翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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カテゴリ:アメリカ政治( 66 )

砕けた文体ではあるが真面目なヒラリー論:ネイション誌から

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



 今回は、前回に引き続き、ヒラリー・クリントン国務長官についての文章を皆様にご紹介します。今回の文章は前回と異なり、ヒラリーに対して辛辣な内容になっています。砕けた文体ですが、ヒラリー(とその周囲の人々)が何をやって来たかの一端が分かる内容になっています。アメリカ人による、ヒラリーに対する辛辣な惜別の辞になっています。もう一つ付け加えるなら、この2つの文章の作者はオバマ大統領を評価していますが、この部分は、ジョー・バイデン副大統領と読めばより正確になると思います。どうぞお読みください。

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戦争狂いのヒラリー・クリントンを厄介払いできて良かった、良かった(Good Riddance to Warmonger Hillary Clinton)

ロバート・ドレイファス(Robert Dreyfuss)筆
ネイション誌(The Nation)
2013年2月4日
http://www.thenation.com/blog/172635/good-riddance-warmonger-hillary-clinton

ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)にあまり心はこもらないが、とりあえず、さようならと別れの言葉を言えるのは幸せなことだ。ヒラリーを「厄介払い」という言葉は強すぎる、もしくは攻撃的すぎるだろうか?しかし、ヒラリー・クリントン国務長官は過去4年間、オバマ政権のタカ派的な面を象徴してきたのだ。

 最新の証拠:ニューヨーク・タイムズ紙は、ヒラリー・クリントン国務長官の在任期間の検証をしている。その中で、ヒラリーについて、ある事実が明らかにされた。ヒラリーは、デイヴィッド・ペトレイアス(David Petraeus)元CIA長官と一緒になって、アメリカが直接、シリアの反政府勢力に武器を供与し、トレーニングを施すように提案した。

 ありがたいことに、クリントン・ペトレイアスのコンビの提案はは、ホワイトハウスによって覆された。

 実際のところ、2009年以来、外交政策は、国務省ではなく、ホワイトハウスで立案されてきた。

 しかし、ニューヨーク・タイムズ紙は、「クリントンは戦争狂い(warmonger)だった」と報じている。

 昨夏、シリア国内での戦闘が激化し、アメリカが動かないことへの疑問が人々から出されるようになった。この時、ヒラリー・ロドハム・クリントン国務長官は、デイヴィッド・H・ペトレイアスCIA長官と私的に会談した。そして、2人はシリアの反政府勢力に武器を供与するという計画を立てることになった。

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 2人の考えは、反体制勢力の各グループについて綿密に調査をし、戦闘員たちにトレーニングを施し、武器を与えるというものだった。この計画にはリスクがあった。しかし、シリアの反体制勢力と、内戦中、そしてバシャール・アル=アサド大統領を追い落とした後、アメリカの同盟者として協力していくことができるという利益があった。

 オバマ政権内のある人物によると、クリントン国務長官とペトレイアスCIA長官は、ホワイトハウスにシリアの反政府勢力への武器供与計画を提出した。しかし、ホワイトハウスはリスクを憂慮した。また、オバマ大統領は再選に向けて動いていた。そのため、彼らの計画は却下された。

 ボブ・ウッドワードは、著書『オバマの戦争』の中で、「クリントン国務長班は、アフガニスタンに対しても、タカ派的な態度を取っていた」と書いている。クリントン国務長官とスーザン・ライス米国連大使は、2012年のアメリカとNATO共同の空爆を主導した。

 シリアの反アサド勢力は大変危険である。寄せ集めのギャングや軍人志望者たちに率いられている。イスラム過激派やその他のテロリストグループも入っている。勢力の中から「穏健派」を見つけ出すことは、不可能ではないが難しい。このような勢力に武器を供与して、過激派に横流しされないだろうと考えるのは間抜けだ。

 ラムジー・マーディニがニューヨーク・タイムズ紙の論説ページで、シリアの反政府勢力について次のように書いている。

 「71名からなる反体制派連合にはシリア国民評議会のメンバーが多く参加している。彼らはシリア政府と交渉することを望んでいない。しかし、権力を掌握する準備も全くできていない。彼らが直面しているのは逃亡であり、最悪のケースは、国の分裂である。自分たちの目の前の小さな利益が優先されている。イスラム主義者たちは世俗主義者たちを押さえつけている。国外に逃げていた反体制派の人々はシリアの人々を食い物にしようとしている。反体制派連合の中に信頼を置ける人々はほとんどいない。

 マーディニはまた次のように書いている。「反体制派連合は、イスラム過激派を数多く抱えている。そして、女性やシリア国内の少数派の人々はほとんど参加していない。ロシアと国連の調停官ラフダール・ブラヒミが主導して、反体制派とアサド大統領の政府の交渉を行わせようとしている。強硬な反アサドのギャングたちの多くにとって、調停は呪いのようなものなのだ」

 マーディニの結論について私は同意する。

 シリアにとって最高の希望となるべきは、軍事的な勝利ではなく、政治的な解決である。しかし、国民を代表する反対(野党)勢力が存在しない状況下では、この願いは、かなえられないだろう。

 ありがたいことに、ペトレイアスは失脚した。オバマ政権内のタカ派、ヒラリー・クリントンも政権を去った。

 ジョン・ケリー(John Kerry)国務長官がそこまでバカではないことを祈ろう。

=========

オバマ大統領が、ヒラリー、ペトレイアス、パネッタ、デンプシー大将が共同でていあインしてきた「シリア戦争計画」に反対した(Obama Opposed Syria War Plan from Clinton, Petraeus, Panetta, Gen. Dempsey)

ロバート・ドレイファス(Robert Dreyfuss)筆
ネイション誌(The Nation)
2012年2月8日
http://www.thenation.com/blog/172774/obama-opposed-syria-war-plan-clinton-petraeus-panetta-gen-dempsey

 ホワイトハウスとオバマ大統領には個人的に評価を与えたいと思う。オバマ大統領は、政権内のタカ派たちがシリアでの戦争にアメリカを参加させようとしていたのを阻止したのだ。

 先週、私たちは、ヒラリー・クリントンとデイヴィッド・ペトレイアスが、シリアの寄せ集めの反政府勢力に武器とトレーニングを与える計画を練っていたことを知った。この計画は、アメリカをシリアの悲惨な内戦に直接関与させるものとなるはずだった。有難いことに、ヒラリーもペトレイアスもそれぞれCIA長官と国務長官の座から退き、家族とより多くの時間を過ごす決断をしてくれた。

 レオン・パネッタ(Leon Panetta)国防長官とマーティン・デンプシー(Martin Dempsey)統合参謀本部議長は、クリントン・ペトレイアスの提案した計画を支持した。彼らもまた退任が決まっている。

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シリアでの戦争計画に反対したのは誰か?オバマ大統領だ。

 上院軍事委員会の公聴会の場で、好戦的なジョン・マケイン上院議員の質問によって、「爆弾による革命(bombshell revelation)」がどのように進められようとしていたかが明らかになったとニューヨーク・タイムズ紙は報じている。

 マケイン上院議員は次のように発言した。「国防総省は、アメリカがシリアの反政府勢力に武器を供与するというクリントン国務長官とペトレイアスCIA長官の提案を支持しましたか?あなた方は支持しましたか?」

 「私たちはシリアの反政府勢力への武器供与を支持しました」とパネッタは述べた。

 「統合参謀本部もそうですか?」とマケインは質問した。

 「そうです」とデンプシー大将は答えた。

 パネッタ国防長官、ヒラリー・クリントン国務長官、ペトレイアスCIA長官、デンプシー統合参謀本部議長は連合を組んでいた。これにスーザン・ライス国連大使も加わっていた。そして、彼らはシリア戦争計画を進めようとした。しかし、オバマ大統領がこの計画を阻止したのだ。

 マケインは、怒りのために顔を真っ赤にしながらがなり続けた。「オバマ大統領は政権内の国家安全保障チームのリーダーたちの提案を却下した。彼らはシリア国内の軍事的なバランスを変えるためにアメリカがより関与するという考えで一致していたのだ」

 その通りですよ、上院議員。

 このことの重要性は強調しすぎるということはない。マケインの発言内容は、オバマ大統領が将軍たち、タカ派の人々、国防総省、そしてネオコンに対峙していたことを示す貴重な証言である。こうした人々は、オバマがシリアを見捨てたと盛んに批判している人々である。

 脚注:ポーラ・ブロードウェルと彼女が巻き込まれた三角関係に感謝すべきだろう。フロリダの社交界の花形と前CIA長官との不倫が、アメリカをシリアに関与させる計画を葬り去ったのだ。歴史に残っていく話だろう。

ペトレイアス氏が、不倫が原因でCIA長官を辞任し、クリントン国務長官が脳震盪で倒れ、数週間職務を休んだ時、問題は自然消滅したのだ。

ポーラ、どうもありがとう!

 また、オバマ大統領の決断がヒラリーたちのアイディアを葬り去ったのだ。

 パネッタ国務長官もデンプシー大将もオバマ大統領がどうして彼らの勧めを受け入れなかったのかを説明しなかった。しかし、複数の政府関係者の証言を総合すると、ホワイトハウスは、シリア危機により深く関与してしまうというリスクを憂慮したということだ。その中には、アメリカが供与した武器が横流しされてしまうということも含まれていた。

 シリアに関与するというアイディアはこれからも実行されないことを願っている。ジョン・ケリー、チャック・ヘーゲル、ジョン・ブレナンといった皆さん、聞いていますか?

