翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリ
全体
スポーツ
社会
アメリカ政治
宣伝
国際政治
pivot to Asia
中国政治
福島
日本政治
個人的なこと
学問
未分類
以前の記事
2013年 11月
2013年 10月
2013年 07月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
お気に入りブログ
検索
タグ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧


カテゴリ:国際政治( 17 )

覇権国を巡る国際関係論の学説を基にして考える。

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



今回は、覇権国(hegemonic state、ヘゲモニック・ステイト)について考えてみたい。副島隆彦先生の本を読まれている皆さんには「世界覇権国」という言葉はお馴染みだ。これは現在で言えばアメリカのことを指す。歴史的に見ればスペイン(17世紀)、オランダ(18世紀)、イギリス(19世紀)、アメリカ(20世紀)の各国がそれぞれ歴史の一時期に覇権国として君臨してきた。日本は第二次世界大戦でドイツと共に新旧の覇権国であるアメリカとイギリスに挑戦して敗れ、戦後、アメリカの従属国(tributary state、トリビュータリーステイト)になったというのが世界的な認識である。

覇権国と覇権(hegemony、ヘゲモニー)というのは政治学(Political Science)、特に国際関係論(International Relations)で使われる概念だ。簡単に言うと、「他からの挑戦を退けるほどの、もしくは挑戦しようという気を起こさせないほどの圧倒的な力を持つこと」が覇権である。国際関係論で言えば、圧倒的な外交力と軍事力と経済力を持ち、他国を従わせることのできる国のことを覇権国と呼ぶ。現在の覇権国は言うまでもなくアメリカである。歴史上、覇権国は交代してきたが、アメリカの次は中国が覇権国なるという見方も出てきている。これまでの歴史を考えると覇権国の地位はある程度の期間で交代しており、アメリカが永久に覇権国であるとは言えない。

 現在のアメリカは景気が低迷し、巨大な軍事力を持つ負担に耐えられなくなっている。アメリカは巨額の国債を発行し、中国や日本、サウジアラビアが買い支えている。他国のお金で巨大な軍事力を維持しているのはおかしな話だ。「アメリカの軍事力があるから世界の平和は保たれているのだ。だからその分のお金を払っていると思えば良いのだ」という主張もある。しかし、他国のお金頼みというのは不安定なものだ。国債を買ってもらえなくなればお金が入ってこなくなる。そんなことになれば世界経済は一気に崩壊するから、あり得ないことだという意見もあるが、不安定な状況であることは間違いない。

 現在、アメリカの政府機関は閉鎖状態にある。これは、アメリカ連邦議会が2013―2014年度の連邦予算を可決していないためである。現在、アメリカ連邦上院は、民主党(Democrats)が過半数を占め、一方、連邦下院は共和党(Republicans)が過半数を占めている。日本風に言えば、「ねじれ国会」の状態にある。民主党側と共和党の一部は予算を通したいのだが、共和党の中にいるティーパーティー系の議員たちがオバマ大統領の推進した健康保険政策(オバマケア)の廃止を目論んで、民主党と対立している。また、上院と下院の間でも対立が起きている。これに加えて、アメリカ国債の上限問題も再燃し、2013年10月17日までに予算の執行と国債の上限が引き上げられないと、アメリカは国債の償還に応じられない、デフォルトに陥ってしまう。こうなると、アメリカ発の世界規模での景気後退が発生してしまう懸念もある。このように、アメリカの覇権国としての地位も危ういものであることが今回露呈された。

ここからは、国際関係論の分野に存在する覇権に関する理論のいくつかを紹介する。これまで国際関係論という学問の世界で覇権についてどういうことが語られてきたのかを簡単に紹介する。私の考えでは、国際関係論で扱われる覇権に関する理論は現実追認の、「アメリカはやってきていることは正しい」と言うためのものでしかない。それでもどういうことを言っているかを知って、それに対して突っ込みを入れることは現実の世界を考える際に一つの手助けになると私は考える。

まずは覇権安定論(Hegemonic Stability Theory)という有名な理論がある。これは、覇権国が存在すると、国際システムが安定するという理論である。覇権国は外交、強制力、説得などを通じてリーダーシップを行使する。このとき覇権国は他国に対して「パワーの優位性」を行使しているのである。そして、自分に都合の良い国際システムを構築し、ルールを制定する。このようにして覇権国が構築した国際システムやルールに他国は従わざるを得ない。従わない国々は覇権国によって矯正を加えられるか、国際関係から疎外されて生存自体が困難になる。その結果、安定的な国際システムは安定する。

ロバート・コヘイン(Robert Keohane)という学者がいる。コヘインはネオリベラリズム(Neoliberalism)という国際関係論の学派の大物の一人である。ネオリベラリズムとは、国際関係においては国家以上の上位機関が存在しないので、無秩序に陥り、各国家は国益追求を図るという前提で、各国家は協調(cooperation)が国益追求に最適であることを認識し、国際機関などを通じて国際協調に進むという考え方をする学派である。

コヘインが活躍した1970年代、アメリカの衰退(U.S. Decline)が真剣に議論されていた。そして、コヘインは、覇権国アメリカ自体が衰退しても、アメリカが作り上げた国際システムは、その有用性のために、つまり他の国々にとって便利であるために存続すると主張している。コヘインは、一種の多頭指導制が出現し、そこでは、二極間の抑止や一極による覇権ではなく、先進多極間の機能的な協調(cooperation)が決定的な役割を果たすだろうと書いている(機能主義)。

ロバート・ギルピン(Robert Gilpin)は、1981年にWar and Change in World Politics(『世界政治における戦争と変化』、未邦訳)という著作を発表した。リアリズムの立場から、国際政治におけるシステムの変化と軍事及び経済との関係を理論化した名著だ。本書は国際関係論の古典の一つともなっている。ギルピンは、覇権安定論(hegemonic stability theory)の唱道者の一人である。覇権安定論は、ある国家が覇権国として存在するとき、国際システムは安定するという考え方である。しかし、ギルピンは『世界政治における戦争と変化』のなかで、覇権国の交代について考察している。

本書の要旨は次の通りである。歴史上国際システムが次から次へと変わってきたのは、各大国間で経済力、政治力、社会の持つ力の発展のペースが異なり(uneven growth)、その結果、一つの国際システムの中で保たれていた均衡(equilibrium)が崩れることになる。台頭しつつある国が自分に都合がいい国際システムを築き上げるために、現在の国際システムを築き上げた覇権国と覇権をめぐる戦争(hegemonic war)を戦ってきた。台頭しつつある国が勝利した場合、その国が新たに覇権国となり、自分に都合の良い国際システムを構築する。逆に現在の覇権国が勝利した場合、そのままの国際システムが継続する。

現在、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)という各新興大国の経済発展はすさまじい勢いである。先進国である欧米、日本の経済成長はほとんどなきが如しであり、日本のGDPは中国に既に抜かれた。現在世界最大のGDPを誇るアメリカも10年から20年以内に中国に抜かれてしまうという予測もある。ギルピンの理論は、世界各国の不均衡な発展は覇権戦争を導くとしている。理論通りになると、アメリカが既存の覇権国で挑戦を受ける側、中国が新興大国で覇権国に挑戦する側になって戦争が起きるということが予測される。このギルピンの理論は歴史研究から生み出された理論である。スペインが打ち立てた覇権をオランダが奪い、オランダに移った覇権をイギリスが奪取するが、やがてアメリカに奪われるという歴史を踏まえての理論である。

それでは、未来のある時点でアメリカと中国が覇権をめぐって戦争するかと問われると、「ここ数年以内という直近の間では戦争はない」と私は考える。こう考えるにはいくつかの理由がある。第二次世界大戦での日本とドイツ、冷戦でのソ連とアメリカの覇権に挑戦して失敗した国々を見ていれば、「戦争をして覇権を奪取する」と言うのは危険を伴うということは分かる。だから中国の立場からすると戦争をするのは慎重にならざるを得ない。米中それぞれの軍人たちはスポーツ選手が試合をしたくてうずうずしているように「戦争をしてみたい、手合わせをしてみたい」と思っているだろう。しかし、政治指導者たちはそんな危険な賭けをすることはない。

また中国は、アメリカの覇権下で急激な経済成長をしてきたのだから、今のままの環境が維持されるほうが良い。アメリカとの貿易がこれからもどんどん続けられ、輸出ができればそれで良い。アメリカが不況で輸入が鈍化すると中国も困る。だから輸出先を多く確保しておくことは重要だが、アメリカがこのまま世界一の超大国であることは現在の中国にとっても利益となることである。ギルピンの理論では自国にとって不利なルールが嫌になって新興大国は、戦争をすることの利益と損失を計算したうえで、戦争を仕掛けるということになっている。現在の中国にとっては、現状維持、アメリカが超大国であることが重要だから、自ら戦争を仕掛けるということはない。アメリカが覇権国としての地位を失い、経済力を失うことを一番恐れているのは、チャレンジャーと目される中国だと私は考える。

また、イギリスからアメリカに覇権が移った過程を考えると、「覇権国が勝手に没落するのをただ見ているだけ」「覇権国の没落をこちらが損をしないように手伝う」という戦略が中国にとって最も合理的な選択ではないかと私は考える。イギリスは「沈まない帝国」として世界に君臨し、一時は世界の工業生産の過半を占め「世界の工場」と呼ばれるほどの経済大国となり、その工業力を背景に軍事大国となった。イギリスはアメリカの前の覇権国であった。
しかし、ヨーロッパ全体が戦場となった第一次、第二次世界大戦によって覇権国の地位はイギリスからアメリカに移動した。第二次世界大戦においてはアメリカの軍事的、経済的支援がなければ戦争を続けられないほどだった。アメリカは農業生産から工業生産、やがて金融へと力を伸ばし、超大国となっていった。そして、自国が大きく傷つくことなく、イギリスから覇権国の地位を奪取した。イギリスとアメリカの間に覇権戦争は起きなかった。外から見ていると、アメリカに覇権国の地位が転がり込んだように見える。中国も気長に待っていれば、アメリカから覇権が移ってくるということでどっしり構えているように見える。

現在の中国はアメリカにとって最大の債務国である。中国はアメリカの国債を買い続けている。中国にとってアメリカが緩慢なスピードで没落することがいちばん望ましい。「急死」されることがいちばん困る。覇権国が「急死」すると世界は無秩序になってしまい、経済活動が鈍化する。中国としては自国が力をためながら、アメリカの延命に手を貸し、十分に逆転したところで覇権国となるのがいちばん労力を必要とせず、合理的な選択なのである。

「覇権をめぐる米中の激突、その時日本はどうするか」というテーマの本や記事が多く発表されている。日本でも「日本はアメリカと協力して中国を叩くのだ」という勇ましいことを言う人たちも多い。しかし、その勇ましい話の中身も「日本一国ではできないがアメリカの子分格であれば、中国をやっつけられるのだ」というなんとも情けないものである。

米中が衝突することでその悪影響は日本にも及ぶ。日本は中国や韓国といった現在の「世界の工場」に基幹部品を輸出してお金を稼いでいる。米中が戦争をすることは日本にとって利益にならない。だからと言って、日本が戦争を望まなくても何かの拍子で米中間の戦争が起きるという可能性が完全にゼロではない。このとき、日本がお先棒を担がされて戦争や挑発に加担しないで済むようにする、これが日本の選ぶべき道であろうと私は考える。そして、大事なことは。「日本は国際関係において最重要のアクターなどではない、ある程度の影響力は持つだろうが、それはかなり限定される。そして、アメリカに嵌められないように慎重に行動する」という考えを持つことである。そう考えることで、より現実的な対処ができると思う。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


[PR]
by Hfurumura | 2013-10-17 15:09 | 国際政治

これからブレイクする7つの国:フォーリン・ポリシー誌から

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



これから新たにブレイクする国々(The New Breakout Nations):ブリックス諸国のことは忘れてください。世に知られていない7つの国を見てみよう(Forget the BRICs. Meet seven unheralded countries to watch.)

