)
日本共産党:8(9)
みんなの党:18(8)
社民党:2(5)
国民新党:1(3)
新党大地:1(3)
新党日本:0(1)
新党改革:0(0)
諸派:0(0)
無所属:5(9)
合計:480(合計479欠員1)

 自民党が歴史的な大勝、民主党が壊滅的な大敗北、日本維新の会が議席をほぼ5倍にする完勝、日本未来の党が惨敗という結果になりました。自民党と公明党の議席が325、これに日本維新の会の議席を足すと379ということになります。自民党は、全ての常任委員会で過半数の委員数を確保し、同時に全ての委員長ポストを確保できる衆議院の絶対安定多数(269)を単独で超えました。公明党と日本維新の会と合わせると、圧倒的多数(320)を超えます。

 私は、これまで自公維み民の米(アメリカ)政翼賛会体制になると書いてきました。しかし、ここまでの圧倒的な議席数を獲得するとは予想できませんでした。戦時下の昭和17年(1942年)の選挙では、議席数466のうち、大政翼賛会側の推薦候補が381、非推薦が85で、大政翼賛会が占める議席割合は81.75%でした。今回はそれに近い結果になりました。民主党は自民党だけでなく、新党や少数政党からも攻撃を受け、壊滅的な結果となりました。また、日本未来の党は、小選挙区だけでなく、期待していた比例でも、共産党に負けたブロックが出るほどに振るいませんでした。低投票率も相まって、組織、団体の強さということも改めて実感させられました。

 議席数は確定したのですから、この圧倒的多数で何ができるかを見ていきます。圧倒的多数は、「秘密会の開催、国会議員の除名(出席議員の3分の2以上)や憲法改正の発議(総議員の3分の2以上)、参議院で否決された場合の衆議院での法案再可決に必要な議席数」(Wikipediaから)となります。

※憲法改正の発議は、衆議院と参議院それぞれで3分の2以上の賛成があってなされます。どちらか一方の議院だけでは発議できません。

 秘密会というのは、議事や発言が公開されることが原則の会議を非公開で行うことです。現在の日本国憲法が施行されてから、本会議が秘密会として行われたことはありません。国会議員の除名について、戦後は2名の議員が除名になったそうです。戦前で有名なのは、斎藤隆夫の反軍演説による除名です。現在では、「議院の秩序をみだし又は議院の品位を傷つけ、その情状が特に重い者」が懲罰の対象となり、懲罰の一種として除名があるようです。

 私たちが中学校や高校で習ったように、憲法改正には、衆議院か参議院、どちらかの議員の総議員3分の2以上の賛成が必要となります。この場合、衆議院でも参議院でもどちらか一方が発議でき、衆議院と参議院はこの点で対等です。そして発議された憲法改正法案は、国民投票にかけられます。国民投票の有効投票数の過半数が賛成であれば、国民の承認を得たことになります。

 今回の選挙戦では、自民党の安倍晋三総裁や日本維新の会の石原慎太郎代表が、憲法改正について積極的な姿勢を示していました。そして、今回、自民党と日本維新の会の議席で320を超え、憲法改正の発議が具体的になってきました。安倍総裁は「憲法96条の改正から行う」という発言をしています。日本国憲法第96条は、憲法の改正についての条文で、「第九十六条  この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。 ○2  憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。」となっています。この条文にある「各議員の総議員の三分の二以上の賛成」の部分の「三分の二」を「過半数」にすることを安倍総裁は目指しています。これが通ると、憲法改正の発議が容易になります。

 戦後、55年体制と呼ばれた状況下では、自民党が衆議院で過半数を維持しながら、日本社会党が3分の1以上の議席を確保することで憲法改正の発議ができないということが日本政治の特徴になっていました。

 安倍総裁のこれまでの言動を見ていると、安倍氏の最終目的は憲法九条の改正であり、より具体的には、集団的自衛権の容認とアメリカ軍と自衛隊の海外での共同作戦にあります。集団的自衛権については、政府見解として、容認しないということになっています。マイケル・グリーン氏などは、「憲法改正しなくても、集団的自衛権を認めて行使することができる」という立場ですが、せっかく憲法改正の発議ができるのですから、憲法九条の改正をという話になるでしょう。その前にまずは憲法九六条の改正ということになります。手続きを容易にしてから中身ということになるでしょう。