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


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by Hfurumura | 2013-02-09 21:55 | アメリカ政治

最後まで自説を曲げなかったヒラリー:アトランティック誌から

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社



ヒラリー・ドクトリン(The Hillary Doctrine)

デイヴィッド・ロード(David Rohde)筆
アトランティック誌(The Atlantic)
2013年1月25日
http://www.theatlantic.com/international/archive/2013/01/the-hillary-doctrine/272511/

 党派の戦いの場である議会の場はやはり一流の人間が集まる場所であった。ランド・ポール(Rand Paul)上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)は、「可能ならば、ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)を首にする」と言い放った。ロン・ジョンソン(Ron Johnson)上院議員(ウィスコンシン州選出、共和党)は、ベンガジ事件に関し、オバマ政権はアメリカ国民を間違った方向に導いたと主張し、ヒラリー・クリントンは怒りをもって反論した。ジョン・マケイン(John McCain)上院議員(アリゾナ州、共和党)は、国務省が職員の安全に関してぞんざいな対応をしていたことに怒りを持ち続けている。マケインの怒りは正しい。

 議員たちは様々な態度を取っている。しかし、一つの疑問が浮かび上がってくる。それは、「北部、西部アフリカを席巻した武装勢力とアメリカは対峙しなければならないが、そこにどんな戦略があるのか?」というものだ。ヒラリーは、マケインとの緊張感あふれるやり取りの中で、次のような悲しくなる発言をした。

 「私たちは一致団結してことに臨まねばなりません」

 アメリカの政治家たちはアメリカの外交官たちの安全に関心を集中させている。これは正しいことだ。一方で、アフリカのイスラム教系のテロリストたちと戦ううえで重要なのは地元の政治家と軍隊だ。アメリカと同盟諸国はイラクとアフガニスタンで警察と軍隊のトレーニングを行ってきた。現在、その成果が試されているところだ。アフリカでもまた試される日が来るだろう。

 フランスがマリに介入して10日後、西アフリカの国であるマリでも私たちアメリカ人にはお馴染みのパターンが出現しつつある。アメリカ人ジャーナリストのピーター・ティンティは、電話インタビューの中で、ディアバリの住民たちがイスラム聖戦主義者たちをディアバリから退散させたフランス軍の空爆の後に「興奮」していた様子を語った。

 「地元の人たちはフランスの空軍能力が凄いことについて話したがっていた。地元の人たちによると、フランスの戦闘機はテロリストのトラック群は攻撃し破壊したが、近隣の住宅には被害を及ぼさないほどだったそうだ。彼らはフランス空軍の正確な攻撃に驚いていた。私が知る限り、公式には非戦闘員から死傷者が出ていないようだ」

 このような成果の後には、えてして人道主義による介入が起きる。外交官たちと海外支援の活動家たちは、介入後、世界の善意と影響力が最高潮に達する最高の瞬間について語る。1995年、NATOはセルビア人勢力に最初の空爆を加えた。この時、ボスニアのイスラム教徒たちは喜んでいた。2001年、アメリカはアフガニスタンに攻撃を加え、タリバンを追い落とした。この時、アフガニスタンの人々も喜びを表明した。2003年、アメリカはイラクに侵攻し、サダム・フセイン大統領を警護する共和国防衛隊を壊滅させた。この時、イラクのシーア派の人々はアメリカを応援した。問題は、このようなことが起きた後に何が起きるのかということだ。

 水曜日に行われた公聴会で、ヒラリー・クリントンは彼女の中にあるジレンマを次のように語った。

 「世界でアメリカ軍の能力と勇敢さに匹敵する軍隊は存在しません。しかし、私たちが直面している問題の多くは、軍事力だけですぐに、完全に解決できるということはありません」

 ティンティは、ジャーナリストになる前、マリ北部で平和部隊(Peace Corps)のヴォランティアをしていた。ティンティはマリ国内の政治状況がアフガニスタンとよく似ていると指摘している。イスラム聖戦主義者たちは国内では人気がないが、政府は弱体化している。マリの地方幹部の多くが国民の信認を失っている。マリ軍と治安維持部隊は機能不全に陥っている。トゥアレグ族やその他の人々は自治権を要求しているが、長年にわたり実現していない。そして、ヨーロッパへコカインを輸出する麻薬取引がこれら全てを悪化させている。

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 ヒラリー・クリントンは、公聴会で、ソマリアとコロンビアがマリにとっての良い具体例になると発言した。クリントンは、「アフリカ連合(African Union)によるソマリア・ミッション(AMISOM)」に対してアメリカは資金援助を行っており、これが徐々にではあるが、アル・ハシャブやその他のイスラム原理主義勢力の駆逐に役立っていると主張した。コロンビアでは、コロンビア政府がコロンビア革命軍と麻薬組織の駆逐に成功しつつある。

 ソマリアでもコロンビアでも後退している部分はあり、努力が完璧な形で実を結んでいるという訳ではない。しかし、国際社会からの資金援助とトレーニングを受けている地域の警察や治安維持部隊は徐々にではあるが、成果を出し始めている。

 クリントンは公聴会で次のように発言している。「私たちがやらねばならないことは、長期にわたり、北部、西部アフリカにとどまり、問題解決に努力しなければならないと認識することです。これは、アメリカが歴史的に無視、もしくは軽視してきた地域に注意を払わねばならないということを意味しているのです」

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 熱を帯びたやり取りの中で、マケインは、ヒラリーとオバマ政権に対して、リビアの軍隊と警察に十分なトレーニングをしてこなかったと批判した。ヒラリー・クリントンは、この批判に対して、オバマ政権は、リビアの治安部隊へのトレーニングに対する予算を求めたが、連邦下院の共和党が請求を拒絶したのだと反論した。

 「リビアの軍隊と警察をしっかりとしたものとするためにリビア政府を手助けすることが最優先事項であり、私たちがそれに本気で取り組もうとするならば、私たちは協力しなければなりません」とヒラリー・クリントンは述べた。

 ヒラリーの述べたことが正しい。また、マケインの批判も正しい。議会での政治的な駆け引きが国務省の邪魔をしたのだ。そして、国務省はベンガジで大きなミスを犯した。私はこれまでクリントンを批判してきた。しかし、ヒラリーは、中東における脅威については正しい認識を持っている。

 ヒラリー・クリントンは中東を席巻している変化に言及し、次のように述べている。「私たちは新しい現実に直面しています。私たちは誰も予想しなかった事態に対応しなければなりません。そして、私たちは新しい現実と共に生きていかねばなりません」

 ヒラリーは、アメリカが海外では「謙虚さ」を示し、国内では、国家安全保障問題を「政争の具」にしてしまうことを止めるように求めた。ヒラリーは、アフリカとアラブの春が一段落した中東地域において、治安維持のための警察力を強化し、民主政治体制を促進するためにアメリカが長期にわたり関与するために、冷戦期のような超党派の合意が必要であると述べた。

 ヒラリーは、ソマリアとコロンビアに言及しながら、次のように述べた。「私たちは賢くならねばなりませんし、過去の教訓から学ぶ必要もあります。私たちは政権が代われば変更されてしまう政策を遂行するのではなく、一つの全く同じ政策を遂行していく必要があります」

 ヒラリーは更に次のように語っている。「私たちは世界で誰も持っていない政治力、経済力、軍事力を持っています。しかし、私たちはこのような力を最も効果的に使う方法を知ろうとせずに、横道にそれてばかりいます」

 「横道にそれている」とは、国家安全保障を危険にさらす党は争いについてのヒラリー・クリントン独自の婉曲表現である。もしアメリカが一つにならなければ、ベンガジ事件のようなことは更に起こることになるだろう。

(終わり)

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所


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by Hfurumura | 2013-02-07 19:48 | アメリカ政治

ネオコンは死なず:ナショナル・インタレスト誌から

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



マルコ・ルビオとネオコンの復活(Marco Rubio and the Neocon Resurgence)

ジェイコブ・ハイルブラン(Jacob Heilbrunn)筆
ナショナル・インタレスト誌(National Interest)
2013年1月24日
http://nationalinterest.org/blog/jacob-heilbrunn/marco-rubio-the-neocon-resurgence-8016
http://nationalinterest.org/blog/jacob-heilbrunn/marco-rubio-the-neocon-resurgence-8016?page=1

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フロリダ州選出の共和党所属連邦上院議員マルコ・ルビオ(Marco Rubio)は、次の大統領選挙出馬の準備として、小さいが重要な動きを行った。それは、ルビオがジェイミー・M・フライ(Jamie M. Fly)を国家安全保障担当補佐官として雇った。フライは、シンクタンクのフォーリン・ポリシー・イニシアチヴ(Foreign Policy Initiative)の事務局長を務め、ジョージ・W・ブッシュ(子)政権に参画していた。これはなかなか賢い決定であった。それは、イラク戦争が失敗だったとは認めることを拒否し、ネオコンが支配している共和党向けには賢いということではあるが。ネオコンが、外交政策について議論を行う際の決まりきった定型文を作っている。共和党内部をネオコンが支配している状況では、共和党内で外交政策に関する議論、内輪もめさえも起こすことができないでいる。ネオコンは共和党内部をこれまでよりも完全にコントロールしているようである。

フォーリン・ポリシー・イニシアチヴ(FPI)は2009年にウィリアム・クリストル(William Kristol)によって創設された。その目的は、有望な若手を訓練することだ。この組織は目的を達成したように見える。FPIは、ニューヨークに1か所、ワシントンに2か所のリーダーシップ・プログラムを作った。フライは、手堅い手腕と熱意にあふれたネオコンであり、シリア、アフガニスタン、イスラエルといった幅広い外交政策に関する諸問題で強硬な発言を繰り返している。昨年の秋、フライは『フォーリン・ポリシー』誌で次のように書いている。

「オバマ大統領は、同盟諸国を疎外し、専制国家に対する国家を代表して発言することを失敗している。オバマ大統領はアメリカの国益を脅かす暴政国家に関与し、異議申し立てを無視してきた。イランが核兵器開発能力を手にする日はだんだん近づいている。アメリカと同盟国イスラエルとの間の不協和音は大きくなっている。そして、テロリストによるアメリカ国民や政府関係者たちへの攻撃計画は、イラン政府の指令に基づいて次々と立てられている」

フライがマルコ・ルビオのスタッフに参加したことは、共和党内にネオコンの影響力が残っていることを示している。そして、ウィリアム・クリストルが自分の片腕を共和党内部で地位を得させることに成功したことも示している。

 フライは、ゲイリー・シュミットと共著で、『フォーリン・アフェアーズ』誌に記事を掲載した。この記事の中で、フライは、アメリカがイランを攻撃することを求めている。記事の中から引用する。