ルチア・シャルマ(Ruchir Sharma)筆
フォーリン・ポリシー誌(Foreign Policy)12月号
http://www.foreignpolicy.com/articles/2012/11/26/the_new_breakout_nations?page=0,0
http://www.foreignpolicy.com/articles/2012/11/26/the_new_breakout_nations?page=0,1

 1980年代、世界は「新興市場(emerging markets)」の発見に沸き立ち、2000年代には調達がしやすい資金によってバブル経済が発生し、急速な経済成長が起こった。しかし、こうしたことは既に過去のことである。これから伸びると頻繁に宣伝された国々、ブラジル、ロシア、インド、中国は全て成長が急激に鈍化している。発展途上国の平均の経済成長率は昔の水準に戻って、約5%となっている。現在の世界経済は緩やかな成長を示しているが、不均衡な形で成長している。そして、これまでは評価されてこなかった国々がスターとして出現しつつある。ブリックス諸国のことは忘れよう。そして、これからブレイク確実な7つの国々について見てみよう。

 1.フィリピン:フィリピンの豊富な天然資源はいまだに手つかずのままだ。そして、フィリピンの一人あたりの平均年収は3000ドル以下のままの状態が長年推移してきた。しかし、これらのことは、フィリピンが成長の余地を大いに残していることを意味している。2010年の選挙以来、ベニグノ・“ノイノイ”・アキノ大統領は、国民に約束した、半世紀前のフィリピンの栄光を取り戻すために努力している。半世紀前、フィリピンは次の東アジアの虎(East Asian tiger)になると考えられていた。アキノ大統領は、政府支出の透明性を高める改革に着手し、税収の増加を図ろうとしている。フィリピンは、海外からのアウトソーシング産業の成功によって、国民の平均年収が増加し、国民の間へ富の拡散が進んでいる。

 2.トルコ:GDP1兆ドル(約80兆円)クラブに入るであろうと予想されているのが、イスラム教民主国家であるインドネシアとトルコである。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、正統な経済政策を実施した。2003年にエルドアンが首相の地位に就いたとき、ハイパーインフレがトルコを襲っていた。また、歴代の世俗政権が締め出してきた敬虔なイスラム教徒たちに公職を開放した。これはトルコ国民の大多数を経済活動の主流に迎え入れることを意味していた。その結果、トルコはエルドアン首相就任以来繁栄を続けている。経済成長は、自動車の輸出の成功と金融部門の急激な伸びによって支えられている。

 3.インドネシア:天然資源を輸出することで経済成長をしてきた国々、ブラジルやロシアなどは、世界規模の金行き来が発生したことで、成長が急激に鈍化した。しかし、インドネシアは、天然資源がけん引する経済であるが、バランスを保つことができている。そのバランスとは、輸出と健全な国内消費、首都と経済成長の源泉となっている経済活動の活発な地方と間でのバランスのことだ。スシロ・バンバン・ユドヨノ大統領は、経済改革に必要なことをよく理解している政治リーダーである。インドネシアは、東南アジアの経済新興諸国のモデルとなっている。これらの国々は、1997年の通貨危機で競争力を失ったが、現在では回復させている。

 4・タイ:タイは近隣諸国と同様、1990年代後半に発生した東アジア通貨危機で苦境に陥った。この時中国の通貨人民元が突然切り下げられたことで、東南アジア諸国は競争力を失ってしまった。しかし、ここ数年で人民元の価値が調整され、中国の労働者の賃金が上昇したことで、東南アジア諸国とタイの製造業は再び競争力を持つようになった。タイの持つ弱点は、首都と地方との間の終わりの見えない政治的な緊張関係である。インラック・シナワット首相がこの緊張関係をうまく封じ込めることができたら、タイは、メコン川流域の交易回廊の中心として繁栄することができる。

 5.ポーランド:ポーランドは2004年にEUに加盟した。ポーランドは、「スイート・スポット」の事例研究にぴったりの国である。「スイート・スポット」とは、EUに加盟した国が、その後しばらくの間、ユーロを採用しなくても良いという期間のことである。ポーランドは、安定した投資を呼び込み、EUからの補助金をうまく利用している。そして、金融機関の改革を行い、EUの基準に合わせるために財政赤字を削減してきた。同時に、ユーロを採用しなかった混乱をうまく回避した。ポルトガルとスペインを見れば、その混乱がいかに深刻であるかは理解できる。ポーランドはヨーロッパ諸国の平均よりもかなり速いスピードで経済発展を続けているが、ユーロへの加盟を急いでいない。ポーランドはヨーロッパ諸国の改革のお手本であることを自任している。ポーランドは年金制度の改革を行い、支給年齢を67歳に引き上げた。ヨーロッパ諸国の多くは、支給年齢を50歳代後半のままにしているのとは対照的である。

 6.スリランカ:これまで戦争の勃発によって、それまで高い経済成長をしてきた国々の成長が止まってしまうことはよくあった。しかし、これに当てはまらないのがスリランカである。スリランカでは、タミル・イーラム解放の虎が1980年代に蜂起し、数年前まで内戦が続いていた。スリランカ経済は、内戦が起きていた時期でも4~5%の経済成長を維持してきた。これは奇跡だ。内戦では国土の30%を荒廃させ、国民の15%が命を失った。現在、スリランカは、反乱軍がコントロールしていた地域を国家に再加入させ、再出発を図ろうとしている。スリランカはインドと中国との間の交易ルートにおいて戦略上重要な場所にあり、国民の識字率も高い。このような条件が揃っているので、スリランカは、急速な経済成長を達成するものと考えられている。

 7.ナイジェリア:ナイジェリアは、長年腐敗した政治指導者たちに食い物にされてきた。しかし、現在のグッドラック・ジョナサン大統領は、改革に取り組んでいる。ナイジェリアの農業、石油と天然ガス、そして最も重要な電力への投資を促進している。現在のところ、ナイジェリア全体で生み出される電力は、イギリスの複数の小さな町の電力量を合わせたレベルでしかない。そして、安定した電力供給ができないために、ナイジェリアでビジネスを展開することは難しい状況にある。しかし、ナイジェリアのような国で重要なことは、かなり低いレベル(国民一人あたりの平均年収が約1500ドル)なので、経済成長にそれほどの時間と資源を必要としないということだ。政治指導者がこれまで悪いから良いに大きく転換した。そして、基本的なインフラの整備と投資の促進に集中している。これだけの条件が揃っているので、ナイジェリアは、ここ5年間で、世界で最も急速な経済発展を達成することができる。そして、この経済発展プロセスを進んでいけば、アフリカ大陸で最大の経済規模を誇る国になるだろう。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


[PR]
by Hfurumura | 2012-11-27 13:56 | 国際政治

リバータリアニズムの立場からの日米中関係論:ナショナル・インタレスト誌から②

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



 アメリカはいくつかの小さな岩礁(日本はこれらの岩礁の海底に炭化水素が埋蔵されていると希望に基づいて考えを持っている)をめぐり、日本の味方をして中国と戦争するとは決まっていない。確かなことではない。それでも、野田政権は、アメリカ政府に対して、中国と戦うと約束して欲しいと望んでいる。不幸なことに、オバマ政権は、そのような約束をするほど戦争を求めてはいないし、お人よしでもない。アメリカ政府の高官たちは、日本政府が日米共同訓練において、島の奪還をシミュレーションした訓練編参加をキャンセルしたことを怒っている。日本は島奪還の訓練を米軍と行うことは、中国を刺激してしまうことになると考えたようだ。しかし、オバマ政権は、日本側のキャンセルは、中国に対して、日本は弱腰であるというサインを送ってしまったと考えている。

 アメリカが世界の救急隊の役割を終えるべき時期はとっくの昔に過ぎたのだ。しかし、今からでも遅すぎるということはない。

 日本は自力で中国と対峙し、抑え込むことができる。日本はGDPの約1%を防衛費に支出しているが、それでも近代的で、能力の高い「自衛隊(Self-Defense Force)」を作り上げてきた。「海上自衛隊(Maritime Self-Defense Force)」は48隻の艦艇と18隻の潜水艦を保有している。また、7つの航空団もある。「航空自衛隊(Air Self-Defense Force)」には7つの戦闘航空隊がある。野田政権が経済力と安全保障上の脅威に見合った防衛支出を始めれば、中国政府が事を構える気をなくすほどの軍事力をすぐに作り上げることができる。

 もちろん、アジア地域では歴史が今でもその影響を残している。日本の近隣諸国は、第二次世界大戦終結後約70年間にわたり、日本の防衛力増強を望まず、アメリカに肩代わりをしてもらいたいと願ってきた。これらの国々は、日本の軍事帝国による略奪行為に対する恐怖感を芝居がかった方法で表現してきた。それは、アメリカによる救済、救援を期待してのことだった。自国を自力で防衛しなくてはならなくなったら、これらの国々は、日本叩きで利益が得られるかどうか考え直すことになるだろう。

 中国は経済規模こそ大きくなったが、まだまだ貧しい国である。また、中国は近隣諸国との関係は悪い。中国とインドとの関係も緊張が続いている。中国は軍事力を増強しているが、それは、最も戦争の可能性が高い台湾向けである。中国がどんなに虚勢を張っても、日本と戦争をすることはできない。特に、そんな小さな岩礁を巡って戦争はできない。

 更に言うと、中国政府は攻撃的な姿勢を強めているが、これは、地域の他の国々を覚醒させるものであり、総意を乗り越え、協力関係を築かせるものだ。ここの国の力を見れば、北方の巨人、中国にはかなわない。しかし、団結すれば、政治的、軍事的に中国を封じ込める力を持つことができる。アメリカに依存できる限り、これらの国々は、そのような団結のために努力をする必要はない。フィリピンは、自国の防衛力を高めようと努力しているが、アメリカに哀れなほど依存している状況だ。

 明らかなことは、アジアはアメリカにとって問題の多い地域だ。しかし、中国を含め、どの国も地域を支配するほどの力は持っていない。アメリカは、オフショア・バランサーとして、注意深く行動すべきだ。そして、地域内で大きな、覇権を求めるような脅威が発生したら、いつでも行動できるように準備は怠ってはいけない。中国が地域内の覇権を求める動きに出ることがあっても、それは数年、もしくは数十年先のことだ。ここしばらくは、中国の近隣諸国は、自国の安全保障に自国で責任を持つべきだ。特に、他国と争っている領域に関しては自国で責任を持つべきだ。

