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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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いよいよ本性を現してきた米政翼賛会③

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



 安倍晋三首相は、今月(2013年1月)中の訪米を模索してきました。しかし、アメリカ側も、オバマ大統領の就任式が21日にあり、また、主要な国務、国防、財務格長官の交代もあり、日本の首相の訪問を受け入れるだけの余裕がないようです。そこで、来月2月の訪米を安倍首相は考えているようです。今月末に通常国会が始まり、来年度予算を審議する中で、なんとか時間を作ってもらってアメリカに(参勤交代で)行きたいようです。

いよいよ本性を現してきた米政翼賛会③_c0196137_17291021.jpg


 以下に転載貼り付けした新聞記事にもありますが、安倍首相は、訪米の際に、日本の集団的自衛権(ライト・オブ・コレクティブ・ディフェンス、right of collective defense)の容認に向けての議論を加速させる意向をアメリカに伝えたいとしています。

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

●「首相、集団自衛権の議論加速 訪米で伝達へ」
47ニュース 2013年1月13日
http://www.47news.jp/CN/201301/CN2013011301001168.html

 安倍晋三首相は13日午前、NHK番組に出演し、2月で調整中のオバマ米大統領との首脳会談で、集団的自衛権行使を容認する憲法解釈見直し議論の加速方針を伝える意向を明らかにした。環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の表明には慎重な姿勢を示し「まだ状況分析が十分ではない。精査、分析し判断したい」と述べた。

 集団的自衛権行使容認に関し「安倍政権の大きな方針」とした上で「このことで日米同盟がどう変わるか、地域がどう安定するか議論したい」と強調した。

2013/01/13 11:18 【共同通信】

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 集団的自衛権とは、国連憲章(Charter of the United Nations)で認められた、自衛権の一種です。以下にインターネットで見られる解説と合わせて引用します。

(引用はじめ)

国連憲章第51条
「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。(Nothing in the present Charter shall impair the inherent right of individual or collective self-defence if an armed attack occurs against a Member of the United Nations, until the Security Council has taken measures necessary to maintain international peace and security. Measures taken by Members in the exercise of this right of self-defence shall be immediately reported to the Security Council and shall not in any way affect the authority and responsibility of the Security Council under the present Charter to take at any time such action as it deems necessary in order to maintain or restore international peace and security.)」

==========

集団的自衛権とは:

 国連憲章第51条で加盟国に認められている自衛権の一。ある国が武力攻撃を受けた場合、これと密接な関係にある他国が共同して防衛にあたる権利。

◆日本は主権国として国連憲章の上では「個別的または集団的自衛の固有の権利」(第51条)を有しているが、日本国憲法は、戦争の放棄と戦力・交戦権の否認を定めている(第9条)。政府は憲法第9条について、「自衛のための必要最小限度の武力の行使は認められている」と解釈し、日本の自衛権については、「個別的自衛権は行使できるが、集団的自衛権は憲法の容認する自衛権の限界を超える」との見解を示している。

※デジタル大辞泉のアドレスはこちら→
(http://kotobank.jp/word/%E9%9B%86%E5%9B%A3%E7%9A%84%E8%87%AA%E8%A1%9B%E6%A8%A9)

(引用終わり)

 集団的自衛権は、ある国が攻撃を受けた時、同盟を結んでいる、もしくは密接な関係を結んでいる別の国が共同して防衛行動を取る権利のことです。具体的には、日本はアメリカと安全保障条約を結んでいるので、「密接な関係」にありますので、アメリカへの攻撃は自国への攻撃と考え、アメリカと共同して防衛行動を取るということになります。

 しかし、日本政府は、日本国憲法第9条に基づいて、「個別的な」自衛権は行使できるが、集団的な自衛権は行使できないという見解を出しています。安倍首相は、ここの部分を変えたいと考えています。アメリカへの攻撃を日本への攻撃とみなし、アメリカと共同して行動ができるようにしたい、自衛隊を日本国領外でも、アメリカの下請けで行動できるようにしたいと考えているようです。

 更に言えば、日本政府が禁止という見解を出している集団的自衛権の改正(容認)をアメリカは求めています。アメリカのジャパン・ハンドラーであるマイケル・グリーン(Michael Green)が昨年に発表した論稿をこのブログ(「マイケル・グリーンのご神託:野田も安倍も同じだ②」2012年11月29日 http://suinikki.exblog.jp/18935190/)でご紹介しました。この論稿の中で、マイケル・グリーンは日本の集団的自衛権について次のように書いています。

(引用はじめ)

日本には戦略があるのか?(Does Japan Have a Strategy?)