「限定的な軍事攻撃が一時的であるが、有効な解決策である。しかし、核兵器開発プログラムを阻止したいとアメリカ政府は考えているのに、実際には反対のことを行うことになる。イラン政府は核兵器開発プログラムを地下に潜らせ、アメリカとアメリカの同盟諸国に脅威を与える能力を保持している。それをアメリカは許しているのだ。アメリカは軍事行動の採用について真剣に考える場合、イランの核開発プログラムにだけ攻撃するだけではなく、イランの現体制を不安定にするべく攻撃することが必要だ。それによって、イランの核開発危機を一気に解決することにつながるのだ」

 残念なことに、空爆を行っても、体制変革(regime change)が起きるという保証はない。どれほど大規模な空爆を行っても、体制変革が起きないこともある。オリバー・ノースはかつてイラン・コントラ事件について述懐した時、攻撃が体制変革につながるとは限らないという考えを「きちんとした考え」と評した。アメリカによる空爆によって、中東地域を混乱に陥るか、イランの現体制を強化するという結果で終わることもある。ルビオは、自分の領分をはっきり区分している。外交問題に関して言うと、敵を作らないようにという意図を持っている。ルビオの決断は他の大統領選挙立候補希望者たちにも影響を与え、彼らがネオコンを自陣営に招くこともあるだろう。そして、大統領選挙の予備選挙と本選挙での焦点となる可能性もある。

『ニューヨーカー』誌にジル・レポーレによる重要な記事が掲載された。その記事によると、冷戦終結後、アメリカの軍事的な立ち位置について再評価はなされてこなかったということだ。レポーレは、ボストン大学のアンドリュー・J・バセヴィッチ(Andrew J. Bacevich)教授の文章を引用している。この部分は単純ではあるが重要である。バセヴィッチはアメリカの軍事中心主義(militarism)に対して批判的な人物として有名である。

「アメリカは地理的に言えば、2つの大洋によって世界から隔絶されているが、同盟諸国に囲まれている。アメリカは地理的に見て、偶然の結果ではあるが、地上で最も堅固に守られている国である。それにもかかわらず、太平洋戦争終結後の約60年間、約30万のアメリカの将兵が海外に駐留してきた。ドイツには5万5000人、日本には3万5000人、イタリアには1万人が駐留している。連邦政府の「国防」予算とは言っているが、国境警備やアメリカ国民警護にはそこまでのお金が投入されてはいない。それどころか、アメリカ軍は、アメリカの外交政策を補強しているのだ。

 これは否定しづらいものだ。オバマ大統領はイラクからアメリカ軍を撤退させ、アフガニスタンからも撤兵させつつある。しかし、アメリカの国外における軍事力と目的についての基本的な議論は、オバマ政権内でも連邦議会でも行われていない。これまでの20年間のことを懐かしむ人は、アメリカは冷戦期に持っていた精神を現在でも保つべきだと考えているようだ。中国とイスラム教徒のテロリストが冷戦期のソ連の代わりになっている。また、冷戦期の主張が現在もなされていることもある。体制変革のような考えを現在でも主張しているのはネオコンである。しかし、レポーレが書いているように、アメリカ国民の中で、そのような暴力を伴う政策に対して違和感を持っている。しかし、アメリカ軍に対しては違和感を持っているということではない。「年若い帰還兵への対処が重要になっている。2011年にピュー・リサーチセンターが行った調査によると、アフガニスタンとイラクからの帰還兵のうち、半数がアフガニスタン戦争は戦う価値のないものだと考えている。約60%はイラク戦争も戦う価値のない戦争だと考えている」アメリカ国民は、イラン、シリア、その他の紛争地域に軍事介入すべきではないと考えているのは疑いようのないところだ。しかし、アメリカ国民のこのよう気持ちは共和党内部では反映されていない。オバマ大統領は、二期目では軍事よりも外交を優先するという姿勢を見せている。これに対して、ネオコンは、オバマ大統領が小心過ぎると非難している。1月22日にPBSのテレビ番組に出演したアメリカ・エンタープライズ研究所のダニエル・プレツカは、オバマ政権を激しい言葉づかいで非難した。プレツカは、アメリカの安全に対する多くの脅威を無視していると主張した。

「私は、全体の流れはトラブルだらけということになっているように思う。ベンガジ事件は、オバマ政権の後退政策を象徴したものである。また、オバマ政権がアルカイーダからの挑戦に対処したくないという姿勢が招いたものだ。オバマ政権がアルカイーダに対して消極的なのは、アルカイーダが北アフリカ、リビア、マリ、アルジェリアだけで活動している訳ではないからだ。アルカイーダは、イエメン、シナイ半島、イラク、南アジア、アフガニスタン、パキスタンでも活動している。アルカイーダに対処するには世界中に出なければならないが、オバマ大統領はそれに対して消極的なのだ」

言い換えるならば、脅威というのはどこにでもあり、全く予想しない場所にすらある。マルコ・ルビオはネオコンをこんなに早い時期から支持することを表明した。しかし、共和党がネオコンに支配され続ける限り、次の選挙でも敗北することになるだろう。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


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by Hfurumura | 2013-01-26 18:13 | アメリカ政治

ネオコンとの戦いであったチャック・ヘーゲルの上院議員時代:ナショナル・インタレスト誌の記事から

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社



 オバマ政権二期目で国防長官に指名されたチャック・ヘーゲルに関する記事をこれまでも何回かご紹介しました。今回もまた大変興味深い内容の記事をご紹介します。今回の記事は、チャック・ヘーゲルが上院議員時代にいかに「反逆児」であったかを紹介しています。

 ヘーゲルは上院議員時代、皆が持っている印象ほどには反逆児ではなかったようですが、重要な投票では共和党の主流に反対し、「反逆児」という印象を持たれました。また、ブッシュ(子)大統領や共和党の同僚たちを激しく批判して、共和党の中で孤立していったようです。

 ブッシュ(子)政権は、ネオコン(NeoConservatives)と呼ばれる危険な考えを持つ人々が数多く参画しました。ブッシュ大統領は、イラクとアフガニスタンへの侵攻を行い、アメリカを泥沼の戦争に引きずり込むことになりました。これもネオコンの人々が画策したものです。

 こうしてみると、ブッシュ政権下、ブッシュ政権と共和党に反対するというのは、ネオコンに反対するということと同じでした。チャック・ヘーゲルは、共和党内部でネオコンと戦った人物ということになります。問題児、反逆児のように見えますが、ネオコンとの戦いということになると、一貫して反対した人物という姿が浮かび上がってきます。

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 ネオコンと親和性の高い、ヒラリーを旗頭とする民主党内の人道的介入主義派が、オバマ政権第二期目ではだいぶ政権から外れるようです。オバマ大統領は一期目の最初に志向した現実的な外交・安全保障政策を遂行する意図を持っているようです。今回のヘーゲルの国防長官指名はその一環と言えます。

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ヘーゲルはいかにして共和党を怒らせてきたか(How Hagel Angered the GOP)

ジョーダン・マイケル・スミス(Jordan Michael Smith)筆
ナショナル・インタレスト誌(National Interest)
2013年1月11日
http://nationalinterest.org/commentary/how-hagel-angered-the-gop-7957
http://nationalinterest.org/commentary/how-hagel-angered-the-gop-7957?page=1

 チャック・ヘーゲル(Chuck Hagel)の国務長官指名は最も議論を呼ぶ指名となった。1989年にジョージ・H・W・ブッシュ(父)大統領がジョン・タワーを国防長官に指名して以来、最も議論が白熱した指名となった。タワーの国防長官就任は上院が承認を拒否したことで幻に終わった。しかし、この時、タワーの敵となったのは民主党所属の上院議員たちだった。今回のヘーゲルの指名に関して、敵となるのは共和党である。共和党は、ヘーゲルが10年以上にわたり上院議員を務めた際に所属した政党である。上院議員時代のヘーゲルの活動を詳しく見ていくと、ヘーゲルが共和党の中で孤立していった様子がよく分かる。ヘーゲルは、共和党の方針に反した投票行動を行い、ジョージ・W・ブッシュ(子)政権に対して敵対的な発言をし、上院共和党の同僚議員たちを批判してきた。

 ヘーゲルの上院議員としての姿勢は、国内政策に関しては保守的であった。アメリカ保守連合の調査によると、ヘーゲルの投票行動は、84%の割合で保守的だったそうだ。ヘーゲルが共和党を怒らせたのは主として外交政策についての行動である。彼の独自の行動は、新人の頃から始まった。ヘーゲルは、1999年、コソボに対する米地上軍の派遣を主張した。共和党の上院議員でこのような主張をしたのはほとんどいなかった。更に、ヘーゲルは、地上軍派遣を求める決議案の共同提出者となった。この決議案は否決された。この時、ヘーゲルの行動を支持したのは、現在は宿敵となっているジョン・マケイン(John McCain)だった。この時、上下両院の187名の共和党所属の議員たちが決議案に反対した。この時のヘーゲルの主敵は誰だったか?オクラホマ選出の共和党上院議員であるジェイムズ・インホッフェ(James Inhofe)だ。インホッフェは、当時、「この決議案は、アメリカの持つ資源を浪費することになり、効果的な使い方にはならない。米地上軍をコソボに派遣すべきではない」と発言している。ヘーゲルにとって悪いことには、インホッフェは、現在、上院軍事委員会の幹部となり、影響力を持っていることだ。インホッフェは、ヘーゲルの承認に対して反対票を投じるだろう。

 コソボに関しては明確に共和党の方針に反したヘーゲルも、その他の問題では一貫しない姿勢を示し、共和党の主流派を困惑させた。ヘーゲルはアフガニスタンへの侵攻を支持した。またミサイル防衛計画や国防予算増額、同性愛の兵士たちに対して「同性愛者かどうか問わないが、自分から同性愛者であることを発表しない(Don’t Ask, Don’t Tell)」政策、愛国法の改正を支持した。また、包括的核実験禁止条約に反対した。そして、ヘーゲルはイラク戦争に賛成票を投じた。