 現在、アメリカは安全保障上の保証をいろいろな国に与えている。それはまるでホテルの客室に置かれているウェルカム・チョコレートのようだ。防衛を行うという約束は、安上がりで、広くいきわたらせることができると考えられている。もちろん、これは、アメリカは約束しても、その約束の実行を求められないということが前提になっている。残念なことに、歴史を振り返って見ると、安全保障の保証が戦争を抑止できなかった例は多々ある。その中には、第一次世界大戦と第二次世界大戦も含まれる。戦争のリスクは、当事者間の利益や関心がかけ離れている場合に大きくなる。そうれはこういうことだ。日中両国が尖閣諸島に関心を払う一方、アメリカは全く関心を持たない。従って、日中両国は、アメリカが戦争の順をしているのかはわからないが、とりあえず大きなリスクを取る用意をする。だから、野田政権は安全保障ガイドラインの更新をしたいと思っているのだ。

 いざとなった必ず中国と戦争をすると約束することはアメリカにもう一つの危険をもたらす。軍事力が劣る国が、自分の背後の強大な国を頼むことができた場合、この国はリスクを冒すことが多い。ロシアを頼んだセルビア、ドイツを頼んだオーストリア・ハンガリー帝国は、1914年の夏にそれぞれ意地を張って戦争に突入した。台湾とグルジアはそれぞれアメリカの支持を背景にして、中国とロシアを嘲笑した。グルジアは日本が求めている、アメリカが必ず支援するという各役所を持っていなかったために、2008年、ロシアからの新興を受けるという高い代償を支払う羽目に陥った。現在、日本はアメリカに対して疑いの目を向けている。しかし、日本がアメリカの軍事力に依存できると分かったら、日本は中国との対決姿勢をもっと鮮明に打ち出すだろう。アメリカが戦争をすると確約することが誰かの利益となるだろうか?

 日本はアメリカによって数十年にわたり守られてきた。それに対して日本は不満である。そして国際的に承認された領土をアメリカ軍がこれまで通り守り続けるというだけでは不十分なのである。日本はより多くを望むようになっている。アメリカは日本が領有を主張するものすべてを守るべきだと日本は考えている。彼らの主張の正当性や衝突でどのような結果がもたらされるかは考慮していないようだ。このような要求を受け入れることは、アメリカの経済状況がたとえ良好であっても、馬鹿げたことだ。アメリカは破産寸前の状況だ。中国から借金をしている。そして、そのお金を使って日本を防衛している。私たちは、これ以上、日本に対して軍事的な関与を拡大することはできない。

 権力の誘惑によって堕落する前、民主党は、日本のアメリカに対する不自然な防衛依存を終わらせたいと望んだ。オバマ政権は日本が最初に望んだ方向へ進むように手助けすべきだ。アメリカ政府は、日本に対して、「日本が尖閣諸島の領有を主張するなら、自分で防衛しなさい」とはっきり伝えるべきだ。

※ダグ・バンドウ:ケイトー研究所上級研究員。ロナルド・レーガン大統領特別補佐官。著書に『罠の仕掛け:変化した世界における韓国とアメリカ外交政策』などがある。共著に『朝鮮半島という難問:アメリカと北朝鮮・韓国との問題を抱えた関係』などがある。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


[PR]
by Hfurumura | 2012-11-20 21:37 | 国際政治

リバータリアニズムの立場からの日米中関係論:ナショナル・インタレスト誌から①

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



 今回は、リバータリアニズムの立場からの日米中関係論をご紹介します。著者のダグ・バンドウは、ワシントンにあるケイトー研究所(Cato Institute)に所属し、リバータリアニズムの立場から、外交政策について多くの提言を行っています。

 今回の記事は、彼にとってはあまり詳しくない日本についてなので、記事の中では、事実誤認もあります。日本がアメリカに完全にタダ乗りしている記述がありますが、「思いやり予算」は、アメリカではあまり知られていないことが分かります。記事の中に面白い記述があり、「アメリカは中国から借金をしている。それで日本を中国から守ってやっている」というものです。まさにその通りですが、これに加えて、「日本から用心棒代を取り上げている」というのも付け加えるともっと正確になるでしょう。

 バンドウは、「アメリカはいくら日本と安全保障条約があるからと言って、中国と戦争する訳にはいかない」と身も蓋もないことを言っています。しかし、これはアメリカの一つの意見でありましょう。そして、それぞれの国が自国の防衛に責任を持つべきだと述べています。リバータリアニズムの立場からすれば、アメリカ軍は海外展開すべきではなく、撤退すべきだということになりますから、これも当然のことです。

 アメリカが戦争をしてくれない以上、日本はどうすべきでしょう。やはり、アメリカと同じで、何があっても戦争をすべきではないということになるでしょう。そして、アメリカというくびきがなくなったとき、どう動くべきか、これを機会に考えてみるというのもよいでしょう。

==========

トーキョーには「ノー」と言え(Say No to Tokyo)

ダグ・バンドウ(Doug Bandow)筆
ナショナル・インタレスト誌(National Interest)
2012年11月19日
http://nationalinterest.org/commentary/say-no-tokyo-7747
http://nationalinterest.org/commentary/say-no-tokyo-7747?page=1

 日本は現在、中国との間で激しい領土を巡る争いを展開している。日本は、「アメリカが日本を防衛してくれ」というより強力な保証を求めている。日本の民主党は、日本がより独立した、国際社会におけるプレイヤーになることを約束したのだから、アメリカ政府は、日本が領有権を主張している、全く価値のない岩礁をめぐり、中国と戦争をすることには、「ノー」と言うべきだ。

 中国はアジア・太平洋地域でより積極的な役割を果たすようになっている。これは、経済的な成功、指導部の交代の時期で軍部に対する政治のコントロールが弱まっていること、西洋諸国の力が弱まっていると中国が考えるようになっていることが原因だ。

その結果として、アジア地域では領土争いが頻発している。中国と、フィリピン、ベトナムとの間の関係は厳しいものとなっている。しかし、尖閣諸島(中国名:釣魚島)をめぐる中国と日本との間の争いは、特に激しくなっている。この領域は日本によって実効支配されている。しかし、中国は、沿岸警備隊の艦船や海洋調査船を尖閣諸島の海域に送っている。今のところ、日中両国が本当に衝突することはないと考えられている。しかし、専門家の中には、ちょっとした誤りや計算違いで戦争が起きる可能性を指摘する人々がいる。

 アメリカ政府は、日中両国それぞれの主張のいずれも支持していない。しかし、今から2年前、ヒラリー・クリントン国務長官は、尖閣諸島は、日米安全保障条約の適用内にあると発言した。皮肉なことに、尖閣諸島(ただの岩礁であるが、日本側は島と呼んでいる)は、沖縄の近くにあり、沖縄は、アジア地域で最もアメリカ軍が集中して駐屯している場所だ。

 それにもかかわらず、日本人の多くは、日本側の主張を守るために、アメリカが中国と戦争してくれるかどうか疑わしいと考えている。これだけははっきり言っておきたい。日本の岩礁を守るためにアメリカが中国と戦争をするなど狂気の沙汰だ。アメリカが中国と戦争する可能性が少しでもあるのなら、私たちは、日米間の間違った言葉づかいである(実態は全く異なる)、「相互(mutual)」安全保障条約について詳しく見ていかねばならない。

 先週、森本敏防衛大臣は、日米同盟防衛ガイドラインの更新を提案してきた。それには、尖閣諸島防衛も含まれている。森本大臣は次のように述べた。「中国の海洋での活動が活発化している問題がある。また、安全保障環境も大きく変化している。私としては、日米同盟の置かれている状況の見直しを始めたいと考えている」

 日米同盟防衛ガイドラインは、1997年に改訂された。この当時、日本は、北朝鮮との間で緊張を高めていた。1997年の改定はこの緊張を反映したものだった。日本は、第二次世界大戦後、アメリカが強制した憲法を持ち、その憲法によって軍隊を持つことができない。その日本が、日米同盟防衛ガイドラインの改定で、新たな敵を加え、アメリカに戦ってもらおうというのだ。

 アメリカに日本の敵と戦ってもらおうというのは、日本の民主党が提唱してきたものとは異なる。民主党は3年前に政権を獲得した。民主党はその時の選挙戦では、トーンをだいぶ下げたが、もともとは次のように主張していた。「私たちは、アメリカの移行に沿う以外に選択肢がない、依存した関係を脱却する。独立と平等に基づいた、成熟した同盟関係を築いていく」

 韓国のある大統領候補のように、民主党政権の総理大臣たちは、独立のための戦いを放棄し、アメリカの防衛補助金の増額を求めた。沖縄では、大規模なアメリカ軍の駐留による巨大な負担に対して、不満がくすぶり続けてきた。それにもかかわらず、民主党は、アメリカ軍の駐留を減らし、負担を減らすとした約束を反故にした。日本政府は沖縄を見捨てたのだ。

 その理由は簡単だ。日本は世界第三位の経済大国であるにもかかわらず、それに見合った防衛予算の支出をしたがらないのだ。日本政府は自国と地域の防衛のためにより一層の努力と支出をすべきだ。しかし、実際には、アメリカ政府が代わりに防衛をしてやっているので、日本政府はそのようなことをする必要がないのだ。

(つづく)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


[PR]
by Hfurumura | 2012-11-20 21:35 | 国際政治

尖閣問題:ナイ・アーミテージとは全く異なるアメリカ知識人の意見

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



日中間の緊張の裏側(Behind Sino-Japanese Tensions)

ロバート・A・マニング(Robert A. Manning)筆
ナショナル・インタレスト誌(National Interest)
2012年11月13日
http://www.nationalinterest.org/commentary/asias-morass-its-not-about-the-rocks-7725
http://nationalinterest.org/commentary/asias-morass-its-not-about-the-rocks-7725?page=1

c0196137_19562163.png


 日中間の緊張はこれからもなくならないだろう。そして、日中間の緊張は、現代のアジア地域において、第一次世界大戦のきっかけとなったオーストリア=ハンガリー帝国のフェルディナンド皇太子の暗殺事件に匹敵する重大事となるだろう。

 ここ数週間、領土争いの的となっている岩礁付近に中国の船舶がほぼ毎日姿を現すという形で緊張が続いている。中国側は、海洋調査船と漁業監視船(軍艦ではない)日本が実効支配をしている尖閣諸島(中国は魚釣島と呼んでいる)の領海(12マイル)のすぐ外を航行している。しかし、これらの船が航行しているのは、排他的経済水域200マイルの内側ではある。東シナ海の海上に浮かぶ5つの岩礁には数十頭のヤギが生息しているに過ぎない。

 しかし、日中間の争いはここ数カ月、熱を帯びている。ナショナリスト的な感情が沸騰し、世界屈指の経済大国同士の関係を難しいものにし、停滞させている。日中両国の争いは、東アジアのより大きな流れを象徴している。韓国と日本もまた、似たような争いの渦中にいる。日韓両国は、竹島(韓国名:独島)という、尖閣諸島よりも小さな岩礁を巡り争っている。事態を急展開させたのは、韓国側だった。今年は韓国の大統領選挙の年でそれも重なった。韓国の大統領李明博(イミョンバク)は、8月に韓国の大統領として初めて竹島を訪問した。韓国政府は組の夫婦に公的資金を与え、竹島に住まわせて、「竹島には住民がいる」ということを宣言している。李大統領は、竹島のようなほんの小さな岩礁でも国土の一部であり、「私たちの生命をかけてでも守る価値がある」と述べている。

 日韓の間の紛争だけではない。南シナ海でも、似たような争いが起きている。中国とベトナムの間では、パーセル群島を巡り争いがある。中国は、ベトナム、フィリピン、マレーシアとの間で、スプラットリー群島を巡り争っている。それぞれは、とても小さなサンゴ礁の島であるが、これらの領有権を巡って国々が争っている。

 これは、岩礁と石油と天然ガスが埋蔵されていると評判の(かなり誇張されている)海域を巡る争いだけにはとどまらない。争いが起きている水域に埋蔵されている石油と天然ガスは、海洋掘削技術に投入される資金に見合うものではない。そして、この投資は、争いの対象になっている地域の法的、政治的な貴族が明確になるまで回収できない。合理的に考えれば、共同して経済発展を目指すはずだ。更には、これらの領土争いは、貿易航路上で戦略的優位を確保するということを目的にしているものではない。海賊やテロリストを除いて、誰が国際貿易を断絶させようというのだろうか?

