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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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習近平の次は胡春華だ

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社



10年後の新指導者:次の「胡」(The Next Hu)

ツゥエン・ワン(Zheng Wang)筆
ナショナル・インタレスト誌(National Interest)
2012年12月19日
http://nationalinterest.org/commentary/hus-next-7866
http://nationalinterest.org/commentary/hus-next-7866?page=1

これから10年後に習近平の次の中国の指導者は誰になるか?それは新しい「胡」である。

 12月20日の木曜日、胡春華(Hu Chunhua、こしゅんか)は、広東省の党委員会書記に任命された。また胡春華は政治局に最近入った唯一の若手である。中国共産党がこれから10年間権力を保持できたら、2022年に開催される第20期中国共産党大会が開かれるとき、胡春華が中国の指導者に選ばれる可能性が高い。

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胡春華

 今年の11月に開催された第18期党大会の後に政治局員の確定名簿が発表された。薄煕来(Bo Xilai、はくきらい)の事件を含む様々なスキャンダルは、中国共産党の内部闘争と政治局常務委員会の人選について多くの噂を生み出した。政治局常務委員に誰がなるかについて多くの考察がなされた。そして、誰が保守派で、誰が改革派であるかということが議論された。しかし、今回の権力継承において最大の勝者は胡春華であると人々は考えている。胡春華は、まだ49歳であり、習近平(Xi Jinping、しゅうきんぺい)より10歳も若い。胡春華の異例の昇進は、中国共産党の権力継承と最高指導者選びに関する秘密のルールに則ったものである。

鄧小平(Deng Xiaoping、とうしょうへい)の遺した遺産の一つは、指導者交代の際の複雑な公式である。これは、現役の指導者が自分の後継者の後継者を選ぶというシステムである。中国語では、「隔代指定(gedai zhidin)」と呼ばれる。例えば、鄧小平は、権力を移譲する際、江沢民(Jiang Zemin、こうたくみん)の後継者に胡錦濤(Hu Jintao、こきんとう)を選んだ。江沢民は、胡錦濤の後継者に習近平を選んだ。今回は胡錦濤が影響力を行使する順番なのである。

 この後継者選びのルールができた目的は、最高指導者が力を握り続けることを避けることである。そして、鄧小平は、現役の最高指導者に自分の後継者を選ばせないようにした。これは、中国共産党内部の力の均衡を維持させることにつながり、後継者をめぐる内部抗争を減らすことにも成功した。後継者を早い段階に決定しておくことで、その選ばれた人物は、最高指導者の地位就任に向けて長い時間をかけて準備をすることができる。

 胡春華は、「小さな胡錦濤」と呼ばれている。そして、胡春華の政治キャリアは、胡錦濤全総書記と大変によく似ている。胡春華は、長年チベットで党委副書記を務めた。その後、中国共産主義青年団(Communist Youth League)のトップに任命された。それから、河北省の省長となり2年後には、すぐに内モンゴル自治区の党委書記に任命された。胡春華の在任中に、河北省で汚染ミルク事件が発生したが、胡春華は昇進を続けた。胡春華は、胡錦濤が最も信頼している人物であることは明らかだ。

 中国共産党内部の年功による昇進のルールに基づき、現在の政治局常務委員7名のうち、5名が5年後には引退することになる。胡春華は、2017年の第19期共産党大会で政治局常務委員となる可能性が高い。そして、現在から10年後の第20期共産党大会で、何か大きな事件が起きなければ、胡春華は、習近平の後継として中国共産党総書記に就任するだろう。

 中国共産党は世界最大の政党である。中国共産党内部では闘争が激しく、また強力で権威を備えた指導者がいないので、年功は指導者を選ぶ際に最重要の基準となる。2012年11月に政治局常務委員会のメンバーが発表される前、権力闘争や党内の政治的な連携関係に基づいたメンバーに関する噂が流された。しかし、最終的に発表された名簿を見ると、常務委員会のメンバー選びの際に最重要の基準は年功であることがはっきり分かった。