 投票に関してヘーゲルと共和党の主流派の間で実際に不和が起こった数は少ないが、不和に至った問題は全てが重要な問題であった。2007年の半ば、ヘーゲルは、民主党が提出したイラクからの即時撤退を行うための法案に、他の2人の共和党議員たちと賛成に回った。同じ2007年、ヘーゲルは、ブッシュ大統領のイラクへの米軍増派に反対した。この投票がヘーゲルにとっても、共和党にとっても、ブッシュ政権にとっても致命的に重要なものになった。ヘーゲルの反対に対して、ディック・チェイニー(Dick Cheney)は、「ロナルド・レーガン大統領が定めた規則の11か条目には、“同僚の共和党員のことを悪く言わない”とある。しかし、チャック・ヘーゲルのこととなると、この規則を守ることがとても難しくなる」と発言している。ヘーゲルは、イランに対する禁輸措置に対して反対票を投じたが、別の機会では賛成している。

 従って、彼の投票行動を詳しく見てみると、ヘーゲルが共和党の同僚たちとは反対の投票をしたのは僅か3回しかないことが分かるが、この3回が重要な投票であったのだ。共和党の同僚たちの記憶に残っているのは、ヘーゲルが頻繁にブッシュ政権と共和党全体を批判したことだ。ヘーゲルは、ブッシュ大統領の「悪の枢軸(Axis of Evil)」演説を批判した。そして、「アメリカがアフガニスタンに侵攻している今、イランはアメリカの助けになる」と発言した。ヘーゲルはまた、同僚のマケイン、リンゼー・グラハム上院議員が、イラク戦争の早期開始を求めたことにも異議を唱えた。ヘーゲルは、「サダム・フセインが核兵器開発プログラムを継続している明らかな証拠は存在しない」と主張した。アメリカのイラク進攻の一週間前、ヘーゲルは、「外交チャンネルが全て完全に断たれたわけではない」と主張した。ヘーゲルは、アメリカはブッシュ大統領が「悪の枢軸」というレッテルを貼った国々、イラク、イラン、北朝鮮との関係改善に努力すべきだと提案した。政治雑誌『ウイークリー・スタンダード』誌は、ヘーゲルを批判し、ヘーゲルが「宥和(弱腰)の枢軸(axis of appeasement)」の一員だと書いた。

 ヘーゲルはイラクへの侵攻に賛成票を投じた。しかし、ヘーゲルは熱心に支持していたわけではなかった。ヘーゲルは、2003年に「私たちがイラクに介入することで、イラクやアラブ世界に民主政治体制が樹立されるかどうかは分からない」と述べた。ヘーゲルはまた、ブッシュ大統領のグアンタナモ基地にテロ容疑者たちを収容し、拷問するという政策を批判した。それにもかかわらず、ヘーゲルは、グアンタナモ基地の収容者たちの公民権の回復には反対票を投じた。

 イラクで反米テロが頻発するようになった後、ヘーゲルは共和党内でイラク占領に反対する政治家として有名になっていった。2004年、ヘーゲルはイラクの状況を「悲惨という言葉以上の状況」と述べている。ジョン・ケリー(John Kerry)上院議員は2004年の大統領選挙で、ヘーゲルのこのコメントを選挙運動の中で引用した。共和党の首脳部はヘーゲルのコメントに激怒した。

 ブッシュ大統領の二期目、ヘーゲルは、外交政策に関して共和党の主流にことごとく反対した。ヘーゲルは少なくとも公然と反対を表明した。ヘーゲルはチェイニー副大統領の「イラクでの反米テロは生みの苦しみである」という発言を嘲笑した。ヘーゲルは、ドナルド・ラムズフェルド(Donald Rumsfeld)国防長官を非難し、「ブッシュ政権が無為無策であることは何も驚くに値しない」と発言した。ヘーゲルは二度にわたり、ブッシュ大統領の弾劾を提案した。あの時期、確かに多くの共和党の議員たちは、ブッシュ政権から距離を取ろうとしていた。しかし、ヘーゲルほどブッシュ政権への批判を公然と、そして激しく行った人はいなかった。

 2006年、ヘーゲルは「ユダヤ・ロビー(Jewish lobby)」が議員たちを「恐怖を用いて支配している」と発言した。そして、自分はアメリカの上院議員であり、イスラエルの上院議員ではないと述べた。この発言は今になって、ヘーゲルを批判するのにつかわれている。ヘーゲルは、イスラエルとハマスとの間、またアメリカとヒズボラとの間で直接交渉を行うべきだと主張した。そして、パレスチナ人たちへの同情を公然と表明した。このような一連の発言は、彼の言動の中で最も議論を呼ぶものになった。さすがに法的措置まで発展することはなかった。

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 個人との関係で言えば、ヘーゲルの独自の行動はコストを伴うものである。ヘーゲルとマケインは以前友人であった。しかし、現在のマケインは、ヘーゲルが国防長官に適した人物かについて疑義を呈している。ヘーゲルのイラクへの増派に対する反対が分裂を決定づけた、と誰もが口を揃える。マケインの友人は取材に対して次のように語っている。「ヘーゲルとマケインの分裂は、泥沼状態に陥ったイラク戦争開始時から始まり、ヘーゲルの増派への反対で決定的になりました。マケインは、ヘーゲルの反対をマケイン個人に対する侮辱と受け取ったのです」ヘーゲルが共和党の大統領予備選挙でマケインに対する支持を取りやめたことで分裂が深まった。ヘーゲルはマケインを名指しで批判した。ヘーゲルはマケインが「軍を拡大しなくはいけない」と考えているとし、次のように語った。「 私はいつもこのように言うんだ。ジョン、アメリカの力には限りがあるんだよ。現在の陸軍と海兵隊は大きく傷ついている。今のようなことはいつまでも続けられないよ、とね」ヘーゲルはまた、マケインが、産業化された民主国家の集まりであるG8からロシアを排除すべきだと繰り返し述べているのに対し、「完全に狂っている!」と批判した。

 ヘーゲルの孤立化を象徴するのが、2008年の共和党全国大会を欠席したことだ。ヘーゲルは、共和党の国会議員の中でただ一人、マケインがサラ・ペイリン(アラスカ州知事、当時)を副大統領候補に選んだことを批判した。ヘーゲルは、「ペイリン候補は、アメリカの歴史上、履歴書が最も短い履歴書の副大統領候補であることは疑いのないところだ」とこき下ろした。

 ヘーゲルは、マケインの大統領選挙について「大変に失望した」と述べた。ヘーゲルは、「マケインは一回だけ良い演説を行ったがただそれだけだった。彼は5000万ドル(約44億円)も使って敵を打ち破ろうとしたが失敗した」と述べた。更に、ヘーゲルは批判を全ての共和党所属の政治家たちにも向けた。「わが国には“何も知らない人々党”と呼ばれる政党がある。この政党は極端な方向に進んでいる。そして、一つの問題だけしか興味を持たない、具体的には妊娠中絶をどうするかという問題にしか興味がない有権者たちからしか支持を得られていない。もちろん、この問題が重要なのは私も分かってはいる」

 10年以上にわたり、ヘーゲルは外交政策に関して独自の考えを発展させてきた。それが、チャック・ヘーゲルと友人だった共和党の議員たちを分かつことになった。ヘーゲルの承認に関して現在行われている議論から得られる教訓はいろいろあるが、そのうちの一つは次のようなものだ。「言葉を選んで、人と関係を保つことが重要だ。ある人の議会での行動の記録には全てが記録されている」

※ジョーダン・マイケル・スミス:ウェブサイト「サロン」、ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ボストン・グローブ氏に寄稿している。

(終わり)

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所


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by Hfurumura | 2013-01-13 17:43 | アメリカ政治

チャック・ヘーゲル新国防長官はアメリカの路線変更の証左か:ナショナル・インタレスト誌の記事から考える

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



 安倍政権は、「価値観外交」を標榜し、対中国包囲網づくりの主導的な役割をアメリカに担わされている。しかし、アメリカ国内では、チャック・ヘーゲル新国防長官は、対中ハト派であり(と言うことは、オバマ大統領も中国に対して敵対的な姿勢を取るつもりはないということになる)、対中タカ派の多い米国防総省を、オバマ大統領の意向に沿う形で抑えるためにヘーゲルが国防長官になるということだという主張がある。それが今回、ご紹介するアミタイ・エツィオーニの記事だ。

 エツィオーニのこの記事は大変重要だと私は考える。それは、アメリカの路線転換を示していると考えるからだ。宥和的なジョン・ケリーが国務長官に、そして、対中タカ派であり、イラク戦争や経済制裁に対して批判的なチャック・ヘーゲルが国防長官になる(ケリーもヘーゲルも連邦上院議員経験者であり、オバマ大統領、バイデン副大統領とも同僚の間柄)ことで、オバマ政権第一期のヒラリーの人道的介入主義路線(Humanitarian Interventionism)・対中強硬路線が変更されることになるだろう。更に言うと、アメリカは、国内問題優先、より具体的には財政問題優先になるだろう。

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 それでは日本はどういうことになるだろうか。安倍政権の対中包囲網づくりはどうなるだろうか。この動きはある程度、アメリカから容認されるだろう。小競り合い程度までなら容認されるだろう。しかし、それ以上の、人民解放軍の艦船と自衛隊の艦船の衝突といった事態は許されないのではないかと考えられる。しかし、こうしたことは偶発性を伴うものだ。現場の指揮官レベルが上層部の意図を「わざと」読み間違うこともある。

 勇ましく姿勢を示して船出した安倍政権であるが、こちらも参議院議員選挙までは、経済優先で政権運営を行うということになる。更に言えば、安倍晋三首相は、アメリカの意図をきちんと読みとり、「集団的自衛権の容認といったことまでは行うが、中国との対決を煽動・先導しない」という方向性に進む可能性も出てきた。

 とりあえず、アメリカは路線変更をしつつあるようだ。これに対して、日本がどのように動くか。日本が対中包囲網づくりの価値観外交を推進し続けるようなら、アメリカは日本を使って中国をけん制している、もしくは安倍氏が独走(暴走)しているということになる。その場合、安倍氏が石破氏に交代させられるということもある。これからの動きを注視しなくてはいけない。

==========

チャック・ヘーゲルと中国(Chuck Hagel and China)

アミタイ・エツィオーニ(Amitai Etzioni)筆
ナショナル・インタレスト誌(National Interest)
2013年1月10日
http://nationalinterest.org/commentary/chuck-hagel-china-7952