●歴史が逆襲している(History Strikes Back)

 これらの争いの核となるのは、地政学上の要因以上の、もっと厄介なものである。だから、合理的なアクターなら、そうするであろうことが起きていないのである。これらの衝突の核にあるのは、感情的で非合理的なものである。そして、このようなものが、20兆ドル(約1600兆円)規模の地域経済を危機に陥れようとしているのだ。

 日本と中韓両国の場合、争いの原因は歴史的な記憶の問題である。中韓両国という、誇り高く、発展に成功した経済的、政治的大国の歴史につけられた傷の問題である。劉曉明(Liu Xiaoming)駐英中国大使は、英紙フィナンシャル・タイムズに最近、寄稿した。その中で次のように書いている。

 「多くの歴史学者が戦後の日本とドイツを比較し研究してきた。彼らの結論は同じだ。それは、ドイツと異なり、日本は、第二次世界大戦中の行動を真剣に反省してこなかったというものだ。戦争犯罪人が今でも東京にある靖国神社に祀られている。日本の指導者は不承不承謝罪をしてきたが、近隣諸国の人々を納得させるものではなかった」

 このような病理学的な苦境は、「生きる歴史(living history)」という言葉に新しい意味を加えた。癒されない心理的な傷(屈辱と汚辱の感覚)は、日本の植民地支配(韓国:1910―1945年、中国:1930年代)の時のトラウマを反映したものだ。これらの傷は、中韓両国の経済発展と国家的威信に悪い影響を与えるものになっている。中国の指導部の世代交代と韓国の大統領選挙における政治的に過激な行動は、現代の中国と韓国の国家的アイデンティティの本質が表に出てきていることなのだ。また、南シナ海における中国とベトナムの争いには、長い間の歴史も絡んでいる。1970年代のアメリカの政策立案者たちが見落としていと思われる点は、中国とベトナムは2000年間も争ってきた歴史を持つという点だ。

●これからどこに向かうか?(Where Does it Lead?)

 アジア地域で様々な領土を巡る争いが過熱しても、アジア地域における経済的として金融の統合は今までのペースを守って進んでいくことになる。数週間前、アセアン+6(中国、インド、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド)は、来年(2013年)1月に、新しい貿易協定(trade accord)である、地域包括経済パートナーシップ(Regional Comprehensive Economic Partnership、RCEP)のための交渉を開始すると発表した。金融に関して言うと、チェンマイ・イニシアティヴ(アセアン、中国、日本、韓国)で合意した、危機の際に外貨準備を融通の額を2倍の2400億ドル(約19兆円)にまで拡大することになった。

 このような行動パターンが精神分裂のように見えても、それは、確かに多少は精神分裂傾向があると言えるだろう。これまでの40年間、東アジアの人々は経済発展に手中してきた。そして、歴史上、最も印象的な、急速な経済発展を成し遂げてきた。ナショナリズムを出現させることで、この成功を危機に晒すのだろうか?ヨーロッパも同じような歴史を持っている。1910年、ノーマン・エンジェルは『大いなる幻想』という本を出版し、ベストセラーになった。この本の中で、エンジェルは、「世界は貿易や金融の面でこれまでにないほど、相互依存関係が進んだ。よって、戦争を起こすことは不可能になった」と主張した。しかし、1914年に第一次世界大戦が勃発した。

●島嶼を巡る争いは問題になるのか?

 アジアは、ナショナリスッティックな病理を分類し終わる前に、二度の破滅的な世界大戦の経験をまた繰り返す必要があるのだろうか?恐らくあるのだろう。現在の国境線を最終的に確定した国境線として受け入れる国はない。これがアジアの現実だ。しかし、ここで一つの疑問が出てくる。それは、「この情報化が進んだ経済社会において、国境線がそんなに重要なものなのか?」というものだ。私たちは、過去のアルザス・ロレーヌ、満州、朝鮮半島について話しているのではない。私たちは全部合わせても香港よりも小さな岩礁について話しているのだ。このような小さな領土を巡る争いに「勝った」として、何を得ることができるのか?相手を負かして、そして気分が良いという以上のことは何か手に入るのだろうか?情報化が進んだグローバル経済の時代である今日、シンガポールのような国土の狭い国が、広大な国土を持つ国々よりも重要なアクターになっている。

 アメリカ人というものは、全ての問題には解決策があるものだと考える。残念ながら、全ての問題に解決策があるということはない。問題の中には解決はできなくても、コントロールすることができるものがある。東アジアでの衝突もまたコントロールすることは難しい。ナショナリズムと能力の高い軍隊が一緒になると、争いは過熱してしまう。

 アメリカにとっては、アジア地域の安保条約を締結した同盟諸国が複雑に絡み合い、衝突によって板挟みの苦しい状況になっている。尖閣諸島は日本が実効支配している。日本とは安保条約を結んでおり、日本が攻撃された場合、私たちアメリカは日本を防衛する義務を負っている。より難しいのは、韓国と日本という、アメリカの同盟国同士の間で敵意が醸成されていることだ。日韓両国で衝突が起きた時、アメリカはどちらの側につき、どちらを捨てるのか?

 国家の名誉というものが果たす役割について考えると、多くの争いを解決することは難しいと言わざるを得ない。体面を失ってもそれを受容できる国はあるだろうか?いくつかの国々は、オランダのハーグ市にある国際司法裁判所に争いを提訴することで対面を保とうとしている。しかし、これまでうまく解決できたケースはほとんどない。海洋法条約では、三カ国以上で相争う主張をどのように解決すべきかについて規定がない。誰が、歴史的な主張(例:「私たちが最初に尖閣諸島を発見した!」)の正しさを判断し、争いが起きる前に存在した条約の中身を判断することができるだろうか?

 楽観的なシナリオとしては、「時間が経てば熱情が覚めていく、そして、経済的繁栄への熱望が高まっていく、領土を巡る争いは、これまで半世紀続いてきたように、これからも残り、人々を刺激し続ける」というものだ。北極海や東南アジアでは、主権の主張を横に置き、共同で資源を開発するという前例がある。このような前例から、アジア地域での領土紛争も不確定ではあるが、このような結果に落ち着く可能性が高い。しかし、誰がこのような結果をもたらすために指導力を発揮するだろうか?

※ロバート・A・マニング:アトランティック・カウンシル上級研究員。米国務省に勤務。東アジア・太平洋地域担当米国務次官補(Assistant Secretary)上級顧問(1989―1993年)、国務省政策企画部員(2004―2008年)

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


[PR]
by Hfurumura | 2012-11-18 19:58 | 国際政治

ウォルト教授のオフショア・バランシング論

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 1

ジョン・J・ミアシャイマー / 講談社



オフショア・バランシング戦略に乗ってみる?(A bandwagon for offshore balancing?)

スティーヴン・M・ウォルト(Stephen M. Walt)筆
フォーリン・ポリシー誌(Foreign Policy)
2011年12月1日
http://walt.foreignpolicy.com/posts/2011/12/01/a_bandwagon_for_offshore_balancing

 数週間前、私は、「オフショア・バランシング(offshore balancing)」戦略の時代がやって来たと書いた。その時、私の主張の根拠にしたのは、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、トーマス・フリードマン(Thomas Friedman)がオフショア・バランシング戦略の重要な柱となる原理のいくつかを支持しているという事実であった。フリードマンは、以前、アメリカの力を世界の安全を守るため、そして中東を変革するために使うことを主張していた。そして、復権しつつあるリベラルの介入主義派であるピーター・ベイナート(Peter Beinart)が、ウェブサイト「デイリービースト」にコラムを書き、その中で、「オフショア・バランシング」は、オバマ政権が採用している戦略であり、自分はそれを支持すると述べている。

 一方、学術の世界でも、主流派に属する専門家の多くが、オフショア・バランシング戦略について機が熟したとして支持するようになっている。フリードマンとベイナートに関して言うならば、彼らは、これまで10年以上にわたって、オフショア・バランシング戦略を擁護してきた人々の名前を記事の中に書かないという点は問題である。そうした人々には、クリストファー・レイン、ジョン・ミアシャイマー、バリー・ポーゼン、クリストファー・プレブル、ロバート・ペイプ、アンドリュー・ベイスヴィッチ、パトリック・ポーターなどがいる。

 フリードマンたちが彼らの名前を書かなかったのは、注意不足か、急いでいたからということが考えられる。だからと言って、彼らのやったことを見過ごすことはできないのである。リアリズムに属する学者たちは、ネオコンの行き過ぎに対して初めから批判を加えていた。そして、リアリズムに属する学者たちは、ネオコンとは別のアメリカの大戦略を主張していた。

 ベイナートは、リアリズムに属する学者たちに言及しなかった。ベイナートやその他の人々は、ネオコンの行き過ぎに一度は支持を与えた。ベイナートの記事は、アメリカ国内における外交政策に関する議論がとても狭い、仲間内のような人々の間だけで行われているということをいみじくも示してしまったのである。

 私がこれまで見てきた経験から言えば、現在行われる外交政策に関する議論の特徴は、リアリストたちが政策決定や評論の場において、穏健な役割を果たすということだ。ネオコンの人々は、度重なる失敗を犯したにもかかわらず、影響力を保持している。また、リベラル介入主義に属する人々は、民主党内で外交政策を牛耳っている。彼らもまた多くの失敗を積み重ねてきた。対照的に、リアリストたちは、ワシントンでは絶滅危惧種のような存在となっている。かつて、リアリストたちは、外交政策の世界において重要なプレイヤーであった。また、リアリズムは、国際関係論という学問分野においても、重要な理論であった。

 ニューヨーク・タイムズ紙、ウォールストリート・ジャーナル紙、ワシントン・ポスト紙のような主要マスコミに定期的にリアリストが記事を書くということもない。リアリストたちがどれほど脇にどかされているか。この私のブログがリアリストたちにとって、最も人目に触れる主流のメディアに掲載されているものだという恐ろしい事実があることを皆さんによく考えてもらいたい。