マイケル・J・グリーン(Michael J. Green)筆
ナショナル・インタレスト誌(National Interest)
2012年11月28日

 昨年(2011年)、野田総理は日本の武器輸出三原則を緩和することを発表した。そして、野田総理の防衛に関する諮問委員会は、集団的自衛行動の禁止を撤廃することを提言した。集団的自衛行動を認めることで、自衛隊はアメリカ軍との共同行動に参加できるようになる。アメリカと同盟を結んでいるNATOやオーストラリアと同じことができるのだ。日本の首相は集団的自衛権があることを認め、それを発動する力を持っている。それは、日本国憲法第9条(「平和条項」)の再解釈が必要なだけだ。日本国憲法の改正は困難であるが、それをする必要はない。日本の海上自衛隊は、アラビア海で交戦規定に沿って活動している。彼らは、海賊から攻撃を受けた友軍を助けるために武力を使うことを許されている。法律的に言えば、海賊は犯罪者であり、国家ではないということになる。政治的な可能性の世界での話となるが、次のステップは、日本の自衛隊がアメリカやその他の同盟諸国の軍隊と共同作戦が行える能力を促進するということになる。

(引用終わり)

 安倍首相は、今のところ、TPPについては慎重な姿勢を崩していませんが、TPPと同様に重要な集団的自衛権の容認については、積極的に進めようとしています。この集団的自衛権容認は、自衛隊の日本国外での防衛行動(武力行使)への道を拡大することであり、アメリカ軍の下請け化を進めるものです。アメリカとしても、アジア・太平洋地域での秩序維持の負担を日本に押し付けようとしています。このように日本の国益にもならないこと(アメリカの国益にはかなう)を熱心に進めるのが安倍政権であり、米政翼賛会です。またしても彼らの本性が良く現れたニュースを見ましたので、皆さんにご紹介いたします。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


# by Hfurumura | 2013-01-14 17:27 | 日本政治

ネオコンとの戦いであったチャック・ヘーゲルの上院議員時代:ナショナル・インタレスト誌の記事から

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社



 オバマ政権二期目で国防長官に指名されたチャック・ヘーゲルに関する記事をこれまでも何回かご紹介しました。今回もまた大変興味深い内容の記事をご紹介します。今回の記事は、チャック・ヘーゲルが上院議員時代にいかに「反逆児」であったかを紹介しています。

 ヘーゲルは上院議員時代、皆が持っている印象ほどには反逆児ではなかったようですが、重要な投票では共和党の主流に反対し、「反逆児」という印象を持たれました。また、ブッシュ(子)大統領や共和党の同僚たちを激しく批判して、共和党の中で孤立していったようです。

 ブッシュ(子)政権は、ネオコン(NeoConservatives)と呼ばれる危険な考えを持つ人々が数多く参画しました。ブッシュ大統領は、イラクとアフガニスタンへの侵攻を行い、アメリカを泥沼の戦争に引きずり込むことになりました。これもネオコンの人々が画策したものです。

 こうしてみると、ブッシュ政権下、ブッシュ政権と共和党に反対するというのは、ネオコンに反対するということと同じでした。チャック・ヘーゲルは、共和党内部でネオコンと戦った人物ということになります。問題児、反逆児のように見えますが、ネオコンとの戦いということになると、一貫して反対した人物という姿が浮かび上がってきます。

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 ネオコンと親和性の高い、ヒラリーを旗頭とする民主党内の人道的介入主義派が、オバマ政権第二期目ではだいぶ政権から外れるようです。オバマ大統領は一期目の最初に志向した現実的な外交・安全保障政策を遂行する意図を持っているようです。今回のヘーゲルの国防長官指名はその一環と言えます。

==========

ヘーゲルはいかにして共和党を怒らせてきたか(How Hagel Angered the GOP)

ジョーダン・マイケル・スミス(Jordan Michael Smith)筆
ナショナル・インタレスト誌(National Interest)
2013年1月11日
http://nationalinterest.org/commentary/how-hagel-angered-the-gop-7957
http://nationalinterest.org/commentary/how-hagel-angered-the-gop-7957?page=1