 マスコミは、チャック・ヘーゲル(Chuck Hagel)元上院議員の、イラン、イスラエル、同性愛者たちに対する過去の発言や立場を大きく報じている。しかし、ヘーゲルの中国に対する考えについてより注意を払うべきである。

 次期国防長官は世界の秩序の将来、米軍の構造、これから10年間の国防予算の規模に影響を与えることになる戦略的に重要な決定を行うことになるだろう。ヘーゲルは、中国を遅かれ早かれ米国と衝突する国として、それとも、平和的に共存できる国として、どちらを優先して取り扱うか、決定を迫られることになる。

 2011年にオバマ政権が発表した「アジア回帰(pivot to Asia)」で、既に決定はなされ、米中両国の将来における衝突は避けられないと主張する人々がいる。しかし、オバマ大統領の「現在の近東の重要性は低下し、極東がアメリカにとっての最優先事項になる」という宣言は、また違う解釈もできる。オバマ大統領のアジア回帰宣言は、米軍(海兵隊や海軍の艦船など)の極東への再配置を行い、中国の近隣諸国との軍事同盟を形成し、アジア地域で共同軍事演習を行うというシグナルであるという見方をする人々がいる。米国防総省の中には、空軍と海軍の予算を増加させようと努力している人たちがいる。空軍と海軍は、中東においては、陸軍と海兵隊をする支援するという役割を担ってきた。しかし、軍関係者や戦略家たちの中には、アジア・太平洋地域では、海軍と空軍が主導的な役割を果たすべきだと主張する人々がいる。

 このような対中国タカ派の人々は、公然と、中国は「世界に出てきて、私たちの権益を喰い荒らす(out to eat our lunch)」と述べ、中国の「平和的台頭(peaceful rise)」は真意を隠すためのマスクだと主張している。彼らは、中国は、リベラルな世界秩序(アメリカが作り上げた戦後の世界秩序―訳者註)に対して、共産主義国家として挑戦したいと本当のところは考えているのだと主張している。また、対中国タカ派の人々は、中国を直視することを拒否し、ただ「アジアはアメリカにとって新しい活動の場となる」というような物言いに終始する。しかし、彼らは、中国こそが最も重要なターゲットであることを確信している。

 対照的に、「中国との違いを乗り越えて協力することができる」と考える人々が多くいる。彼らは、中国を世界に対する脅威と見なすことは大きな間違いであると主張している。何も切迫した脅威がある訳ではないのに、中国を敵とするのは間違いだと彼らは主張している。ジョセフ・ナイは次のように述べている。「中国を敵視すれば、中国が将来、アメリカの敵になることは間違いない。中国を友人だと見なしても、友情が醸成されるかどうか確かではないが、米中関係が、深刻な危機的状況に陥ることは少なくともないだろう」

 対中国関係について、ヘーゲルはどの立場に立つだろうか?その答えは、PBSで放送された、ロバート・ノーランによるヘーゲルへの最新インタビューの中にある。ヘーゲルは、中国経済が急速に発展しているといる事実から中国を警戒すべきだと考えている人々には与しないとしている。ヘーゲルは次のように語っている。

 「中国は台頭し、経済成長を続けています。これからも存在を増し続け、経済成長を続けるでしょう。私たちは中国の台頭と経済成長を歓迎すべきでしょう。中国は、インドやブラジル、その他の国々と同様、アメリカの競争者となるでしょう。それも良いでしょう。貿易、様々な交流、米中関係、共通する利益といったものを私たちアメリカと新興国家は持っています。またこれらの新興諸国は、安定、安全、エネルギー資源、人材といった点で共通していると言えます。これらを基盤にして発展しているのです。私たちアメリカにもこれらのものが全て揃っていますね。中国もまたそうなのです」

 ヘーゲルは、中国が国内に多くの問題を抱えており、国外でできることは限られているという認識を持っている。ヘーゲルは次のように指摘している。

 「中国は多くの重大な問題を抱えています。13億の人口を抱え、多くの人々が厳しい貧困の中で生活しています。雇用、中国の一番の問題はこれに尽きます。中国はエネルギー問題を抱えています。彼らはこの問題にずっと取り組んでいかねばならないでしょう。中国は世界の大国の一つとなりました。これからも大国であり続けるでしょう。それもまた受け入れねばならないことです。しかし、アメリカは中国の台頭によって衰退することはありません。また、中国がアメリカに取って代わるということを心配する必要もありません」

 ヘーゲルはアメリカについては楽観的見方をしている。

 「私は、私たちアメリカ国民が良く考えられたこと、正しいこと、合理的なことを行い続ける限り、アメリカについて心配はいらないと考えています。私たちは世界をリードしています。しかし、世界を自分勝手に支配している訳ではありません。私たちは世界各国に何かを強制している訳でもありません。私たちは世界のあちこちに介入していません。占領や侵攻をしている訳でもありません。私たちは同盟諸国と緊密に協力しています。私たちは、第二次世界大戦後のアイゼンハワー、トルーマン、マーシャルといった賢明な指導者たちが行ったことを今も行っているのです」

 対中国という重要なテーマについて、ヘーゲルがどのような立場を取っているかについては、彼のインタビューでの発言を見て、なんの疑う余地もない。ヘーゲルは対中国ではハト派ということになる。そして、ヘーゲルは、米国防総省内でオバマ大統領の意向に忠実に沿うように努力するだろう。米国防総省内部には、中国は米国にとって脅威となる敵であると考える人々が数多くいる。このような人々は、意図することなく、アメリカを新しい冷戦(Cold War)に引きずり込むために動いている人々なのである。

※アミタイ・エツィオーニ(Amitai Etzioni):カーター政権上級顧問。コロンビア大学、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校で教鞭を執る。現在は、ジョージワシントン大学・栄誉教授国際関係論教授。最新作に『ホットスポット:ポスト人権時代のアメリカの外交政策(Hot Spots: American Foreign Policy in a Post-Human-Rights World)』がある。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


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by Hfurumura | 2013-01-12 23:11 | アメリカ政治

ジョン・ケリーが新国務長官となり、アジアについてどういう人物が担当になるか

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



 オバマ大統領の二期目の就任式が今月21日に開催される。それに合わせて、ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)国務長官が辞任し、ジョン・ケリーが新しい国務長官となる。新しい国務長官となると、ヒラリーに任命された(政治任用political appointeeと言う)高官たちも一緒に退任する。そして、ジョン・ケリー(John Kerry)が新しい人間たちをポストに就ける。

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 ジョン・ケリーがどのような人物を対アジアの最前線に投入してくるか、大変興味があるところだ。ヒラリーの辞任に合わせて、これまで対アジア外交の最前線にいた、カート・キャンベル(Kurt Campbell)国務次官補も辞任すると見られている。キャンベル次官補は、鳩山由紀夫総理(当時)を馬鹿者の意味である「ルーピー(loopey)」と呼んだことがばれたことでも知られている。キャンベルの後任は誰か、これは日本にとって重要である。

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 ここでまず整理しておきたいのは、米国務省の職掌である。国務次官や国務次官補といった名称が出てくるが、それぞれがどのような関係になっているのか、また、英字新聞を読む場合に、どれが国務次官で、国務次官補なのか分からなくなることが多い。恥ずかしながら、私もそうであった。そこで、ここで簡単に米国務省の職掌について皆さんにご紹介したい。職掌は上から以下のとおりである。

①国務長官(United States Secretary of State)
②国務副長官(United States Deputy Secretary of State):2009年から2人体制(国務副長官管理・資源担当Deputy Secretary of State for Management and Resourcesが置かれる)
③国務次官(United States Under Secretary of State):6人
④国務次官補(United States Assistant Secretary of State):11人

 日本だと、外務大臣、外務副大臣、外務政務官、外務次官となるが、以前は外務大臣、外務次官だった。日本だと政治任用(議員が就任するポスト)の数がアメリカに比べて少ない。米国務省に話を戻すと、政治担当国務次官(Under Secretary for Political Affairs)の監督下に、アフリカ局、東アジア・太平洋局、ヨーロッパ・ユーラシア局、近東局、南・中央アジア局、西半球局、国際機関局、国際麻薬・法執行局が属している。東アジア・太平洋担当国務次官補は、東アジア・太平洋局のトップである。その下に日本部長(Director of Japanese Affairs)がおり、現在は、マーク・ナッパー(Marc Knapper)が日本部長を務めている。国務次官補と同じ待遇なのが、政策企画局長(Director of Policy Planning Staff)である。このポジションは国務省での重要なポジションであり、現在はジェイク・サリヴァン(Jake Sullivan)がその地位に就いている。マーク・ナッパーとジェイク・サリヴァンについては、拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)で詳しく取り上げている。

 日本に関係するのが東アジア・太平洋担当国務次官補である。アメリカの外交誌『フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)』の記事の中で、キャンベルの後任でこのポジションに就任すると言われているのが、マイケル・シファー(Michael Schiffer)とダニー・ラッセル(Danny Russel)である。(記事のアドレスは→
http://thecable.foreignpolicy.com/posts/2012/12/21/who_might_kerry_bring_with_him_to_the_state_department)

 国務次官補就任が有力視されているマイケル・シファーとダニー・ラッセルについてこれから見ていく。東京財団が2009年に発表した「オバマ政権の主要高官人事分析」を参考にした。

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●マイケル・シファー(Michael Schiffer)
・ジョージタウン大学で学士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)とニューヨーク大学でそれぞれ修士号と博士号を取得。
・ハワイでBアンドB(ベッド・アンド・ブレックファスト、小規模な宿泊施設)の管理人をしていた経験がある。
・ニューヨーク大学戦争・平和・ニュースメディア研究所国家安全保障プログラム部長。
・1995―2004年までダイアン・ファインスタイン連邦上院議員(民主党、カリフォルニア州選出)のスタッフ(国家安全保障担当)。
・2004―2005年:米外交問題評議会(Council for Foreign Relations、CFR)の日立国際問題研究員として、日本の防衛研究所に在籍。
・2006―2009年:スタンレー財団(アイオワ州)・アイオワ大学アジア・太平洋研究所研究員。
・2009―2012年:米国防総省次官補代理(United States Deputy Assistant Secretary of Defense):米軍再編に従事。