 私は、リアリストたちがすべて正しいと主張しているのではない。しかし、リアリストたちのやって来たことを見れば、まずいことはほとんどなかったと言える。私は、アメリカの外交政策についてのリアリストの考え方により多くの人々が注意を払ってもらいたいというものだ。現在、リアリストたちの考えに注意を晴らす人やメディアは少ない。

 ベイナートは思慮深く、独立心溢れた思想家である。彼は物事がどの方向に進み、読者にそれを訴える力があることを私は認めている。しかし、ベイナートは、オフショア・バランシングの根本となる特徴を理解しているとは言えない。ベイナートとオバマ大統領が考えるオフショア・バランシング戦略は、介入主義とほぼ同義である。彼らの言うオフショア・バランシング戦略と介入主義の違いは、無人偵察機、巡航ミサイル、特殊部隊を使うか、大規模な陸軍部隊を使うかという点だけである。しかし、アメリカは、今でも他国の主権を侵害しているし、世界各地でテロリストと市民たちを殺害している。アメリカにとってあまり重要ではない地域でもテロリストと市民たちを殺害している。パキスタンで見られたように、このようなオバマ大統領とベイナートの言うオフショア・バランシング戦略は、反米主義の火に油を注ぐ結果になった。そして、パキスタンからの難民たちを過激化させ、米軍のアフガニスタンからの撤退に対する努力を無駄にしそうになり、アメリカが抱えるテロ攻撃の危険性を悪化させた。オバマ大統領とベイナートの言うオフショア・バランシング戦略は、イエメンや中央アジアの良な場所の安全保障に関する問題を解決する責任はアメリカにあり、他国に頼るべきではないということをその大前提にしている。

 ベイナートは、オフショア・バランシング戦略の限界の一つとして、「オフショア・バランシングを採用してしまうと、アメリカが、国家建設を通じて他国の社会を作り直すという考えを放棄しなければならない」と述べている。オフショア・バランシングを支持する人々は、国家建設を避けることを「限界」だとは捉えない。そして、外国からの介入や占領は、ある社会を良い方向に導くのに適した方法ではないと考える。リアリストたちは、アメリカは世界に対して力強い、そして積極的なモデルを提示することで、世界を正しい方向に導けると確信している。アメリカの提示するモデルを他国は賞賛し、その真似をしようとしている。従って、リアリストは、ネオコンの過度の冒険主義は、世界各地で反米主義を煽っているという懸念を持っている。さらにリアリストたちは、アメリカ国内の軍産複合体(military-industrial complex)の影響力の増大や、アメリカの理想を踏みにじる拷問やその他の非合法な活動、アメリカ国内で自由が制限されつつある状況などにも懸念を持っている。

 ベイナートは、また、健全な民主政体を持っているのか疑わしい国々とアメリカが同盟関係を結ぶことを批判している。アメリカにとって重要な地域において、アメリカにとって好ましい形の力の均衡を維持するためには、時には非民主的な国々と同盟関係を結ぶ必要に迫られる。私たちが忘れてはいけないのは、アメリカはこれまで非民主国家と同盟関係を結び、そこから多くの利益を受けてきたということだ。きちんとした民主国家と同盟関係を結ぶ方が好ましい。それでも彼らが問題を起こすことはある。国際政治は、ぶつかり合いのあるスポーツのようなものだ。そして、いくら力がある大国だと言っても、同盟国やパートナーを常に上からの立場で選ぶという訳にはいかないのである。

 最後に、ベイナートは、オフショア・バランシング戦略は、財政的な制限によって、仕方なく採用される戦略であると述べている。彼は次のように書いている。「オフショア・バランシング戦略は、お金がなくなり、やせ我慢もできなくなった時に再び出現する」と。ベイナートの主張は正しい。経済状況の悪化に伴い、アメリカはこの良く考え抜かれた戦略を採用する方向に進んできた。しかし、財政状況が改善したら、介入主義の方向へ戻るべきだと私は主張しているのではない。

 アメリカは、1992年以降、介入主義的アプローチを採用してきた。2001年以降、経済状況は安定し、財政は黒字を記録していたが、介入主義的アプローチは失敗してしまった。それは、介入主義的アプローチによって、アメリカは膨大なコストのかかる戦争を起こす羽目に陥ったからだ。戦争に勝てる見込みはなく、アメリカの国益を増進することもできなかった。1992年以降、もしアメリカがリアリストの主張を採用していたら、NATOの拡大を制限し、中東地域における「二重封じ込め」と「地域の体制転換」という考え方を拒否し、同盟諸国に対して彼らを自主的に動かすような態度を取り、オスロ和平合意に関しては、公平な立場で調停役の役割を果たしたことだろう。そうであれば、アメリカは、2001年9月11日に攻撃されることもなく、イラクやアフガニスタンでの泥沼を避けることができたであろう。イスラエル・パレスチナ問題に関しても、二国が共存する形での和平を実現できただろう。これに関しては、確かに実現できたかどうかははっきりと断言できないが。

 オフショア・バランシング戦略は、私たちの金庫にお金が詰まっている時でも、採用すべき正しい戦略である。そして、重要な地域においてその地域を支配することをもくろむ大国が出ないように、その地域の各国がお互いに牽制し合うというものだ。

 アメリカが好調な時期でも、必要のない重荷を背負い、同盟諸国にタダ乗りをさせる必要などない。世界各国は、世界中で「かけがえのない国」だと思われたいというアメリカの願望を利用しようとする。アメリカは世界各国に利用されるべきではない。つまり、オフショア・バランシング戦略は、厳しい状況下でのみ採用されるべき戦略ではない。アメリカが世界最強の国である状況下でも、十分に機能する戦略である。アメリカは、世界最強の国であるがゆえに、不必要な憎悪を買い、不必要な戦争に巻き込まれる危険性が存在するのだ。それを避けるために、オフショア・バランシング戦略が必要なのである。

 私は著書『米国世界戦略の核心――世界は「アメリカン・パワー」を制御できるか?』の223ページで次のように書いた。

 「オフショア・バランシングはアメリカが優越している時代には理想的な大戦略である。オフショア・バランシングを使えば、アメリカの優越に必要な力を涵養し、アメリカの力がアメリカに及ぼす恐怖を最小化することができる。外交政策について明白な優先順位を決め、地域の同盟諸国に頼ることを強調することで、不必要な争いに巻き込まれる危険性を低下させることができ、他国に対して支援を行うように促すことができる。同時に、アメリカの地政学的に有利な立場を利用でき、地域大国はアメリカに対してよりも、ライバルの地域大国に対して懸念を持つようになる。そして、この懸念をアメリカは利用できる。しかし、オフショア・バランシングは受け身の戦略ではない。また、アメリカがその力をフルに使って、アメリカの死活的な利益を追求することを妨げるものでもない」

 もしアメリカがこの20年間に、世界各地への間違った介入ではなく、オフショア・バランシング戦略を採用していたら、現在の状況はどれほど好転していたかということを私は考えてしまう。そんなことを考えても仕方がないことは分かっているが、どうしても考えてしまう。

(終わり)

イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 2

J.J. ミアシャイマー / 講談社



アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


[PR]
by Hfurumura | 2012-11-02 02:01 | 国際政治

ミアシャイマー教授の「オフショア・バランシング」論

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社



イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 1

ジョン・J・ミアシャイマー / 講談社



●軍隊を引き揚げるには(Pull Those Boots Off The Ground)

ジョン・J・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)筆
2008年12月30日付
ザ・デイリー・ビースト(The Daily Beast)
ニューズウィーク誌(Newsweek)からの転載
http://www.thedailybeast.com/newsweek/2008/12/30/pull-those-boots-off-the-ground.html

「重要な地域に対する最良の戦略は、軍隊を引き揚げ、勢力均衡(balance-of-power)政治に戻ることだ」

 アメリカではバラク・オバマが近く新大統領に正式に就任する。この時期、アメリカは、中東地域において深刻な問題を抱えている。オバマはイラクからの撤退を公約に掲げていた。しかし、イラクでの失敗がすぐに終わるという兆候は全く見えない。それどころか、イラクでの失敗のせいで、テロ攻撃を受ける危険性という、アメリカの抱える問題は、改善されるどころか、ひどくなっている。

 パレスチナ西岸ガザ地区はハマスが支配し、イランの存在感は増す一方だ。イラン政府は核抑止力の獲得に躍起になっている。アメリカとアメリカの同盟諸国は、これまでにも厳しい態度でイランの核開発に臨んでいるが、阻止することはできていない。中東諸国の人々にとってのアメリカのイメージはこれまでになく悪いものとなっている。(アメリカのイメージの悪さについての話はこれからもしていくことになるが・・・。)

 こうした現状を生み出したのは、ブッシュ政権が採用した、中東地域全体を改造しようという間違った政策である。ジョージ・W・ブッシュ大統領は、イラク、そしてできればシリア、イランの反米的な政権をアメリカの軍事力で追い落とし、親米的な、民主政権を樹立させたいと望んでいた。つまり、中東に民主政体を移植したいと望んでいた。

 もちろん、物事はそんなに簡単にうまくいくわけがない。そして、新大統領は、この世界でも重要な地域である中東地域に対して前政権とは全く異なる戦略を採用しなければならないのだ。幸いなことに、過去、その有効性が証明され、アメリカにとって役に立つ戦略が一つだけ存在する。それが「オフショア・バランシング(offshore balancing)」戦略である。

 冷戦期、アメリカ政府は、このオフショア・バランシング戦略を使って、イランとイラクを封じ込め、ソ連が石油の産出量の豊富なペルシア湾に介入することを阻止した。アメリカの中東政策として見てみると、オフショア・バランシングは、ブッシュ大統領が構想したグランドデザインに比べれば野心的な要素は少ない。オフショア・バランシングは、「アラブの春(Arab spring)」を導くとは言えない。しかし、アメリカの国益を守るという点では、より効果的なのである。

 それでは、オフショア・バランシング戦略とはどのようなものか?オフショア・バランサーとして、アメリカは、米軍、とくに陸軍と空軍を中東に駐屯させるのではなく、中東地域外に引き上げさせる。このことから「オフショア」という言葉が使われるのである。「バランシング」について言うと、中東地域の大国であるイラン、イラク、サウジアラビアがお互いに牽制し合うことを利用するということになる。アメリカ政府は中東地域に外交的に関与し続ける。そして、争いが起きた時、必要な場合には弱い方を支援する。また、アメリカが中東地域に関与することを示すために、空軍力と海軍力を使う。そして、1990年に起きたイラクによるクゥエート侵攻のような、予期しない脅威に即座に対応する能力を維持しておく。

 ここが重要な点なのであるが、アメリカが中東に陸軍を含めた大戦力を投入するのは、地域の力の均衡が完全に崩れ、ある国が他国を支配する危険が起きた時だけである。そこまで至らない場合、アメリカは、将兵を「水平線の向こう」に置いておく、つまり、中東地域以外にある基地か米国内の基地に置いておくということになる。

 このオフショア・バランシングは、ブッシュ政権の高慢な物言いの後だと、皮肉っぽく聞こえる。オフショア・バランシングを採用すると、民主政体や人権の拡散はほとんどできなくなる。しかし、ブッシュ政権は、民主政体や人権の拡散を行えなかった。そもそも、どんな政治体制を採用するかは、それぞれの国が決めることであって、アメリカ政府が決めることではない。アメリカの国益を現実的に評価し、アメリカの力でもできないことを明確にしたうえでアメリカの戦略を立てることは当然のことである。