 チャック・ヘーゲル(Chuck Hagel)の国務長官指名は最も議論を呼ぶ指名となった。1989年にジョージ・H・W・ブッシュ(父)大統領がジョン・タワーを国防長官に指名して以来、最も議論が白熱した指名となった。タワーの国防長官就任は上院が承認を拒否したことで幻に終わった。しかし、この時、タワーの敵となったのは民主党所属の上院議員たちだった。今回のヘーゲルの指名に関して、敵となるのは共和党である。共和党は、ヘーゲルが10年以上にわたり上院議員を務めた際に所属した政党である。上院議員時代のヘーゲルの活動を詳しく見ていくと、ヘーゲルが共和党の中で孤立していった様子がよく分かる。ヘーゲルは、共和党の方針に反した投票行動を行い、ジョージ・W・ブッシュ(子)政権に対して敵対的な発言をし、上院共和党の同僚議員たちを批判してきた。

 ヘーゲルの上院議員としての姿勢は、国内政策に関しては保守的であった。アメリカ保守連合の調査によると、ヘーゲルの投票行動は、84%の割合で保守的だったそうだ。ヘーゲルが共和党を怒らせたのは主として外交政策についての行動である。彼の独自の行動は、新人の頃から始まった。ヘーゲルは、1999年、コソボに対する米地上軍の派遣を主張した。共和党の上院議員でこのような主張をしたのはほとんどいなかった。更に、ヘーゲルは、地上軍派遣を求める決議案の共同提出者となった。この決議案は否決された。この時、ヘーゲルの行動を支持したのは、現在は宿敵となっているジョン・マケイン(John McCain)だった。この時、上下両院の187名の共和党所属の議員たちが決議案に反対した。この時のヘーゲルの主敵は誰だったか?オクラホマ選出の共和党上院議員であるジェイムズ・インホッフェ(James Inhofe)だ。インホッフェは、当時、「この決議案は、アメリカの持つ資源を浪費することになり、効果的な使い方にはならない。米地上軍をコソボに派遣すべきではない」と発言している。ヘーゲルにとって悪いことには、インホッフェは、現在、上院軍事委員会の幹部となり、影響力を持っていることだ。インホッフェは、ヘーゲルの承認に対して反対票を投じるだろう。

 コソボに関しては明確に共和党の方針に反したヘーゲルも、その他の問題では一貫しない姿勢を示し、共和党の主流派を困惑させた。ヘーゲルはアフガニスタンへの侵攻を支持した。またミサイル防衛計画や国防予算増額、同性愛の兵士たちに対して「同性愛者かどうか問わないが、自分から同性愛者であることを発表しない(Don’t Ask, Don’t Tell)」政策、愛国法の改正を支持した。また、包括的核実験禁止条約に反対した。そして、ヘーゲルはイラク戦争に賛成票を投じた。

 投票に関してヘーゲルと共和党の主流派の間で実際に不和が起こった数は少ないが、不和に至った問題は全てが重要な問題であった。2007年の半ば、ヘーゲルは、民主党が提出したイラクからの即時撤退を行うための法案に、他の2人の共和党議員たちと賛成に回った。同じ2007年、ヘーゲルは、ブッシュ大統領のイラクへの米軍増派に反対した。この投票がヘーゲルにとっても、共和党にとっても、ブッシュ政権にとっても致命的に重要なものになった。ヘーゲルの反対に対して、ディック・チェイニー(Dick Cheney)は、「ロナルド・レーガン大統領が定めた規則の11か条目には、“同僚の共和党員のことを悪く言わない”とある。しかし、チャック・ヘーゲルのこととなると、この規則を守ることがとても難しくなる」と発言している。ヘーゲルは、イランに対する禁輸措置に対して反対票を投じたが、別の機会では賛成している。

 従って、彼の投票行動を詳しく見てみると、ヘーゲルが共和党の同僚たちとは反対の投票をしたのは僅か3回しかないことが分かるが、この3回が重要な投票であったのだ。共和党の同僚たちの記憶に残っているのは、ヘーゲルが頻繁にブッシュ政権と共和党全体を批判したことだ。ヘーゲルは、ブッシュ大統領の「悪の枢軸(Axis of Evil)」演説を批判した。そして、「アメリカがアフガニスタンに侵攻している今、イランはアメリカの助けになる」と発言した。ヘーゲルはまた、同僚のマケイン、リンゼー・グラハム上院議員が、イラク戦争の早期開始を求めたことにも異議を唱えた。ヘーゲルは、「サダム・フセインが核兵器開発プログラムを継続している明らかな証拠は存在しない」と主張した。アメリカのイラク進攻の一週間前、ヘーゲルは、「外交チャンネルが全て完全に断たれたわけではない」と主張した。ヘーゲルは、アメリカはブッシュ大統領が「悪の枢軸」というレッテルを貼った国々、イラク、イラン、北朝鮮との関係改善に努力すべきだと提案した。政治雑誌『ウイークリー・スタンダード』誌は、ヘーゲルを批判し、ヘーゲルが「宥和(弱腰)の枢軸(axis of appeasement)」の一員だと書いた。