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●ダニー(ダニエルが正式)・ラッセル(Daniel Russel):1953年生まれ
・サラ・ローレンス大学で学士号(ラーム・エマニュエルと同窓)。
・1985年に国務省に入省。
・1985―1987年:東京のアメリカ大使館にてマイケル・マンスフィールド駐日大使の補佐官。
・1987―1989年:駐大阪・神戸アメリカ総領事館副領事(名古屋支部担当兼任)。
・1989―1992年:国連本部アメリカ代表部に勤務し、トマス・ピカリング国連大使の政治顧問。
・1992―1995年:駐韓大使館一等書記官(韓国・北朝鮮担当政治主任):駐韓外交官時代は米朝枠組み合意交渉に関与した。
・1995―1996年:国務次官(政治担当)特別補佐官。
・1997―1999年:国務次官(政治担当)首席秘書官。
・1999―2002年:駐キプロス首席公使。
・2002―2005年:駐オランダ首席公使。
・2005―2008年:駐大阪・神戸アメリカ総領事。
・2008―2009年:国務省日本部長。
・2009年―:ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)日本・韓国部長:国家安全保障会議では六者会合を担当。
・夫人が日本人。

 マイケル・シファーは10年近く、連邦上院議員ダイアン・ファインスタインのスタッフをしていた。そして、オバマ政権下、米軍再編、実際には沖縄の米軍基地再編問題を担当していた。一方のダニエル・ラッセルは、職業外交官として勤務し、現在は出向という形で、国家安全保障会議の日本・韓国部長をしている。北朝鮮の核開発をめぐる六者協議を担当している。

 ケリーはおそらく、ヒラリーが敷いた、ネオコンとの親和性が高い介入主義(Interventionism)の外交路線を少しずつ転換していくだろう。しかし、アジア回帰(Pivot to Asia)を掲げ、アジアにおける主導権と中国に対するけん制をも狙っている。その目的に適した人材がマイケル・シファーなのか、ダニエル・ラッセルなのかということが決め手となるだろう。オバマ政権のアジア回帰路線を決定したのは、トマス・ドニロン(Thomas Donilon)国家安全保障担当大統領補佐官(Assistant to the President for National Security Affairs)であった。ドニロンとケリーとの間が悪くなければ、ホワイトハウスの意向を良く知る人物として、ダニエル・ラッセルが国務次官補に任命されることになるだろう。

 シファーがなるか、ラッセルがなるか、その決定によって、これから4年間のアメリカの対アジア、対日本政策の輪郭が少しは分かるようになるだろう。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


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by Hfurumura | 2013-01-10 15:43 | アメリカ政治

オバマ大統領二期目の大統領就任式の記事から考える

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



 今月21日(日本では22日)に、バラク・オバマ大統領の就任式がワシントンで行われます。二期目ということで、そこまで大きな期待感や変化を感じることはありませんが、今日ワシントン・ポスト紙に掲載された大統領就任式についての記事が目に留まりましたので、ご紹介します。

 記事によると、21日に行われる就任式で、神に祈りを捧げる人物に、市民権運動に参加し、殺害されたメドガー・エヴァース(Medgar Evers)の未亡人のマイリー・エヴァース=ウィリアム(Myrlie Evers-Williams)という女性が決まったという内容です。マイリー自身もアメリカの黒人団体であるNAACPのトップを務めた活動家です。記事によると、祈りを捧げる役目を女性で、しかも聖職者ではない人物が行うのは初めてのことだそうです。

 就任式では、大統領が登場して、聖書に手を置いて、聖職者が宣誓の文言を先導し、大統領が宣誓するのがハイライトです。私たちもテレビなどでよくその光景を目にします。オバマ大統領の一期目は、最高裁判事のジョン・ポール・スティーヴンス(John Paul Stevens)が先導しました。宣誓式で使う聖書は大統領が選ぶことができ、オバマ大統領の一期目の宣誓式では、エイブラハム・リンカーンが宣誓式で使った聖書が使われました。

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一期目の宣誓の様子

 宣誓式ではプロテスタントの聖職者たちが神に祈りを捧げてきたのは、「アメリカはプロテスタントのキリスト教徒(Christianity)が作った国である」という大前提があったからです。

宣誓式にはいくつかの段階があり、祈りを捧げるという段階もあり、マイリーが祈りを捧げることになった、女性でしかも非聖職者の人物が初めてというのが記事の内容です。

 宗教と政治の関係、政教分離(Separation of State and Religion)は長年、アメリカ政治の世界で議論され続けたテーマです。政治という公の場で宗教について語ること、道徳的なことは避けるべきだという考えがあります。一方で、道徳や宗教(特にキリスト教)について政治の場でも表現すべきだという考えがあります。リベラル派(政党で言うと民主党)は、政治の場で宗教について表現すべきではないと考え、保守派(政党で言うと共和党)はその逆の考えを取ります。リベラル派は、マイノリティの人々を重視するという立場から、宗教や道徳を表現することは、マジョリティの人々の考えをマイノリティに「強制する」「押し付ける」ことにつながると考えます。保守派の人々は、社会の基盤となる道徳や宗教について語るのは当然ではないかと主張します。

 1960年代から70年代にかけて、リベラル傾向が強まったアメリカでは、公の場では宗教や道徳について語るべきではないという考えが強まりました。しかし、1980年代以降、人々の孤立化、社会の混乱などから、宗教的な規範や道徳を人々が望むようになりました。レーガン、ブッシュ(父)、そしてブッシュ(息子)の歴代共和党政権では、そのような傾向が強まりました。

 民主党はリベラル派ですから、道徳や宗教について語ることを躊躇っていました。しかし、オバマ大統領は、選挙戦や一期目の就任式で宗教的、道徳的な言葉づかいを多用することで人々を惹きつけた、とハーバード大学教授マイケル・サンデルは著書『これからの「正義」の話をしよう』のなかで述べています。サンデルは、オバマの次の発言を引用しています。「わが国の法律は、その定義からして、道徳を法典化したものであり、道徳の大部分はユダヤ教とキリスト教の伝統に基づいている」

 オバマ大統領は、ミドルネームが「フセイン」であり、正式の名前は、「バラク・フセイン・オバマ(Barack Hussein Obama)」です。フセインと言えば、誰でも思い出すのが、イラクの故フセイン大統領です。この点から、オバマ大統領がアメリカの大統領にふさわしくない、などという批判をする人々もいました。また、オバマ大統領に不安を持つ人々も結構いました。この点を払しょくするために、オバマ大統領は、上記のような発言をしたものと考えられます。ユダヤ・キリスト的な道徳に従うと述べることで不安を一掃しようとしたものと考えられます。

 二期目の今回、就任式のテーマ(正式にはテーマというものはありません)が、伝統や道徳、宗教といったものから、アメリカ人全体の「普遍的な価値である人権」に移ったということが言えるのではないかと思います。そして、シカゴの貧困地域での活動から政治的な活動を始めたオバマ大統領にとって、「普遍的な価値である人権」は「初心忘れるべからず」の「初心」なのでしょう。

 更に言えば、「普遍的な価値である人権」を基礎にして国内、国外の諸問題に取り組んでいくという意思表明なのだろうと私は考えます。これは大きく言えば、非民主的で、人権を抑圧している(と言われている)ロシアや中国に対するけん制という意味もあるのだろうと思います。


(新聞記事貼り付けはじめ)

Widow of Medgar Evers to deliver invocation at Obama inauguration

By Michelle Boorstein,
Washington Post
Published: January 8
http://www.washingtonpost.com/national/inauguration/medgar-evers-widow-to-deliver-invocation-at-obama-inauguration/2013/01/07/293904e2-592e-11e2-88d0-c4cf65c3ad15_story.html
http://www.washingtonpost.com/national/inauguration/medgar-evers-widow-to-deliver-invocation-at-obama-inauguration/2013/01/07/293904e2-592e-11e2-88d0-c4cf65c3ad15_story_1.html

President Obama has picked Myrlie Evers-Williams, widow of slain civil rights icon Medgar Evers, to deliver the invocation at his public swearing-in later this month. It is believed to be the first time a woman, and a layperson rather than a clergy member, has been chosen to deliver what may be America’s most prominent public prayer.

The inaugural committee Tuesday plans to announce that the benediction will be given by conservative evangelical pastor Louie Giglio, founder of the student-focused Passion Conferences, which draw tens of thousands of people to events around the world.

The contrasting choice of speakers are typical of a president who has walked a sometimes complicated path when it comes to religion — working to be inclusive to the point that critics at times have questioned his faith.

In a statement released by the inaugural committee, the president said the careers of Evers-Williams and Giglio “reflect the ideals that the Vice President and I continue to pursue for all Americans - justice, equality and opportunity.”

Obama will privately take the oath of office for his second term on the constitutionally mandated date of Jan. 20, a Sunday. But the public ceremony will be the next day, coinciding with the Martin Luther King Jr. holiday. In a statement issued by the Presidential Inaugural Committee, Evers-Williams said “it is indeed an exhilarating experience to have the distinct honor of representing” the civil rights era at the Jan. 21 event.

This year is the 50th anniversary of the murder of Evers, who was the NAACP’s Mississippi field secretary at the time of his death. Myrlie Evers-Williams spent decades fighting to win a conviction of her late husband’s shooter, and served as chairman of the NAACP in the 1990s.

“I would imagine that even people who are made somewhat uncomfortable by the allusions to religion in such public moments will find an invocation by the widow of a martyr to be moving and poignant,” said author Jon Meacham, who has written on religion in American history. “This is as unifying a gesture as a president could make, it seems to me.”

The invocation comes at the start of the inaugural ceremony, and the benediction comes at the end. An inaugural official said Giglio was picked for the benediction in part because of his work raising awareness about modern-day slavery and human trafficking. Those were core issues at his most recent conference, Passion 2013, attended by more than 60,000 mostly young evangelicals in Atlanta.

“During these days it is essential for our nation to stand together as one,” Giglio said in a statement. “And, as always, it is the right time to humble ourselves before our Maker.”