 更に言うと、オフショア・バランシングという考え自体は新しいものではない。アメリカは、冷戦の大部分の期間、中東ではこの戦略を採用していた。当時、アメリカは中東地域に軍隊を駐留させようとはしなかったし、地域の国々を民出荷に変革しようともしなかった。アメリカ政府は、地域内の力の均衡を維持することに腐心していた。

 そのため、アメリカは、地域内の同盟諸国を支援し、時には米軍を一時的に派遣するなどしていた。アメリカは、陸軍と海兵隊の5師団(divisions)と7つの戦闘航空団(fighter wings)からなる緊急展開部隊(Rapid Deployment Force、RDF)を編成した。そして、緊急展開部隊を使って、ソ連、イラク、イランといった国々が地域の力の均衡に脅威を及ぼす恐れがあった時、それを阻止し、地域に直接介入を行った。

 アメリカは、1980年代、イラクを支援して、イスラム革命を起きたイランを封じ込めた。しかし、1990年にイラクがクゥエートに侵攻した際、イラク政府の野望は達成されないと警告し、アメリカの緊急派遣部隊を中心として国際的な連合軍を結成し、サダム・フセインが保有していた軍事力を完膚なきまでに叩いた。

 オフショア・バランシングには三つの現代にアピールする要素がある。第一に、オフショア・バランシングを採用することで、イラク戦争のような、アメリカの若者たちが無駄な血を流し、税金が浪費される戦争に、アメリカが巻き込まれる危険性が劇的に低下する。危険性は低下するが、決してなくなるわけではない。アメリカは、米軍を使って、中東をコントロールする必要はない。アメリカにとって必要なのは、軍隊を使って中東地域をコントロールする国が出現することを阻止することだけだ。

 更に言えば、オフショア・バランシング戦略では、地域の政治を変革するために軍隊を使うことを否定し、地域内の同盟諸国を使って、危険な国々を封じ込める。オフショア・バランサーとして、アメリカは、自国の人的、物的資源を節約し、最終的な解決策として直接介入を行うということになる。そして、直接介入を行う時は、介入の目的を速やかに達成し、すぐに地域外に引くようにする。

 オフショア・バラシング戦略にはコストがかからない。これが現在の状況を考えると、大変に魅力的なのである。アメリカの財政出動は巨額なものであり、経済がいつ回復するのか先行きは不透明だ。このような状況下、アメリカは中東地域やその他の地域で終わりのない戦いなど行う余裕はない。これは単純な話だ。アメリカ政府は、イラク戦争にこれまで既に6000億ドル(約48兆円)を使っている。そして、その最終的な金額は1兆ドル(約80兆円)にまで膨らむと予想される。

 更に、イランとの戦争を始めた場合、その経済的な影響を考えてみる。そうすれば、オフショア・バランシングは有効な戦略ということになる。確かに、オフショア・バランシング戦略もただで実行できるというものではない。アメリカはある程度の規模の海外遠征軍を保有し、即座に危機に対応する能力を維持しなければならない。しかし、他の選択肢に比べれば、圧倒的にコストはかからない。

 第二に、オフショア・バランシング戦略は、アメリカが抱えるテロリズム攻撃を受ける危険という問題を改善する。20世紀の歴史を概観し、私たちが得られる教訓は、ナショナリズムやローカルアイデンティティは、局地的に強力な力を保ち、外国からの占領者に対して、占領されている人々は、これらに根ざした怒りの感情を抱く、というものだ。外国からの占領者に対する怒りの感情は往々にしてテロリズムや大規模な反乱の形を取り、現在ではその多くがアメリカをターゲットにするものになっている。

 1982年、イスラエルがレバノンに侵攻した後、レーガン政権がアメリカ軍をベイルートに派遣した。これに対して、レバノンのテロリストたちは、1983年4月にベイルートのアメリカ大使館に対して自爆攻撃を行った。また、10月にはアメリカ海兵隊の駐屯地にも攻撃を加え、300名以上の海兵隊員が死亡した。必要な時が来るまで、アメリカ軍を人目に触れさせないようにすべきだ。アラブ諸国にアメリカ軍を永続的に駐留させてしまえば、地域の人々の怒りを醸成してしまうことになる。オフショア・バランシング戦略を使えば、こうした怒りを最小限に抑えることができる。

 第三に、オフショア・バランシング戦略は、イランとシリアが抱える恐怖感を低下させることができる。イランとシリアは、アメリカが両国を攻撃し、政権を崩壊させようと目論んでいると考えている。そして、これに対抗するために、両国は現在、大量破壊兵器の開発を行っている。イラン政府に対して核開発プログラムを放棄するように説得するには、アメリカ政府は、イランが持つ安全保障上の不安が正当なものであることを認め、これ以上の明白な脅迫を行ないようにする必要がある。

 その手始めとして、中東地域からアメリカ軍を撤退させることだ。アメリカが中東から完全に手を引き、全く関与しないという訳にはいかない。しかし、オフショア・バランシング戦略を取れば、中東地域の各国にこれまでのような脅威を与えることなく、関与することができる。アメリカは、敵となり得る国をひとくくりにして扱い、結局アメリカの敵対勢力としてしまっている。オフショア・バランシング戦略を採用すれば、地域大国がアメリカの支援を受けようと躍起になり、競争状態となる。結果、「分断統治(divide-and-conquer)」戦略を推進することができる。

 中東地域に対してオフショア・バランシング戦略を採用すべき、最後の、そして最大の理由は、これ以外に効果的な戦略が存在しないからだ。1990年代はじめ、クリントン政権は、「二重封じ込め(dual containment)」戦略を採用した。この戦略は、イラクとイラン双方を牽制させ合うのではなく、アメリカが両国を封じ込めてしまうというものだった。この政策で確実にもたらされたものは、両国がアメリカを明確な敵として認識するというものだった。二重封じ込め戦略によって、アメリカはクゥエートとサウジアラビアに大規模なアメリカ軍部隊を派遣しなくてはならなかった。

 この政策によって、中東地域の人々はアメリカに対して激しい怒りを持つことになった。この怒りを背景に、オサマ・ビン・ラディンはアメリカに対して戦いを仕掛けることを高らかに宣言した。そして、1996年にサウジアラビアのダーランにあったホバル・タワーを爆破し、2000年にはイエメンでアメリカ海軍の軍艦USSコールに攻撃を仕掛けた。そして、2001年に911事件を引き起こした。

 911事件の発生直後、ブッシュ政権は、二重封じ込め戦略を放棄し、地域の政治体制の変革を行う方向へ進むことを決定した。アメリカ軍がイラクに侵攻し、首都バクダッドを陥落させたとき、ブッシュ大統領の方針は正しいように思われた。しかし、イラクの占領がすぐに酷い状況を呈するようになると、中東地域内におけるアメリカの地位は、「悪い」から「さらに悪い」というところまで落ちてしまった。

 新大統領となるオバマ氏にとって、アメリカが現在の酷い状況から脱するための唯一の希望は、過去、中東地域で機能していた戦略を再び採用することしかない。現実的なことを言えば、この時期にオフショア・バランシング戦略を採用するということは、イラク戦争をできるだけ早く終結させ、イラクと中東地域での流血を最小限に抑えるようにすることだ。新政権は、イランに対して予防的戦争を仕掛けると脅すのを止め、イランに対して、安全を保証することを約束し、イランの核濃縮プログラムを制限するようにすべきだ。イランに対して脅しを続けても、イラン政府は核兵器開発に突き進むだけだし、マフムード・アフマディネジャド大統領の人気を高めるだけのことだ。アメリカはシリアのアサド政権に対する敵視を止め、シリアとイスラエルが和平関係を結べるように行動すべきだ。

 オフショア・バランシング戦略を採用したからと言って、アメリカが中東地域で直面している諸問題を全て解決できる訳ではない。しかし、アメリカがテロ攻撃を受ける危険性や、イラク戦争のような、アメリカにとっての災厄にアメリカが巻き込まれる危険性は確実に低下させる。そして、アメリカ政府が求めている核不拡散が達成される可能性を最大化する。人的資源や財政面から考えても、オフショア・バランシング戦略は安くつく。国際政治において、確実な戦略というものは存在しない。しかし、オフショア・バランシング戦略は、私たちが手にできるうちで、確実な戦略に最も近いものである。

(終わり)

イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 2

J.J. ミアシャイマー / 講談社



アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所


[PR]
by Hfurumura | 2012-11-01 21:36 | 国際政治

アジアの新たな冷戦:フォーリン・ポリシー誌の興味深い記事をご紹介します

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



アジアにおける冷戦(The Asian Cold War)

中国と日本の尖閣諸島をめぐる争いは、無人の岩礁の一群を巡る戦い以上の意味を持つ。そして、そして、両国間の争いはすぐに終息することはない。

マイケル・オースリン(Michael Auslin)筆
フォーリン・ポリシー誌(Foreign Policy)
2012年10月4日
http://www.foreignpolicy.com/articles/2012/10/04/the_asian_cold_war
http://www.foreignpolicy.com/articles/2012/10/04/the_asian_cold_war?page=0,1


東シナ海洋上に浮かぶ岩礁の一群をめぐり、日本と中国が激しく争っている。この岩礁の一群を日本では尖閣諸島と呼び、中国では魚釣島(Diaoyus)と呼んでいる。尖閣諸島をめぐる争いは、世界有数の経済大国間の単なる外交上の争いを超えている。両国の争いは、アジアの二大経済大国間の協力関係をまるで薄皮をはぐように損なっている。多くの専門家は、これまで、日中両国は経済面において相互に連携を深め、協力関係も成熟してきていると考えてきた。しかし、今回の争いは、アジア地域において領土紛争がどれほど潜在的な危険を持つか、そして、前回の戦争の傷がまだなままましい国々でいかに信頼醸成が難しく、また信頼が小さなものであるかを私たちに教えてくれる。中国と日本の間で尖閣をめぐり、実際に軍事衝突が起きる可能性は、無視できるほどに小さい。しかし、現在の危機的状況が、これから何十年も続くことはないにしても数年間は続くことになるだろう新しい冷戦(cold war)の前触れとなる。アジア地域での冷戦となれば、各国が分裂したままの状態になり、過去の重荷の清算も不可能になり、常に偶然の出来事によって紛争が起こるという状態が続くことになる。

しかし、日中両国というアジアでも重要な両国がこのまま関係を絶つということはない。中国が1970年代末に自由化と改革の時代に入ってから、両国は経済的に相互依存関係を深めてきた。これは、両国の指導者たちが意図したことではなかったが。日本から中国への投資は、2005年には、65億ドル(約5000億円)に達した。その当時、日本貿易振興機構(Japan External Trade Organization)のある幹部は次のように語った。「日中間の外交関係はあまり好転していませんが、日本と中国の経済関係は、一時の政治的不和を乗り越える力を持ち、また成熟したものとなっています」