 ヘーゲルはイラクへの侵攻に賛成票を投じた。しかし、ヘーゲルは熱心に支持していたわけではなかった。ヘーゲルは、2003年に「私たちがイラクに介入することで、イラクやアラブ世界に民主政治体制が樹立されるかどうかは分からない」と述べた。ヘーゲルはまた、ブッシュ大統領のグアンタナモ基地にテロ容疑者たちを収容し、拷問するという政策を批判した。それにもかかわらず、ヘーゲルは、グアンタナモ基地の収容者たちの公民権の回復には反対票を投じた。

 イラクで反米テロが頻発するようになった後、ヘーゲルは共和党内でイラク占領に反対する政治家として有名になっていった。2004年、ヘーゲルはイラクの状況を「悲惨という言葉以上の状況」と述べている。ジョン・ケリー(John Kerry)上院議員は2004年の大統領選挙で、ヘーゲルのこのコメントを選挙運動の中で引用した。共和党の首脳部はヘーゲルのコメントに激怒した。

 ブッシュ大統領の二期目、ヘーゲルは、外交政策に関して共和党の主流にことごとく反対した。ヘーゲルは少なくとも公然と反対を表明した。ヘーゲルはチェイニー副大統領の「イラクでの反米テロは生みの苦しみである」という発言を嘲笑した。ヘーゲルは、ドナルド・ラムズフェルド(Donald Rumsfeld)国防長官を非難し、「ブッシュ政権が無為無策であることは何も驚くに値しない」と発言した。ヘーゲルは二度にわたり、ブッシュ大統領の弾劾を提案した。あの時期、確かに多くの共和党の議員たちは、ブッシュ政権から距離を取ろうとしていた。しかし、ヘーゲルほどブッシュ政権への批判を公然と、そして激しく行った人はいなかった。

 2006年、ヘーゲルは「ユダヤ・ロビー(Jewish lobby)」が議員たちを「恐怖を用いて支配している」と発言した。そして、自分はアメリカの上院議員であり、イスラエルの上院議員ではないと述べた。この発言は今になって、ヘーゲルを批判するのにつかわれている。ヘーゲルは、イスラエルとハマスとの間、またアメリカとヒズボラとの間で直接交渉を行うべきだと主張した。そして、パレスチナ人たちへの同情を公然と表明した。このような一連の発言は、彼の言動の中で最も議論を呼ぶものになった。さすがに法的措置まで発展することはなかった。

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 個人との関係で言えば、ヘーゲルの独自の行動はコストを伴うものである。ヘーゲルとマケインは以前友人であった。しかし、現在のマケインは、ヘーゲルが国防長官に適した人物かについて疑義を呈している。ヘーゲルのイラクへの増派に対する反対が分裂を決定づけた、と誰もが口を揃える。マケインの友人は取材に対して次のように語っている。「ヘーゲルとマケインの分裂は、泥沼状態に陥ったイラク戦争開始時から始まり、ヘーゲルの増派への反対で決定的になりました。マケインは、ヘーゲルの反対をマケイン個人に対する侮辱と受け取ったのです」ヘーゲルが共和党の大統領予備選挙でマケインに対する支持を取りやめたことで分裂が深まった。ヘーゲルはマケインを名指しで批判した。ヘーゲルはマケインが「軍を拡大しなくはいけない」と考えているとし、次のように語った。「 私はいつもこのように言うんだ。ジョン、アメリカの力には限りがあるんだよ。現在の陸軍と海兵隊は大きく傷ついている。今のようなことはいつまでも続けられないよ、とね」ヘーゲルはまた、マケインが、産業化された民主国家の集まりであるG8からロシアを排除すべきだと繰り返し述べているのに対し、「完全に狂っている!」と批判した。

 ヘーゲルの孤立化を象徴するのが、2008年の共和党全国大会を欠席したことだ。ヘーゲルは、共和党の国会議員の中でただ一人、マケインがサラ・ペイリン(アラスカ州知事、当時)を副大統領候補に選んだことを批判した。ヘーゲルは、「ペイリン候補は、アメリカの歴史上、履歴書が最も短い履歴書の副大統領候補であることは疑いのないところだ」とこき下ろした。