Decades ago, few Americans paid attention to the clergy (always mainline Protestants) who stood on the podium with the incoming president, or the scripture upon which the president put his hand as he swore the oath of office. But as the country has become more politically polarized and religiously diverse, faith and politics have become far more explosive, and such official moments are now scrutinized.

Obama made news four years ago when he selected conservative megachurch pastor Rick Warren to deliver the invocation. The choice angered progressives who opposed Warren’s work to prevent same-sex marriage, but was seen by many experts as a sign of Obama’s willingness to work with religious conservatives after a bruising campaign.

With the country arguably even more polarized in 2013, historians of religion and politics said Monday that inaugural prayers can be a unifying balm in a nation that overwhelmingly describes itself as Christian. They said they expect Obama to include strong theological references in his address.

Shaun Casey, a Wesley Theogical Seminary professor who has written about faith and the U.S. presidency (and advised the Obama campaign on faith in 2008), said the president is like Franklin D. Roosevelt and Abraham Lincoln in that “he’s trying to unite the nation in the face of deep division and conflict. They are trying to coax more people into the national discussion . . . and this is the last time the entire nation will pay attention to what this guy says in one sitting.”

Some details of the inaugural ceremony have changed over time, including the move to the west side of the Capitol from the east side. But historians say the role of an unspecific deity has been a prominent constant. Lincoln’s address at his second inauguration is the most explicitly religious in history, Casey said.

It was only in the 1970s and 1980s, historians said, with the rise of the religious right and the culture wars that Americans started caring more about who was praying over the president on the podium and how.

“It became a way of making political statements,” said Randall Balmer, professor of American religious history at Dartmouth College.

Progressive evangelical leader Jim Wallis said he has been asked for guidance by some of the clergy who have been involved in previous inaugurations and also some involved this year. He said he warns them against “the temptation or danger” of being only a chaplain offering a blessing.

“When people ask my advice, I always say: ‘Use the occasion to remind our political leaders of their responsibility to the common good. Our involvement in these events should be prophetic in the biblical sense.’ ”

The inaugural committee would not release details about the scripture to be used for the swearing in. Presidents typically rest their hands on the Bible.

An interfaith National Prayer Service is scheduled Tuesday at Washington National Cathedral.

(新聞記事貼り付け終わり)

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


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by Hfurumura | 2013-01-09 16:11 | アメリカ政治

ヘーゲルの国防長官指名をめぐる論稿②

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社



連邦下院民主党議員の発言:「ヘーゲル氏はイスラエルに対して独特の敵意を持っている」(Top House Democrat: Hagel has an ‘endemic hostility towards Israel’)

ジョシュ・ロギン(Josh Rogin)筆
フォーリン・ポリシー誌(Foreign Policy)
2012年12月21日
http://thecable.foreignpolicy.com/posts/2012/12/21/top_house_democrat_hagel_has_an_endemic_hostility_towards_israel

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チャック・ヘーゲル

 連邦下院外交関係委員会に新たに加入した民主党議員がヘーゲルの次期国防長官指名について反対を表明している。この議員は、「ヘーゲル氏はイスラエルに対して独特の敵を持っている」と確信しているそうだ。

エリオット・エンゲル連邦下院議員(民主党、ニューヨーク州選出)は、ヘーゲルの国防長官指名に関して懸念を表明した議員の一人である。そして、エンゲルは連邦下院議員として、ヘーゲルが国防長官に指名された場合、承認には反対票を投じると言明している。

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エリオット・エンゲル

 エンゲルは、新たに連邦下院民主党の外交政策のリーダーに就任した。エンゲルの発言は、オバマ大統領がヘーゲルを国防長官に指名しようとしているということに対しての強い非難ということになる。

 今週の金曜日(12月21日)、エンゲルは、ウェブサイトのザ・ケーブルとポリィティコが共同で行い、C-SPANで放送されたインタビューに応じた。 エンゲルは、「ヘーゲル氏のイスラエルとイランについてのこれまでの発言を見ると、国防長官にふさわしくない」と述べた。ヘーゲルは、以前、国務省での勤務の経験もあるアーロン・デイヴィッド・ミラーのインタビューに応じ、その中で「ユダヤ・ロビー(Jewish lobby)」について言及した(ミラーはヘーゲルの指名を支持している)。エンゲルは、この発言を特に問題視している。

 「私は、ヘーゲル氏のユダヤ・ロビー発言はトラブルを引き起こし、問題になると思います。彼の発言は、良く言って、感受性の欠如を示していますし、悪く言って、偏見から出たものです。私はこの発言について懸念を持っていますし、ヘーゲル氏の国防長官指名についても懸念を持っています。私に指名権があるなら、チャック・ヘーゲル氏を指名することはありません」

エンゲルの選挙区は、ブロンクス、ロックランド、ウエストチェスターである。エンゲルは、選挙区の有権者の多くがヘーゲルの国防長官指名に反対であると彼に語ったと述べた。エンゲルはまた、ヘーゲルのイスラエルに関連する行動は、それにはハマスやアメリカ政府に対するイスラエルの影響力についての発言も含まれているが、これらは、ヘーゲルがイスラエルに対して「敵意」を持っていることを示していると述べている。

 エンゲルは次のように語っている。「ヘーゲル氏はイスラエルに対して独特の敵意を持っているようです。これは、私や多くの人々にとって問題です。国防長官は大変に微妙な、感受性の必要なポジションです。ヘーゲル氏の発言は、彼が国防長官に向いていないことを示しています」

 エンゲルは、「オバマ大統領には自分の安全保障チームのメンバーを選ぶ権利と権威を持っています。しかし、オバマ大統領は論争を避けるためにヘーゲル氏の指名を行わないと思いますよ」と述べた。

 エンゲルは、「大統領はヘーゲル氏の指名は問題になるだろうことは知っていると思いますよ」と述べた。

 エンゲルは、政策担当国防次官を務めたミッシェル・フロノイ(Michèle Flournoy)が国防長官にふさわしいと述べた。エンゲルはまた、オバマ大統領がジョン・ケリー(John Kerry)連邦上院議員(民主党、マサチューセッツ州選出)を次期国務長官に指名したことを賞賛した。

 エンゲルは「私はジョン・ケリーについてよく知っています。彼の知識は豊富です。外交政策を専門にしています。外交に関する全ての問題に精通し、政治についてもよく分かっています。私は、ケリーの指名は最高の指名であると考えます。ケリーは大変素晴らしい国務長官になりますよ」

(終わり)

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所


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by Hfurumura | 2012-12-24 14:23 | アメリカ政治

ヘーゲルの国防長官指名をめぐる論稿①

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社



ヘーゲルと彼の批判者たち:キューバ版(Hagel and His Critics: Cuba Edition)

ロバート・ゴラン=ヴィエラ(Robert Golan-Vilella)筆
ナショナル・インタレスト誌(National Interest)
2012年12月21日
http://nationalinterest.org/blog/the-buzz/hagel-his-critics-cuba-edition-7897

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チャック・ヘーゲル

 チャック・ヘーゲルの国防長官の就任をめぐる戦いに新たな人物が参戦してきた。昨日、ワシントン・フリー・ビーコン紙は、マルコ・ルビオ連邦上院議員が、「ヘーゲルが国防長官に指名された場合、反対をするという脅しともとれる声明を発表した」と報じた。興味深いことに、ルビオの懸念は、イスラエルやイラン、その他の最近になってヘーゲルに関して囁かれている懸念のどれにも当てはまらない。ルビオの懸念は全く別の地域に関することだ。それはキューバについてである。 ルビオの広報担当のアレックス・コナントの出した声明から一部を引用する。

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マルコ・ルビオ

 「ラテンアメリカ諸国における民主政治体制の促進はルビオ上院議員の優先事項である。そして、この問題に関して疑義がある場合、政権の高官の承認について、ルビオ議員は常に反対票を投じてきた。もし、オバマ大統領がヘーゲル元上院議員を政権の一員となるように指名するならば、私は、ヘーゲル氏のキューバに対する姿勢について質問をすることになる」

 ルビオの反対は、ヘーゲルが以前、「アメリカの対キューバ政策に関して言うと、時代遅れで、非現実的、そして全く重要ではない」と発言した事実を基にしている。ヘーゲルは長年にわたり、アメリカ政府の対キューバ禁輸政策を批判し、キューバとの交易を再開することを支持してきた。

 キューバに対する姿勢が国防長官の適性に対して重要ではないという事実はまずおいておく。国防総省が重要視している問題はキューバ以外にも少なくとも10以上はある。そして、ホワイトハウスと議会の方が、国防総省に比べて、対キューバ政策の方向性を決めるうえではるかに強力である。更に重要なことは、キューバに関する姿勢をヘーゲルの国防長官に対する適性をテストすることに使うならば、彼の姿勢は国防長官に対する適性を示すものであり、承認に賛成する理由となりこそすれ、反対する理由にはならない。ヘーゲルの言っていることは完全に正しい。アメリカの対キューバ政策は冷戦期の遺物であり、時代遅れだ。そして、私たちには、キューバと交易をし、外交関係を持つことを拒絶する理由は存在しない。私たちは現在、多くの独裁国家と交易し、外交関係を持っている。先週、ダグ・バンドウが本誌上で主張したように、アメリカの対キューバ政策は、有効性を失い、変化させる時期はとっくの昔に過ぎている。

 古い格言に、「ある人がどんな人物なのかを判断するには、その人の敵を見ればよい」というものがある。この格言の内容にすべて賛成できなくても、ヘーゲルを批判する人々は、ヘーゲルの株をどんどん上げているということは間違いない。

(終わり)

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所


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by Hfurumura | 2012-12-24 13:01 | アメリカ政治

ジョン・ケリー国務長官就任

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



アメリカの次のトップ外交官(America's Next Top Diplomat)

ウィキリークスが暴露するジョン・ケリー(What the WikiLeaks cables reveal about John Kerry)

J・ダナ・スタスター(J. Dana Stuster)筆
フォーリン・ポリシー誌(Foreign Policy)
2012年12月21日
http://www.foreignpolicy.com/articles/2012/12/21/americas_next_top_diplomat
http://www.foreignpolicy.com/articles/2012/12/21/americas_next_top_diplomat?page=0,1