 現在の政治局常務委員7名のうち、第18期から常務委員だったのは、習近平と李克強の2名だけだった。その他の常務委員は全て引退した。従って、この2人が自然と中国の最高指導者となった。2人以外の5名の常務委員のうち、張徳江(Zhang Dejiang、ちょうとくこう)、兪正声(Yu Zhengsheng、ゆせいせい)、劉雲山(Liu Yunshan、りゅううんさん)の3人が政治局員を2期務めた。これらの人々は、習近平と李克強以外の政治局員たちよりも年齢が上である。彼らの年齢が上であることが常務委員に任命された理由なのである。王岐山(Wang Qishan、おうきざん)と張高麗(Zhang Gaoli、ちょうこうらい)は、今回常務委員への昇進がなかった汪洋(Wang Yang、おうよう)と李源潮(Li Yuanchao、りげんちょう)よりも年齢が上である。王岐山と張高麗は中央委員への選出が現在の政治局員たちより5年も早かった。

 年齢は重要である。鄧小平以来、中国共産党は、引退について固定したルールを設定している。68歳になった人物は、政治局常務委員にはなれない。66歳の張高麗と64歳の王岐山が政治局常務委員に昇進していなければ、彼らはこれから5年後の第19期党大会で引退することになっただろう。他方、57歳の汪洋と62歳の李源潮は第19期党大会では、まだ政治局常務委員になることができる。年功を尊重する文化では、これは人々の納得を得やすい習慣である。

 唯一の例外は、女性政治局員の劉延東(Liu Yandong、りゅうえんとう)である。彼女は張高麗よりも一歳年上である。彼女が政治局常務委員になれなかったのには2つの重要な理由がある。第一に、中国共産党の歴史上、女性で政治局常務委員になった人はいない党ことだ。更に、劉延東は目に見える業績を達成した指導者ではなく、女性初の政治局常務委員にふさわしくないということになった。第二に、他の男性の同僚たちに比べ、彼女のキャリアは中身が薄かった。彼女は、都市や省の長や経済発展部門の指導者を務めた経験がない。劉のキャリアのほとんどは、中国共産主義青年団と統一戦線に集中している。従って、政治局常務委員会に彼女に適した地位は存在しなかった。中国政治協商会議主席には彼女よりも年功が上の兪正声が就任することは既に決まっていた。劉延東が今回の人事を受け入れたのは、年齢が理由であることで説明がつく。

 新しい政治局にはもう一人の「若手」がいる。それが孫政才(Sun Zhengcai、そんせいさい)である。孫政才は、胡春華と同い年で、重慶市党委書記に任命されたばかりである。年齢のことを言えば、胡春華と孫政才は、他の政治局員に比べてかなり若い。孫政才は、2023年に李克強の次に国務院総理になると考えられている。胡春華を広東省に配し、孫政才を重慶市に配していることには重要な意味がある。経済と政治の面で、広東省は重慶市よりも重要である。このような配置は胡春華が中国の最高指導者の後継者であり、孫政才は彼の下につくということを確かなものにしている。

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孫政才

 第18期共産党大会での指導部交代で分かったことは、海外の中国ウォッチャーたちが中国共産党内部の抗争のインパクトを強調しすぎるということだ。内部の情報筋によると、薄煕来のスキャンダルが発生する前に、政治局常務委員会の名簿は決まっていたということだ。政治局常務委員会の定員が9名から7名に減ったことは、評判が悪い薄煕来が常務委員になれないようにする意図があったようである。薄煕来は63歳で、政治局常務委員会の定員が9名のままだったら、年功のことを考えると、常務委員になっていた可能性は高い。

 年功、年齢の基準と自分の後継者の後継者を選ぶという指導者選抜のルールはあるが、これは中国共産党内に内部抗争がないということを意味していない。しかし、内部抗争があることで、中国共産党がこうした基準を使うようになっているのだ。それは、より大きな混乱を避けるためだ。中国共産党では投票で指導者を選ばない。また、各指導者は様々なキャリアを経験しているため、実績を評価することは難しい。年功や指導者選抜のルールを使うことは、指導者に選ばれなかった幹部たちが人事を受け入れることができるために必要だ。これまでのところ、江沢民から胡錦濤、胡錦濤から習近平へ指導部の交代はスムーズに行われている。これから10年後に年功に基づいた同様の指導部交代が起こるかどうかを見るのは興味深い。胡春華はきっと同じような指導者交代が行われることを希望しているに違いない。

※ツゥエン・ワン博士:ウッドロー・ウイルソン国際研究センター研究員(公共政策)、シートン・ホール大学助教授。

(終わり)

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所


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