 ヘーゲルは、マケインの大統領選挙について「大変に失望した」と述べた。ヘーゲルは、「マケインは一回だけ良い演説を行ったがただそれだけだった。彼は5000万ドル(約44億円)も使って敵を打ち破ろうとしたが失敗した」と述べた。更に、ヘーゲルは批判を全ての共和党所属の政治家たちにも向けた。「わが国には“何も知らない人々党”と呼ばれる政党がある。この政党は極端な方向に進んでいる。そして、一つの問題だけしか興味を持たない、具体的には妊娠中絶をどうするかという問題にしか興味がない有権者たちからしか支持を得られていない。もちろん、この問題が重要なのは私も分かってはいる」

 10年以上にわたり、ヘーゲルは外交政策に関して独自の考えを発展させてきた。それが、チャック・ヘーゲルと友人だった共和党の議員たちを分かつことになった。ヘーゲルの承認に関して現在行われている議論から得られる教訓はいろいろあるが、そのうちの一つは次のようなものだ。「言葉を選んで、人と関係を保つことが重要だ。ある人の議会での行動の記録には全てが記録されている」

※ジョーダン・マイケル・スミス:ウェブサイト「サロン」、ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ボストン・グローブ氏に寄稿している。

(終わり)

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所


# by Hfurumura | 2013-01-13 17:43 | アメリカ政治

チャック・ヘーゲル新国防長官はアメリカの路線変更の証左か:ナショナル・インタレスト誌の記事から考える

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



 安倍政権は、「価値観外交」を標榜し、対中国包囲網づくりの主導的な役割をアメリカに担わされている。しかし、アメリカ国内では、チャック・ヘーゲル新国防長官は、対中ハト派であり(と言うことは、オバマ大統領も中国に対して敵対的な姿勢を取るつもりはないということになる)、対中タカ派の多い米国防総省を、オバマ大統領の意向に沿う形で抑えるためにヘーゲルが国防長官になるということだという主張がある。それが今回、ご紹介するアミタイ・エツィオーニの記事だ。

 エツィオーニのこの記事は大変重要だと私は考える。それは、アメリカの路線転換を示していると考えるからだ。宥和的なジョン・ケリーが国務長官に、そして、対中タカ派であり、イラク戦争や経済制裁に対して批判的なチャック・ヘーゲルが国防長官になる(ケリーもヘーゲルも連邦上院議員経験者であり、オバマ大統領、バイデン副大統領とも同僚の間柄)ことで、オバマ政権第一期のヒラリーの人道的介入主義路線(Humanitarian Interventionism)・対中強硬路線が変更されることになるだろう。更に言うと、アメリカは、国内問題優先、より具体的には財政問題優先になるだろう。

チャック・ヘーゲル新国防長官はアメリカの路線変更の証左か:ナショナル・インタレスト誌の記事から考える_c0196137_231176.png


 それでは日本はどういうことになるだろうか。安倍政権の対中包囲網づくりはどうなるだろうか。この動きはある程度、アメリカから容認されるだろう。小競り合い程度までなら容認されるだろう。しかし、それ以上の、人民解放軍の艦船と自衛隊の艦船の衝突といった事態は許されないのではないかと考えられる。しかし、こうしたことは偶発性を伴うものだ。現場の指揮官レベルが上層部の意図を「わざと」読み間違うこともある。

 勇ましく姿勢を示して船出した安倍政権であるが、こちらも参議院議員選挙までは、経済優先で政権運営を行うということになる。更に言えば、安倍晋三首相は、アメリカの意図をきちんと読みとり、「集団的自衛権の容認といったことまでは行うが、中国との対決を煽動・先導しない」という方向性に進む可能性も出てきた。

 とりあえず、アメリカは路線変更をしつつあるようだ。これに対して、日本がどのように動くか。日本が対中包囲網づくりの価値観外交を推進し続けるようなら、アメリカは日本を使って中国をけん制している、もしくは安倍氏が独走(暴走)しているということになる。その場合、安倍氏が石破氏に交代させられるということもある。これからの動きを注視しなくてはいけない。

==========

チャック・ヘーゲルと中国(Chuck Hagel and China)

アミタイ・エツィオーニ(Amitai Etzioni)筆
ナショナル・インタレスト誌(National Interest)
2013年1月10日
http://nationalinterest.org/commentary/chuck-hagel-china-7952