このような楽観主義は以前にも存在した。イギリスの政治家で、ジャーナリストでもあった、ノーマン・エンジェル(Norman Angell)は、1909年に発表した『大いなる幻想(The Great Illusion)』の中で、ヨーロッパ諸国の経済統合によって、ヨーロッパ諸国の間には戦争が起きないと主張した。エンジェルは、可哀そうなことに、著書の発刊後5年して、主張が間違っていたことが明らかになった。2005年に日本のJETROの高官が示した自信は、最近中国国内で発生した大規模な反日抗議運動の中で、より厳しい現実に晒されている。中国政府は抗議運動が暴力的になり、制止しなければならなかった。アジアで起こる新しい冷戦では、政治が経済を圧倒してしまうという危険があることがはっきりした。

尖閣諸島をめぐる衝突の影響は拡大し続けている。日本の野田佳彦政権が、2012年9月に、5つの島のうち3つを民間の所有者から政府で買い上げると発表して以降、反日抗議運動は中国を揺り動かした。危険は中国に進出している日本企業の活動を停止させるほどに高まった。ホンダやトヨタといったメーカーは中国国内での生産活動を停止せざるを得なかった。イーオンは支店を閉鎖した。この3社は、現在は中国国内での活動を再開している。全日空は9月末、日中間のフライトで4万のキャンセルが出ていると発表した。通常は、来たる中国のホリデーシーズンで、日本への便は多くの環境客で込み合う。

 経済関係の悪化がより明らかになり、中国国内の評論家やコメンテーターの中には、日本との開戦をおおっぴらに叫ぶ者も出てきている。中国の外務部長楊潔篪(ようけつち、Yang Jiechi)が尖閣諸島を中国にとっての「聖域(sacred territory)」と呼んだ。このような状況下、野田首相は、妥協することを公に、激しく否定した。激しい言葉の応酬は実際の軍事衝突にまで発展しそうになっている。尖閣諸島周辺の水域で、両国の沿岸警備の艦船70隻が衝突した。

 現在の危機が悪化の一途をたどっているが、両国の緊張状態を緩和させるにはどうしたら良いだろうか?両国の指導者たちが事態を鎮静化させようとしている小さな兆候がいくつかみられる。2012年10月1日、野田首相は内閣改造を行い、田中真紀子元外相を文科相に起用した。田中文科相は中国と緊密な関係を維持している。中国の指導部は、これに対して、これ以上の人々による抗議運動の広がりを抑えているようである。

 しかし、日中両国が表現をどんどん激しいものにしていく中、野田首相は先週、中国との争いが持つ通常のパターンを逸脱する行動を取った。野田首相は、中国に対して継続的な争いや戦争は、日本よりも中国こそがより多くのものを失うと警告した。そして、「海外の投資家たちは、中国が近隣諸国を苛めていると見なし、中国に対する投資を控えるようになるだろう」と予測した。この野田首相の発言は、最近10カ月のうち、9カ月で中国に対する海外からの直接投資が減少しているという発表の後に行われた。この発表は、不透明な経済状態の予測をますます暗いものにしてしまった。

野田首相の警告を受けて、中国の指導部は、尖閣諸島に対しての自分たちの立場を和らげるための言い訳とすることができただろう。中国の指導部は今年(2012年)11月に交代することになっている。そして、重慶の党委書記だった薄熙来(Bo Xilai、はくきらい)が中国共産党から排除されたこと、次期国家主席に内定している習近平(Xi Jinping、しゅうきんぺい)が9月の初めに奇妙にも姿を公の場に見せなかったことで、中国の指導部交代は、不透明な部分を抱えこんでしまっている。更なる不確定と不安定を中国指導部は望んでいない。ナショナリズムを焚き付け、国内にたまった不満を排出するため、日本を敵として利用することは、中国では昔から使われている戦術である。しかし、今回の危機は、日本が中国政府でもコントロールできない連鎖反応の基になっていることを示している。

 ここまで、尖閣諸島の周辺水域や北京の街角で死者は出ていない。しかし、一人でも死者が出るか、一回の計算違いによって危機はますます深刻化し、世界第二位と第三位の経済大国が実際に衝突することもあり得る。そんなことになれば、両国の経済は打撃を受け、世界市場は不安定化する。アメリカにとっては、日本との相互防衛条約をあくまで守り、中国との関係全体を危険にさらすかどうかという非常に痛みを伴う選択を迫られる。しかし、アメリカが介入しなければ、中国が近隣諸国との間で抱えている多くの海上領有権の争いに関し、中国は自国が被害者だと主張することは難しかっただろう。

 海外の専門家たちにとって、無人の群島をめぐり戦争を起こすことは中国の国益に適わないことは明らかだと見ている。中国の、困り果てているであろう指導部にとって、これまで数週間に起きた事件の数々を見れば、戦争を起こすことは上策ではないということは明らかなことだろう。南シナ海での領有権争いのこともあり、中国政府は、アジア地域での安定を求めるという姿勢を示し、現状維持を受け入れ、日本の尖閣諸島の実効支配に対して抗議を行わないということを発表することで、日本の裏をかくこともできる。これが妄想で終わるかどうかは、中南海(Zhongnanhai 訳者註:中国政治の中枢部)の権力回廊の外にいる人間には分かりえない2つの事実が決めることになる。その2つの事実とは、中国の指導者たちがどのような計算をするか、そして中国のナショナリズムという虎に乗られるのか、自分が乗るのか、ということである。

中国の指導部がどのような選択をするにしても、中国指導部は、自分たちが不当に取り扱われていると信じ続けるだろう。また、日本が、尖閣諸島の帰属を変化させようと一方的に行動したことで、危機を悪化させたとも信じ続けることだろう。日本は、ここ40年間の尖閣諸島の実効支配は、100年前の尖閣諸島の領有が正しいものであったことを繁栄していると主張している。当て推量は避けるべきだ。しかし、日中両国間で展開される冷戦は、現実のものとなり、人々の目の前に現れる。しかし、現在の危機が解決されれば、両国関係が少しの期間だけ冷えるだけで済むのは間違いない。


※マイケル・オースリン(Michael Auslin):ワシントンにあるアメリカエンタープライズ研究所研究員

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


[PR]
by Hfurumura | 2012-10-06 23:19 | 国際政治

ウォルト教授の尖閣諸島論

最新版:中国が尖閣諸島を買い取るというのはどうだろうか?(Why doesn't China just buy the Senkaku islands? (updated))

スティーヴン・ウォルト筆
2012年9月21日
フォーリン・ポリシー誌
http://walt.foreignpolicy.com/posts/2012/09/21/sell_the_senkakus

東シナ海では、注意を向けるべき、そして懸念すべき対立が起きている。その中心には、尖閣諸島(中国名:魚釣島)と呼ばれる無人島の島々がある。尖閣諸島を巡り、当事者たちが争っている。

これまでの歴史的経緯を簡単に書く。日本は尖閣諸島の支配権を、日清戦争後の1895年に獲得した。その後、アメリカが1945年から1970年代初めにかけて支配した。1972年、日本が支配権を回復した。その際、尖閣諸島の所有権は、一般の、ある家族が回復した。現在、尖閣諸島に人は住んでいない。

今年初め、右翼的な東京都知事が、「尖閣諸島を日本の手にとどめておくために、東京都庁が尖閣諸島を買い取るつもりだ」 と発言した。東京都が尖閣諸島を購入していたら、尖閣諸島は、世界史上、最も遠くにある大都市の「近郊」ということになっただろう。この動きを阻止するために、日本政府は、尖閣諸島を所有者から買い取った。この動きは、中国国内での醜悪なデモを引き起こしている。そして、軍事衝突の可能性を高めた。

この問題は、アメリカ政府にとっては、扱いにくい問題である。それは、私たちは、日中間の緊張がエスカレートした場合、同盟国である日本を支援、支持することを期待されるだろうからだ。しかし、この問題に関するアメリカの立場は明確なものではない。また、状況をさらに複雑にしているのは、台湾が中国の主張に同意しているという事実である。台湾もまた、尖閣諸島を自国の領土だと認識している。尖閣諸島の最大の島でもたかただ4平方キロの広さしかなく、もぐら、鳥、羊のすみかとなっているに過ぎない。

こうした状況を踏まえて私は考えてみた。歴史を振り返って見ると、世界各国は自国の利益にかなう場合には、お互いに領土を売却しあっていた。多くの場合、ある国が現金を必要としていた場合、領土を売却していた。アメリカによるルイジアナ購入を思い出してもらいたい。また、アメリカはロシアからアラスカを購入した。日本政府は尖閣諸島の所有者から20億ドル(訳者註:これは20億円の間違いであろう)で尖閣諸島を購入した。中国は、それと同じ金額(もしくは市場で適正だと思われる金額)で尖閣諸島を買い取れば良かったのではないか?中国は購入資金をいくらでも用意できるだろうし、日本政府もさらにお金を積むことができるだろう。しかし、20億ドル(訳者註:20億円の間違いだろう)を更に支払うことは無理だが。どうして尖閣諸島問題をただのビジネス上の問題とする、というこの考えはどうだろう?

このような解決策に立ちはだかる障害は、ナショナリズムである。中国は尖閣諸島を中国の領土だと考えている。従って、中国の領土である島々を手に入れるためにどうして日本にお金を支払わねばならないのか、ということになる。 日本側でも尖閣諸島の売却は、国家としてのプライドを傷つけるものだと考える人々も日本国内にいる。日本国民が誰も住みたいとも思わない、ただの小さな島々であっても、日本側からすれば、売却することはプライドが許さない。

それでも、日本政府が自分たちが支払った金額で尖閣諸島の買い取りを中国側に提案することは賢い動きだと私は考える。このように考えてもらいたい。あなたがお金持ちの隣人と土地の境界線のことで争っていると仮定する。市役所の記録を調べてみても、その境界線がはっきりしないとする。この場合、争っている当事者たちは、お互いに、相手はフェアではないと考える。しかし、もし隣のお金持ちがあなたが満足する条件を提示してきたら、あなたはそれを喜んで受け入れるはずだ。お金持ちは自分が既に所有していると考えている土地を進んで買い取るだろう。それは、そのお金持ちが訴訟は避けたい、もしくはあなたとこれからもずっと争い続ける関係を終わらせたいと願うからだ。そして、ここでお金を払う方が結果的に安くつく。お金持ちにとっては、あなたの主張に対してお金を支払うことが賢い対処法となるのだ。その結果、あなたはお金を手にし、お金持ちを自宅に招いてビールでも飲みながら、問題解決を祝えば良い。

日本政府が売却を提案すべき理由はもう一つある。もし中国が提案を拒否したら、それは、中国政府が日本と戦争をしたいと望んでおり、問題を理性的な方法で解決する意思はないということを示すことになる。これができれば日本の勝利である。なぜなら、日本が紛争における理性的な当事者であると世界各国と見なすことが国益になるからだ。それはなぜか?中国がこれからも勃興し続ける場合、東アジアの外交における重要な要素は、地域内外の様々なプレイヤーたちが、それぞれいろいろな意図を持って外交を行うが、その意図をいかにして把握するかということになる。中国は、アメリカとアジア地域における同盟諸国を、対立と不安定をもたらす要素だと描き出したいと望んでいる。なぜなら、そうすることで、他国が中国と均衡を保つために、アメリカの陣営に参加する可能性を低下させることができるからだ。 一方、中国政府が好戦的で、野心的で、威張り散らしたいという態度だと他国が認識すれば、アメリカにとっては、アジア諸国との同盟関係を維持することが容易となる。また、東アジア、東南アジアの国々が、中国との緊密な経済関係や、相互の争いを乗り越えて、お互いに協力関係を築き上げ、中国に対峙するように説得することもまた容易にできるようになる。日本と中国との間の、尖閣諸島をめぐるいさかいは、日中両国にとっては、自分たちがいかに理性的であるかを示すチャンスである。そして、自分が理性的だと見せることができれば、相手は強情で、強欲だと他国に思わせることができる。

