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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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日本の未来のヴィジョンを示せ:総選挙に向けての日本政治論

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



日本の国民投票(A Referendum for Japan)

シーラ・A・スミス(Sheila A. Smith)筆
外交評議会(Council on Foreign Affairs)
2012年11月20日
http://blogs.cfr.org/asia/2012/11/20/a-referendum-for-japan/

 日本の政治家たちは立法に関する、頭を使う仕事から解き放たれ、総選挙に向けての準備にまい進している。総選挙は2012年12月16日に投開票が行われる予定だ。マスコミは、政治家たちが党を移籍し、新党が次々と結成され、大政党に挑戦する様子に焦点を当て報道している。野田佳彦首相と評判の悪い与党、民主党に対する厳しい批判が起きている。しかし、今回の総選挙が民主党に対する国民投票だと考えるのは、重要なポイントを見逃すことになる。今回の総選挙はこれからの日本のための選択を形作るものとなる。

 民主党が政権を取って以降、自民党をはじめとする野党は総選挙に持ち込もうと多大な努力をしてきた。内閣に対する不信任が国会で何度か採決された。一度などは、民主党の小沢一郎と自民党の谷垣禎一総裁との間で取引がなされ、採決が行われたこともあった。選挙の実施を求める野心は政策討議の中ではっきりと見え、民主党と自民党との間で成立した政策に関するコンセンサスは幻影であることは明らかとなった。

 現在、政治家だけが興奮状態にある。個人の忠誠心が試されている。そして、野田佳彦首相率いる民主党に属する政治家たちさえも、次の選挙に向けて新しいパートナーにすり寄っている状況である。民主党と自民党の国会議員たちは、関心や感情の面から言えば、そんなにかけ離れていないと考えられている。この考えがこれから起こる政界再編の基礎となる。多くの日本人にとって、一党支配は、日本政治が抱える問題の一部であり、一党支配の終焉は望ましいことである。日本の有権者と政治家たちは、一党支配を終わらせるには、新党を立ち上げ、穏健で、しっかりとした統治を行う方向に持っていくことであると考えているようだ。

 現在の日本政治の潮流を見ていて、大連立というアイデアが実現することは難しいのではないかと私は考えている。第一に、民主党自体が大連立の末にできた政党であるという事実を見逃している。民主党は自民党の長期にわたる支配に対抗できる、現実的な政党を作りたいと望んだ政治家たちの連立(連合)なのである。民主党という形になった連立は、政権を取った後、運営が大変難しかった。第二に、民主党の所属議員の減少は、今年の7月に小沢と彼と共に行動した人々が離党という決断をしたことで起きたことだ。そして、党所属の議員数が減少したことで、民主党は弱体化したのではなく、強化されたのである。全ての名前を挙げることはできないが、民主党に残った野田佳彦、岡田克也、玄葉光一郎、前原誠司、枝野幸男、古川元久、細野豪志たちを含む民主党に残った議員たちは、彼ら自身を改革者として考えており、与党として政権運営を行うことで大きな経験を積んだ。民主党は幹部たちによって決定がなされているということを考えると、彼らが自民党と一緒になりたいと考えているとはにわかには信じがたいものがある。

 より重要なことは、新しい政党が次々と結成されていることだ。日本政治が今でもまだ凝集ではなく分裂を続けているという印象を私は持っている。これらの新党の目的は、選挙後の新しい(連立)政権で影響力を持つことである。短期的に見れば、このプロセスの第一の被害者は民主党であり、民主党から多くの政治家が離党し、「勝ち組」に入る機会を狙うか、民主党に反対する道を選ぶかしている。各世論調査によると、民主党と新しく結成された日本維新の会が支持率では並んでいる。この両党は支持率が15から16%を推移し、自民党は約23%の支持率を得ている。従って、自民党が12月16日の選挙で最大の議席を獲得するということになると、連立の相手を選ぶことができる。

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 安倍晋三自民党総裁は野田首相の次に首相になる可能性が最も高いと考えられる。安倍氏は連立政権を率いていけるだけの能力を持っていることを示す必要がある。自民党は現在定員480の衆議院で118の議席を占めているが、この議席数を拡大しなければならない。自民党が過半数を占めると予想している人はいない。しかし、自民党の獲得議席の大きさによって、どのような形の連立政権になるかが決まる。