 マスコミは、チャック・ヘーゲル(Chuck Hagel)元上院議員の、イラン、イスラエル、同性愛者たちに対する過去の発言や立場を大きく報じている。しかし、ヘーゲルの中国に対する考えについてより注意を払うべきである。

 次期国防長官は世界の秩序の将来、米軍の構造、これから10年間の国防予算の規模に影響を与えることになる戦略的に重要な決定を行うことになるだろう。ヘーゲルは、中国を遅かれ早かれ米国と衝突する国として、それとも、平和的に共存できる国として、どちらを優先して取り扱うか、決定を迫られることになる。

 2011年にオバマ政権が発表した「アジア回帰(pivot to Asia)」で、既に決定はなされ、米中両国の将来における衝突は避けられないと主張する人々がいる。しかし、オバマ大統領の「現在の近東の重要性は低下し、極東がアメリカにとっての最優先事項になる」という宣言は、また違う解釈もできる。オバマ大統領のアジア回帰宣言は、米軍(海兵隊や海軍の艦船など)の極東への再配置を行い、中国の近隣諸国との軍事同盟を形成し、アジア地域で共同軍事演習を行うというシグナルであるという見方をする人々がいる。米国防総省の中には、空軍と海軍の予算を増加させようと努力している人たちがいる。空軍と海軍は、中東においては、陸軍と海兵隊をする支援するという役割を担ってきた。しかし、軍関係者や戦略家たちの中には、アジア・太平洋地域では、海軍と空軍が主導的な役割を果たすべきだと主張する人々がいる。

 このような対中国タカ派の人々は、公然と、中国は「世界に出てきて、私たちの権益を喰い荒らす(out to eat our lunch)」と述べ、中国の「平和的台頭(peaceful rise)」は真意を隠すためのマスクだと主張している。彼らは、中国は、リベラルな世界秩序(アメリカが作り上げた戦後の世界秩序―訳者註)に対して、共産主義国家として挑戦したいと本当のところは考えているのだと主張している。また、対中国タカ派の人々は、中国を直視することを拒否し、ただ「アジアはアメリカにとって新しい活動の場となる」というような物言いに終始する。しかし、彼らは、中国こそが最も重要なターゲットであることを確信している。

 対照的に、「中国との違いを乗り越えて協力することができる」と考える人々が多くいる。彼らは、中国を世界に対する脅威と見なすことは大きな間違いであると主張している。何も切迫した脅威がある訳ではないのに、中国を敵とするのは間違いだと彼らは主張している。ジョセフ・ナイは次のように述べている。「中国を敵視すれば、中国が将来、アメリカの敵になることは間違いない。中国を友人だと見なしても、友情が醸成されるかどうか確かではないが、米中関係が、深刻な危機的状況に陥ることは少なくともないだろう」

 対中国関係について、ヘーゲルはどの立場に立つだろうか?その答えは、PBSで放送された、ロバート・ノーランによるヘーゲルへの最新インタビューの中にある。ヘーゲルは、中国経済が急速に発展しているといる事実から中国を警戒すべきだと考えている人々には与しないとしている。ヘーゲルは次のように語っている。

 「中国は台頭し、経済成長を続けています。これからも存在を増し続け、経済成長を続けるでしょう。私たちは中国の台頭と経済成長を歓迎すべきでしょう。中国は、インドやブラジル、その他の国々と同様、アメリカの競争者となるでしょう。それも良いでしょう。貿易、様々な交流、米中関係、共通する利益といったものを私たちアメリカと新興国家は持っています。またこれらの新興諸国は、安定、安全、エネルギー資源、人材といった点で共通していると言えます。これらを基盤にして発展しているのです。私たちアメリカにもこれらのものが全て揃っていますね。中国もまたそうなのです」

 ヘーゲルは、中国が国内に多くの問題を抱えており、国外でできることは限られているという認識を持っている。ヘーゲルは次のように指摘している。

 「中国は多くの重大な問題を抱えています。13億の人口を抱え、多くの人々が厳しい貧困の中で生活しています。雇用、中国の一番の問題はこれに尽きます。中国はエネルギー問題を抱えています。彼らはこの問題にずっと取り組んでいかねばならないでしょう。中国は世界の大国の一つとなりました。これからも大国であり続けるでしょう。それもまた受け入れねばならないことです。しかし、アメリカは中国の台頭によって衰退することはありません。また、中国がアメリカに取って代わるということを心配する必要もありません」