しかし、こうしたことは実際には起こらないだろうと私は確信している。日本は中国側に対して、尖閣諸島の購入を提案することはないだろうし、もし提案することがあっても、中国は購入を拒否するだろう。このような解決法が採れないために、東アジアにおける安全保障上の競争はこれからも激しさを増していくと私は確信している。

最新版:昨日、この問題に詳しいコメンテーターから電話をもらった。その人は、私に、「あなたは今回の衝突における重要な要素の一つを見逃している」と言った。その要素とは、中国は尖閣諸島自体はどうでも良いと思っているということだ。中国は、尖閣諸島に付随する天然資源に関心を持っているのだ。石油、天然ガス、海産物などに関心を持っているのだ、とその人は教えてくれた。そして、尖閣諸島を手に入れることで、「排他的経済水域」を拡大したいのだとも教えてくれた。コメンテーターの指摘は良い点をついている。しかし、その人が述べたことが、衝突を経済的に解決するための障害にはならない。もし尖閣諸島に天然資源が存在し、中国がそれを欲するなら、日本は購入代金の値上げをすればよい。もしくは、天然資源の分を前払い、もしくは将来得られたはずの利益分(例えば50年分など)を上乗せして売却すればよい。言い換えるならば、原理的に言えば、交渉とお金の上乗せをすれば問題を解決できないと考えるだけの理由は存在しない。しかし、これまで述べてきたように、私は、交渉と購入によって問題が解決できるとは考えていない。

(終わり)
[PR]
by Hfurumura | 2012-09-25 16:55 | 国際政治

インドの作家の資本主義論

名前を名乗るのを憚られる、ある一つの資本主義(The One Capitalism That Dare Not Speak Its Name)

パンカジ・ミシュラ(Pankaj Mishra)筆
2012年7月23日
ブルームバーグ
http://www.bloomberg.com/news/2012-07-22/the-one-capitalism-that-dare-not-speak-its-name-pankaj-mishra.html

c0196137_22195412.jpg
※パンカジ・ミシュラはインドの作家

 1992年12月26日。この日は、ソビエト連邦が崩壊し、ロシアがアメリカ型の資本主義を採用した日からちょうど1年目にあたる日だった。この日、『エコノミスト』誌の論説ページに次のような文言が掲載された。「自由市場資本主義の代替物は存在しないというのが世界共通の主張となっている。自由市場資本主義は、経済生活を組織するための唯一の方法となっている」と。

 『エコノミスト』誌は19世紀中ごろのイギリスで創刊された。それ以降、エコノミスト誌は、新古典的なイデオロギー(自由市場、最小国家、神の見えざる手など)の主要な宣伝機関として存続してきた。イデオローグたちの仕事は、自分たちが望む政治的、経済的システムが自然で完璧なものと見られるようにすることだけだ。1992年にエコノミスト誌の編集会議で、編集委員の中には、「ソ連の変化は早すぎるのでは」という意見を述べた人たちもいたことだろう。しかし、その声はとても小さいものだったに違いない。

 2012年1月の国家資本主義に関する特別レポートの中で、エコノミスト誌は、「自由市場が勝利を収めたという考えは激しく動揺し、拡散が止まっている。イギリスとアメリカの自由主義的資本主義は、規制を受けなかった金融業者たちが起こした国内の危機によって激しく動揺している。自由主義的資本主義は、ある有力な代替物の出現に直面している。それは、国家資本主義である。国家資本主義は、世界の経済大国の一つである中国と、世界経済において影響力を持つ大企業が採用し、支えている経済体制である。こうした大企業には、ロシアのガスプロム、中国のチャイナモバイル、アラブ首長国連邦のドバイ・ポーツ・ワールドとエミレーツ航空などがある」

●驚くべき逆戻り

 ブルームバーグ社発行の『ビジネス・ウィーク』誌は最近ある記事の中で次のように書いている。「発展途上諸国の間で、国家資本主義が自由市場に取って代わりつつある。国家資本主義では、国家が企業を所有する、もしくは企業を支援、主導することに大きな役割を果たす。2004年から2009年にかけて、120の国有企業が、フォーブス誌の世界の大企業のリストに初登場した。一方で、250の私企業が大企業リストから脱落した」

 一時は世界中で主要なイデオロギーとなったアングロ・アメリカ(英米)的な新自由主義からのこのような驚くべき逆戻りはどうして起きているのか?それとも、イデオロギーによって惑わされ、現実の世界をそのままの形で見ることができない時期が長く続いたが、瞬きをすることで、現実の世界を見ることができるようになったのだろうか?

 グローバライゼーションが20年間続いた結果、国有企業の売却、外国からの投資の誘致、物価や市場に対する規制の緩和が成長を促進し、ひいては民主政治体制を生み出すという論調が世界中に広まった。

 グローバライゼーションによって利益を得る人たちのため、国家はそのシステム作りのみを行うというシナリオに対しては、初期の段階から警告となる兆候が発せられていた。1990年代、ロシアは市場改革を行い、その結果は惨憺たるものとなった。ロシアの誇る天然資源はオリガルヒたちに収奪され、一般国民は貧困に叩き落され、その傷はウラジミール・プーチンという権威主義的な政治家が登場するまで癒されることはなかった。プーチンは、戦略的に重要な産業に対する国家の権威を回復させるために行動した。

 1990年代のロシアに悲惨な結末をもたらした「自由」市場をもてはやしたのは、欧米の経済を専門にする雑誌などだった。こうした雑誌は、自由市場を煽ったことについて自己反省することはない。だから、今度は、エコノミスト誌は国家資本主義について取り上げているのだ。エコノミスト誌の編集委員たちは、1991年以降のロシアの崩壊を見て、中国の指導者たちは、私企業システムに国家が介入することが必要だと悟ったのだと述べている。また、現在の国家資本主義の形は、建国の父リー・クワン・ユーの治世下にあったシンガポールで作り出されたとも述べている。

 歴史こそが重要だ!歴史を見てみると明らかなように、国家が経済発展と所得再分配において重要な役割を果たすという考えは、この2世紀の間に、英米世界を除く、世界の大部分で中心的な考えとなってきた。フランクリン・ルーズベルト大統領が実行したニューディール政策は、この考えがアメリカ政治の主流をなす考えになるきっかけとなった。そして、この考えは数十年にわたり、アメリカに残り続けることになった。

●昇る太陽(Rising Sun)

 最近の国家資本主義に関する記事や議論の中で見落とされているのは、日本がいかにして発展途上国から先進国へと進み道を進んできたかということである。日本では、国家(政府)が国内産業を創設、育成し、輸出先となる海外市場を見つけることで、経済を発展させた。

 日本の国家資本主義は、東アジア諸国のモデルとなった。シンガポールにとってもまた、日本はモデルであった。これは言っておかねばならないが、シンガポールは、規模が小さすぎ、金融と貿易の中心となったがこれは例外的なことである。従って、シンガポールの成功例は、より規模の大きな国々にとっての歴史的な教訓になることはない。

 現代資本主義の歴史から逸脱した、日本と東アジア諸国が経済的成功を収めたのはどうしてだろうか?

 1970年代から1980年代にかけて、民営化、規制緩和、最小国家といったものが経済発展の前提になると考えられていた。これは別名ワシントン・コンセンサスと呼ばれる。世界銀行とミルトン・フリードマンのような新自由主義的な経済学者たちは、東アジアの「奇跡」と自由市場を結びつけて賞賛し始めた。

 この時期の経済史を見てみると、日本、韓国、台湾、シンガポールの自由市場は、インドや中国の中央計画を柱とする「社会主義的な」経済に対置されるものだと考えられていた。この考えは大変に影響力を持つものだった。現在でも、インドや中国には、自由市場導入をすることで改革を目指す人々は、他の東アジア諸国を引き合いに出す。こうした人々を見つけることは簡単だ。

 もちろん、物事はそんなに単純ではなく、複雑なものだ。日本は自国が作り上げた、政府が産業界と密接につながり、産業界に対して国際市場での競争力を与えるために行動するというモデルを守ってきた。

 日本研究の大家チャルマーズ・ジョンソン(Chalmers Johnson)は、1982年に発表した著書『通産省と日本の奇跡』の中で、「日本の通商産業省(Ministry of International Trade and Industry)が日本の発展と日本企業の競争力の強化に中心的な役割を果たした。通産省は、こうした役割を20世紀初めから果たした」と主張し、証明した。ジョンソンはのちにアメリカの外交政策に対する激しい批判でも知られるようになった。

 日本の成功は、アジア全域に、熱心な観察者と模倣者を生み出した。韓国の指導者、朴正煕(Park Chung Hee)は、韓国の急速な経済発展を開始することに成功した。かつて、朴は、アメリカ人のジャーナリストであり歴史家だったフランク・ギブニーに次のように語った。「わが国の資本主義的な発展のモデルは、19世紀の明治維新以降の日本である」と。

●資本主義の様々なモデル(Model Capitalists)

 日本は、彼らの成功した経済モデルを東アジア全域に輸出しようと躍起になった。しかし、ネオリベラル的な資本主義が賞賛される時代になり、自画自賛を急にやめてしまった。1993年に世界銀行が発表した「東アジアで起きている奇跡(The East Asian Miracle)」は日本政府が資金を出したもので、政府の介入を賞賛する内容だった。

 1980年代から1990年代にかけて、自由放任を柱とする自由市場資本主義経が正統派と見なされていた。しかし、この時期、意識してこの考えに反対した人々がいた。ジェイムズ・ファローズは、著書『太陽を見る:東アジア諸国の新しい経済・政治システムの勃興(Looking at the Sun: The Rise of the New East Asian Economic and Political System)』の中で、「国家は基本的に経済成長を阻害する存在である」という考えは、アングロ・アメリカ(英米)社会の偏見に過ぎないと主張した。MITの経済学者アリス・アムスデンは、著書『西洋以外の勃興(The Rise of the Rest)』の中で、産業化に送れて参加した国々であるインド、中国、トルコ、ブラジルは、国内の市場に介入する以外に選択肢はないと主張している。

 これらの様々な主張は、地政学的な動機と国内的な条件の考慮を無視している。この点に関しては、次回の日本と中国の国家資本主義に関する記事で書きたいと思う。日本や中国は、過去20年間の自由放任イデオロギーの持つ陰湿な影響力とは何だったのかと読者の皆さんに不思議がらせる存在である。自由放任イデオロギーは、アジアの国家資本主義の存在を人々が忘れるように仕向けるものだったのである。

(終わり)
[PR]
by Hfurumura | 2012-09-24 22:18 | 国際政治