 欧米の論稿を読んでいると、安倍氏を「タカ派(hawkish)」「ナショナリスティック(nationalistic)」「歴史修正主義的(revisionist)」であり、中国や韓国との関係の悪化がを懸念する表現が見られます。安倍氏は、中国や韓国とは対峙しながら、同時に関係を改善していくということを表明しています。安倍氏は2006年に首相に就任して、まず、中国(北京)と韓国(ソウル)を訪問して、首脳会談を行っています。これは小泉政権下で悪化した日中、日韓関係を改善することを目的としたものでした。祖父の岸信介元首相や父親の安倍晋太郎元外相以来、韓国とは良い関係を持っている家柄なのですから、安倍総裁が首相になって決意をすれば、またこのような首脳外交が行われることになるでしょう。どこまで関係が改善するかは未知数ではありますが。

 今回、安倍氏は自身が率いる自民党は294議席、連立を組む公明党と合わせると325議席という大きな力を手に入れました。これでやりたい放題ができるかと言うとそれもまた難しいです。まず、今回の大勝利は国民が自民党を支持したからと言うよりも、民主党への拒絶が大きかったと言えます。前回民主党に投票した人たちが自民党に投票したり、危険をしたりした結果です。ある欧米の論稿では、「気まぐれ(volatile)」という表現が使われていました。

 このvolatileという単語には、「揮発性の(蒸発しやすい)」という意味もあります。安倍氏は、民主党への支持が「蒸発する」様子を見ながら、この恐ろしさ、有権者の「気まぐれ」の怖さを実感されたのではないかと思います。大勝利で得た議席ですが、何かあれば、支持は失われ、「蒸発して消え去ってしまう」のです。しかし、国の内外からは、大きな力を持った安倍氏にかかる期待と重圧は大きいものです。「これだけの大きな力を得た」のだから、「これくらいのことはしてもらわないと、成功してもらわないと」ということになります。アメリカも、アジア回帰を目指しながら財政危機に直面している状況で、渡りに船とばかりに、「負担の共有」のための整備をますます求めてくるでしょう。

第46回衆議院議員総選挙での自民党の大勝利に思う_c0196137_15352241.png


 国民は、小選挙区ではランドスライドを起こして、一つの党を大勝させられるし同時に壊滅的に敗北させることができる、梃(てこ)の原理が埋め込まれた実態以上に大きな力を手に入れました。安倍氏や橋下氏の厳しい表情を見ていると、政治家たちはそのことを実感しているようです。政治家には議席数が示すほどにはフリーハンドが与えられたということではありません。しかし、国内外の期待はフリーハンドが与えられたと判断するでしょう。ここのギャップにここしばらくは苦しむことになるでしょう。アメリカからの期待(expectation)と有権者の気まぐれ(volatile)との間で。

 ここで最後に付け加えておくべきは、「有権者は賢いのか、正しいのか」ということです。「気まぐれ」という武器を手に入れた日本の有権者について、「B層」だの「バカだ」だのと言った意見が出されています。私は、理想主義的かもしれませんが、有権者は賢いし、政治家にとって恐ろしい存在であると考えています。しかし、一つ言いたいことは、それでも間違う選択をしてしまうこともあるということです。人間ですから間違うことは仕方がありません。政治の世界は一国の運命を決めてしまうのだから間違ってはいけないという無謬主義も分かりますが、それだけではいかんともできません。

 大事なことは、間違っても致命的な間違いにならない制度設計をし、よりましな選択をすることです。そして、わざと誘導されて間違わされてしまうことを防ぐことです。そのためには私たち有権者も不断の努力ということはできなくても、何でも軽く「疑ってみる」という態度をとれれば良いのではないかと思います。マスコミや政府の言っていることは何でも正しいということはありません。疑ってみる、ちょっとしたことを不思議がってみるというだけでも良いのではないかと思います。

 今回の選挙結果によって、大きなショックを受けてしまった人や日本に住んでいたくないと思った人たちもいたようですが、最後の最後まで、たとえ逃げ回ることになったとしても、日本の現実を直視することが現在生かされている私たちの使命だと思います。最後はちょっとしらけるようなことを書きましたが、私はそう思っています。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


by Hfurumura | 2012-12-17 15:35 | 日本政治
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