 ヘーゲルはアメリカについては楽観的見方をしている。

 「私は、私たちアメリカ国民が良く考えられたこと、正しいこと、合理的なことを行い続ける限り、アメリカについて心配はいらないと考えています。私たちは世界をリードしています。しかし、世界を自分勝手に支配している訳ではありません。私たちは世界各国に何かを強制している訳でもありません。私たちは世界のあちこちに介入していません。占領や侵攻をしている訳でもありません。私たちは同盟諸国と緊密に協力しています。私たちは、第二次世界大戦後のアイゼンハワー、トルーマン、マーシャルといった賢明な指導者たちが行ったことを今も行っているのです」

 対中国という重要なテーマについて、ヘーゲルがどのような立場を取っているかについては、彼のインタビューでの発言を見て、なんの疑う余地もない。ヘーゲルは対中国ではハト派ということになる。そして、ヘーゲルは、米国防総省内でオバマ大統領の意向に忠実に沿うように努力するだろう。米国防総省内部には、中国は米国にとって脅威となる敵であると考える人々が数多くいる。このような人々は、意図することなく、アメリカを新しい冷戦(Cold War)に引きずり込むために動いている人々なのである。

※アミタイ・エツィオーニ(Amitai Etzioni):カーター政権上級顧問。コロンビア大学、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校で教鞭を執る。現在は、ジョージワシントン大学・栄誉教授国際関係論教授。最新作に『ホットスポット:ポスト人権時代のアメリカの外交政策(Hot Spots: American Foreign Policy in a Post-Human-Rights World)』がある。

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


# by Hfurumura | 2013-01-12 23:11 | アメリカ政治

ここまで対立的な姿勢を示して「友好関係を築く」などと言えるのか:貧乏くじをひかされている日本

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所



 安倍晋三首相の外交姿勢を示す新聞記事が昨日から今日にかけて読売新聞(安倍政権応援・CIA機関紙のような役割を果たす新聞)に掲載されましたのでご紹介します。これらを読むと、日本が積極的に世界に呼びかけて、主導的な立場で、中国封じ込めを行おうとしていることが分かります。日本が世界の外交の場で何か主導的な役割を果たすことはこれまでほとんどありませんでした。しかし、安倍政権は、「お勇ましい」外交姿勢を示しています。フィリピンやNATOを巻き込んで対中国包囲網を形成するというのは、攻撃的な姿勢としか言いようがありません。

 日本が何か主体的に外交の場で動くということは、残念ながらあり得ません。日本にそこまでの外交力はないですし、何より、「外交とはアメリカの望む方向に進めるものだ」というのが官民に染み込んでしまっています。安倍政権の攻撃的な外交姿勢も、アメリカの「望む」範囲で行われていることです。

 日本がいちばんの貧乏くじをひかされています。日本が日中関係の改善を犠牲にさせられて、中国と対峙させられているのです。中国の台頭を一番恐れているのは、世界覇権国(ヘジェモニック・ステイト、hegemonic state)の地位を脅かされるアメリカです。アメリカは中国の台頭を抑えたいと考えています。しかし、同時に中国は重要な貿易相手国であり、アメリカ国債を買ってくれるお得意さまです。米中関係を悪化させることをアメリカは望んでいません。

 しかし、中国を何とか牽制したいというのもアメリカの願いです。アメリカの願いにとって都合の良い国があります。それが日本です。地理的に中国をふさぐ位置にあり、歴史的に関係がしっくりいかないのが日本です。そこで、中国をけん制する「猟犬」のような役割(アメリカは直接やりたくない嫌な仕事)を日本にさせようというのです。アメリカは傍観者、中立のふりをして、事態がエスカレートしたところで間に入るなどして、日中両国に恩を売る、貸しを作ることで、アジア・太平洋地域での主導権(イニシアチブ)を握るという戦略のようです。これは、英語で言うと、オフショア・バランシング戦略(Offshore Balancing Strategy)と言います。私たち日本人にもっとわかりやすく言うと、「漁夫の利を得る」ということになります。

 もっとうがった見方をすれば、中国も致命傷を与える銃や武器を持っている「猟師」であるアメリカと直接事を構えるよりも、「猟犬」である日本と争っている方がまだましと考えているかもしれません。「猟犬」はしっかりしつけられていて、何より、猟師の言うことに絶対服従ですし、獲物に致命傷を与えるという能力を持っていません。