 ジョン・ケリーが次の国務長官に選ばれるのが当然だと読者の皆さんが考えるなら、それは、ジョン・ケリーだからだ。ジョン・ケリーは27年にわたり、上院の外交関係委員会に参加し、2009年からは委員長を務めている。ジョン・ケリーはジョー・バイデンの後任で委員長となった。上院外交関係委員会委員長として、ジョン・ケリーは世界各国を飛び回り、様々な問題に取り組んできた。ジョン・ケリーは世界各国の指導者たちと会談し、歴代政権の使者として重要な、そして機密扱いのメッセージを世界各国に届けてきた。しかし、多くの会談や交渉が非公開で行われているので、ケリーの実際の外交スタイルを知ることは難しい。

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 ウィキリークスが暴露した海外電報の中にいくつかヒントがある。ウィキリークスによって暴露された米国務省の公電(2005年から2010年初めにかけてのもの)では、ケリーの海外訪問について言及されている。同時期、ケリーは、プレトリア、イスラマバード、北京、ダマスカスを訪問した。国務省の公電には、訪問の内容を要約した内容が書かれており、ケリー以外の人物の発言も掲載されている。これらの内容は「ケリー上院議員の発言に対応して」「ケリー上院議員がこの問題についてこう質問し、こうこうと返答した」などという形式で書かれている。国務省の公電を読むと、「飛行機で飛び回る忙しい外交官」というイメージが浮かび上がる。

 ケリーが長年取り組んできた問題を見ると、彼の外交スタイルの一端が分かる。ケリーは常に難しい問題に取り組んできた。若手の上院議員の頃は、ベトナムでアメリカ軍将兵の捕虜が行方不明になった問題に取り組んだ。最近では、頻繁に中東諸国を訪問した(シャトル・ディプロマシーと呼ばれている)。ケリーは不愉快な人物たちと仕事をすることを避けることはない。例えば、カンボジアのフンセン首相は、カンボジア国内でポルポト派が裁判を受けることに同意するに当たり、ケリーが約10年間、交渉の成功に努力してきたことを賞賛した。ある公電では、フンセン首相の発言を紹介している。その発言は次のようなものだ。「ケリー上院議員は、カンボジア国内でのポルポト派の裁判が成功するように努力してきた」

 ケリーは問題から逃げない。自ら関与しようとしてきた。それは、アラブ世界の諸問題への対処を見ても明らかだ。ケリーは頻繁にアラブ世界の各国を訪問してきた。2006年、ケリーは、レバノンのベイルートで当時の連立政権の指導者たちと会談した。そして、ラフィーク・ハリーリー元レバノン首相の暗殺の捜査に対する助言を行った。また、レバノンの野党勢力とも会談した。その後、シリアのダマスカスで、レバノンの野党勢力を支援しているシリアのバッシャール・アル=アサド大統領とも会見した。

 気候変動は解決の難しい重要な問題であり、ケリーが関心を寄せている問題である。2007年にバリで開催された気候変動に会する国際会議にケリーは出席した。彼は、少なくとも10カ国(パートナー国のフランスから中国まで)からの代表団と会見した。また、25のNGOの代表者たちとも会見した。ケリーは、気候変動問題で重要な存在である中国に特に注意を払っている。彼は、2009年のコペンハーゲンでの国際会議の開催前に、北京を訪問した。その時ホワイトハウスからのメッセージを携えていた。ホワイトハウスのメッセージは次のようなものだった。それは、「世界はエネルギー基盤の変化を必要としている。そして、持続可能な経済成長の方向に進むことを求めている」というものだった。ケリーは、中国の政府高官たちを動かして、温室効果ガスの排出の測定に関し、従来とは異なる基準を受け入れてもらおうと努力した。ケリーと中国政府高官との会話は最初から好感触だった。ある公電には次のようにある。「ケリーと中国の副首相との会話が始まると、雰囲気は楽観主義に包まれた。ケリー上院議員と中国の副首相との間で、率直な意見交換が行われ、双方の国益についても率直に語られた。この会談で、中国側は、アメリカのオバマ新政権が気候変動を米中二国間に存在する問題で最優先のものだと考えていることを理解したであろう」しかし、ケリーの訪問から7か月後、コペンハーゲンで国際会議が開催された。会議では、ケリーが北京で議論した諸問題の議論だけに終始し、何も進展がないままに終わった。

 しかし、ウィキリークスで暴露された公電では、ケリーが騙されやすい人物であるとは描かれていない。中国政府高官たちと気候変動について話している時、ケリー上院議員は、他国には、気候変動について、中国やアメリカが参加しなくても解決できるように動くよう圧力をかけていた。2008年初めに気候変動について国際的な議論が始まった時、議論の結果が自分の選挙に不利な要素となることをケリーは恐れた。「国際的議論が進み、ある程度の合意が達成されれば、アメリカは議論の結果を尊重し、その合意に基づいて国内法を整備する」とケリーは述べた。しかし、この発言はあまりに楽観的、非現実的すぎる。

 アラブとイスラエルとの間では微妙な和平交渉が行われている。この交渉に対するケリーの関わりは賛否両論を引き起こすことになった。これはウィキリークスが国務省の公電を暴露したことで明らかになった。2009年、ケリーは、レバノンの大統領に対して、「アメリカは和平交渉が長引きすぎ、一刻の猶予もないと感じている」と語った。レバノンの首相との会見で、ケリーは、「ジョージ・ミッチェルが特使に任命されたのは、アメリカが和平達成のために積極的に関与するサインである」と述べた。ケリーはアラブの指導者たちに対して非現実的な約束をした。シリアの副大統領に対して、アメリカの政策は、イスラエルの新たな入植地の拡大に反対する内容だと語った。また、締結されるだろう和平合意の枠組みの概要を話した。そこで、パレスチナの首都は東エルサレムになるだろうと語った。国務省の公電が暴露されたとき、ケリーはカタールの首長との会見の内容が明らかにされ、批判を受けることになった。

 ケリーが収めた成功の中で知られていないのが南アジアに関することである。ケリーは、インドのマンモハン・シン首相、首相の安全保障担当補佐官M・K・ナラヤナンと会見した。この会見で、ケリーは、アメリカとインドとの間で民生用の核技術に関する対話を行うように提案した。そして、米印間の対話の結果が米印原子力協力協定となった。こうした議論の中で、ケリーは慎重な姿勢を崩さなかった。米印原子力協力協定は、インドとアメリカ上院の支持だけでなく、国際機関やインドの一般国民の支持を得た。2008年にムンバイでテロ攻撃が起きた時、ケリーは、インドとパキスタンとの間で緊張が高まらないように調停者として努力した。2009年、ケリーは、アフガニスタンのハミッド・カルザイ大統領を説得し、大統領選挙の決選投票を行うことに成功した。この時のアフガニスタンの大統領選挙は、1回の投票では結果が決まらなかった。そして、カルザイ大統領が決選投票で勝利をしたと時、ケリーは対抗馬の候補に電話をし、潔く敗北を受け入れるように説得した。

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 ケリーはパキスタンに関しては運に見放された。ケリーは、ケリー・ルーガー援助法のようなイニシアチブを通じて、アースィフ・アリー・ザルダーリー大統領の権力の確立と文民政府の樹立を支援することに奮闘した。しかし、パキスタンの強力な軍部の抵抗にあり、ほとんど前進はなかった。オサマ・ビン・ラディンがパキスタンのアボッターバードの隠れ家で発見された時、ケリーが行ってきたパキスタンの文民政府の力の確立に向けての努力は行き詰ってしまった。

 ケリーは、アメリカの国内と国外で気候変動に対処するイニシアチブを創設した。また、レバノン国内に特別法廷を設置することに努力を傾けた。これは政治的な難問となった。そして、これがハリリ政権の崩壊につながった。そして、それから8年過ぎても、ラフィーク・ハリーリー元レバノン首相の暗殺に関して、解明が全く進んでいない。中東の和平合意に向けて、ケリーはアラブ諸国の指導者たちからの助言を受け入れた。彼らは、イスラエル・パレスチナ間の紛争を終息させるには、イスラエルとシリアとの間の主張の相違をまず解決することだとケリーに助言した。ケリーは、この助言を受けて、シリアのアサド大統領と何回もダマスカスで会談を行った。

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 アサド大統領との会見で、ケリーは厳格さを崩さないが、優しさを出していた。2006年12月、ケリーはアサド大統領に対して、和平プロセスに関して積極的な方向に向かっていること、イラク国内に流入する民兵の流れを止めていることを評価していると述べた。また、アサド大統領は既に明確な方向転換を行ったのにブッシュ政権がそれを評価しないという懸念を持っていたが、ケリーはこの懸念を払しょくしようとした。ケリーは、会談(meeting)の締めくくりで、アサド大統領に対して警告(warning)を発した。ケリーは、「イランが優勢になっていると考えている人たちは間違いを犯している」と述べた。また、暴露された公電から紹介する。「ケリーはアサド大統領に対して、中東地域で起きている事件を見て、自分の政権が安泰だという過剰な自信で状況を見誤らないようにすべきだと警告した。現在の状況から見て、アサド政権の将来は悲観的なものであるとも述べた」

 2010年2月、ケリーはカタールの首長と会談した。その中で、ケリーはアサド政権について口にしている。ある公電によると、ケリーは、「ダマスカスを訪問し、アサド大統領が変化を望んでいることは分かった」と述べた。これは、シリアの緊密な同盟国であるカタールに対して、アサドにより圧力をかけるように求めたことになる。より率直な会話の中で、ケリーは、「アメリカはシリアが大きく変化することは期待していないが、会話を始めることは有効だと考えている」と述べた。

 ジョン・ケリーが上院で承認を受けたら、ケリー国務長官の仕事は会話を始めることだ。ケリーは全ての相手(良い相手ともそして悪い相手とも)と交渉を始めている。ケリーの努力が全て実を結んできたということはない。そして、ケリーは、国務長官に就任したら成功確実という訳ではない。しかし、彼のこれまでの業績を見ると、私たちは、彼が成功のための努力をするだろうということだけは分かる。

※J・ダナ・スタスター:フォーリン・ポリシー誌研究員。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


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by Hfurumura | 2012-12-24 00:31 | アメリカ政治