 日本政治が自民党一党支配の古い時代に戻ることは考えられない。しかし、興味深いのは、自民党が野党だった3年間で学んだことである。石破茂幹事長は、自民党がいつものように政権の座に復帰できるなどと期待してはいけないと同僚たちに明言している。今回の選挙で新人たちが多く当選してくると予想されるが、彼らは、古いルールに従うとは考えにくい。こうした自民党に新しく参加してくる議員たちは、石破チルドレンということになるだろう。2005年の小泉チルドレン、2009年の小沢チルドレンのようなものだ。新人たちは議員の1期目から目に見える成功を収めて、人々の支持を得て再選されることを望むだろう。更には、政策通でカリスマ性のある、若きスターである小泉進次郎のような若手たちもまた、古い自民党のヒエラルキーが復活することを望まないだろう。

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 民主党と同様、新しい自民党もまた改革のエネルギーを充てんさせて政権運絵鵜を行う必要がある。自民党は政治的エネルギーをどこに集中させることになるのか?民主党の「実験」をあざ笑うだけでは、エネルギーは無駄に使われることになる。日本に政治改革が必要であるのは明らかだ。そして、各新党は、政治改革を達成するために、過激なものから過激ではないものまで様々な提案をしている。民主党が政権を運営し始めた時、透明性と説明責任についての新しい考えを持っていた。これらの考えは日本の有権者たちに受け入れられた。彼らは既得権益を守ることに汲々としている官僚たちや党内にしか目を向けない政治家たちに対して不満をつらせていた。プロセスを変える程度のことが政治改革のゴールとはなり得ないのが現状である。

 現在の日本は、複雑な、そして矛盾した様々な問題を抱えている。その問題の多くは経済に関することであり、この点では、日本は他の先進工業国と変わらない。しかし、そうした問題の中には、日本経済に特有のものであり、日本独自の優先事項もある。そして、これらの問題は、大きく変化し、今でも変化を続けている世界経済の中で、どのように日本経済を活性化させるかということでもある。高齢化社会も問題であるし、この高齢化社会に対応する社会インフラも完全に整備されておらず、利用しにくい状況にある。戦略的に見て、日本は、10年前とは全く異なる位置にある。そして日本が世界の中でどのような位置を占めるかは、国内をどう組織するかにかかっている。国内の組織化が決定や選択肢の熟慮において重要なのである。しかし、それは、日本の選択について注意深い分析も必要であり、その選択の中にはアメリカとの同盟関係と近隣諸国との間の悪化した関係も含まれる。

 日本の国家政策に活気を与えてきた社会のパターンのいくつかが現在の日本から姿を消している。現在の若い日本人たちは親の世代とは志向や選択が全く異なる。日本が反映するためには、女性たちがもっと指導的な立場に就く必要がある。日本の女性と若者たちが最優先であると考えるものを最優先の課題にすることが現在最重要である。そして、女性と若者たちを政治のプロセスに参加させることだけが、才能を動員し、政治をより良い方向に動かすことにつながる。

 最近の世論調査の結果によると、日本国民の多くが次の総選挙には投票に行くと決めているそうだ。2009年、人々は日本政治の改革を望み、それが新しい民主党に対する大きな支持となり、選挙結果に反映された。現在、その当時にあった改革志向が消えたということはない。実際のところ、人々の改革志向は増大している。2011年、人々は歴史的な大災害に苦しんだ。三重の災害、地震、津波、原発のメルトダウンに苦しんだ。これらの災害は日本の根幹を揺るがした。約2万人が命を落とし、50万人以上が避難しなければならなかった。人口3000万の巨大都市東京は原発からの放射能の危険が差し迫ったことになった。

 日本は回復力と国の誇りを持っているかを試されている。今回の選挙を通じて日本の未来がどのようなものになるかが示されることになる。しかしながら、日本の政治家たちは、過去の分裂を引きずっている。また、日本の未来のヴィジョンを示す能力も低下しているようだ。

 2012年12月16日の総選挙は、日本の未来についての国民投票となるだろう。そして、日本の有権者たちは未来についての考えとヴィジョンを基準として次の政権を選ぶ必要がある。未来についての考えとヴィジョンが社会を前進させる。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


by Hfurumura | 2012-12-22 14:53 | 日本政治
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