 「アメリカを相手にするよりは目障りではあるが、日本を相手にしていた方がまだましだ。私たち中国はまだアメリカと直接事を構える段階ではない。だから、絶対にアメリカとはやらない。しかし、アメリカが日本という“猟犬”を仕掛けてくるのは、仕方がないから適当に相手をしておこう」というのが中国の姿勢ではないかと思います。

 安倍晋三首相は、価値観外交を唱えています。価値観外交とは、自由、基本的人権、民主政治(デモクラシー)といった価値観を共有する国々で連携して、中国を封じ込めるというものです。これは麻生財務相の「繁栄の弧」と言う考え方も入っているでしょう。いい気になって、「みんな、集まれー。中国をみんなでやっつけようよ」と一生懸命呼びかけているうちはいいですが、そのうち、「あの猟犬も邪魔になったな」ということになれば、一晩のうちに手のひら返しをされて、まるでオセロで多くの駒の色がひっくり返るように、地滑り的な総選挙の結果のように、孤立するという結果に陥ることになるでしょう。

 日本が何か主導的な立場で外交をやらされると、それが日本の犠牲(国益の無視)を伴うということがこれでよく分かります。日本がアメリカの属国である以上、それは仕方がないことです。ですから、できるだけ「猟犬」としては無能な、「何もしない」駄犬でいることが、実は国益を損なわないということになるのではないかと私は考えます。

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

●「中国の進出懸念…首相、NATO事務総長に親書」
読売新聞電子版 2013年1月12日
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130112-OYT1T00549.htm?from=top

 安倍首相が、北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長に親書を送り、中国の海洋進出に対する懸念を伝えて連携強化を求めることが12日、明らかになった。

 首相は親書で、中国による尖閣諸島(沖縄県)周辺での領空・領海侵入を念頭に、「中国の海洋進出の活発化と北朝鮮の動向などにより、東アジアの安全保障環境は厳しさを増している」と指摘。日本が東アジア地域の安定と繁栄に積極的役割を果たす考えを表明する一方、東アジアの「戦略的環境の変化」について、NATO側に認識の共有を呼びかける考えだ。

 親書は、15~19日に英国、フランス、ベルギーを訪問する自民党の河井克行衆院外務委員長を通じてラスムセン氏に届けられる予定だ。(2013年1月12日15時25分 読売新聞)

●「海上安保の連携強化で一致…日比外相が会談」
読売新聞電子版 2013年1月11日
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130110-OYT1T01161.htm

 【マニラ=伊藤徹也】岸田外相は10日、訪問先のフィリピンでデルロサリオ外相と会談し、海洋権益拡大の動きをみせる中国を念頭に、海上安全保障の連携を強化することで一致した。

 フィリピンは南シナ海のスカボロー礁問題で、日本は尖閣諸島(沖縄県石垣市)を巡る問題でそれぞれ中国と対立している。

 会談ではデルロサリオ氏が、中国に対する懸念を表明、岸田氏は尖閣諸島についての日本の立場を説明した。連携強化策として、フィリピン沿岸警備隊への巡視船供与などの協力を加速させることを確認した。(2013年1月11日10時57分 読売新聞)

●「首相、中国の尖閣対応「国として間違っている」」
読売新聞電子版 2013年1月11日
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130111-OYT1T00653.htm?from=popin

 安倍首相は11日午前の記者会見で、沖縄の尖閣諸島を巡る中国側の対応について、「政治的目的を達成するために、日系企業に被害を与えたり、個人に危害を与えることは、国際社会で責任ある国家としては間違っているとはっきり申し上げたらいい」と述べ、批判した。

 首相は会見の中で、尖閣諸島を巡る問題について、「交渉する余地はない」と改めて強調したうえで、両国の立場の違いを踏まえ、「そういう関係を尊重するというのが戦略的互恵関係だ。戦略的互恵関係に立ち戻って、日中関係を改善していきたい」と述べた。(2013年1月11日14時09分 読売新聞)

(新聞記事転載貼り付け終わり)

(終わり)

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社


# by Hfurumura | 2013-01-12 17:58 | 日本政治

孫に対する教育費が非課税になる:風が吹けば桶屋が儲かる

アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界

ロバート・ケーガン / ビジネス社



 昨日、2013年1月11日、安倍首相は緊急経済対策を発表しました。緊急経済対策の3つの柱は、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略」ということです。そして、具体的な施策が検討されつつあります。

 その中で人々の耳目を引くのは、「孫に対する教育費非課税」です。これは、「祖父母が信託銀行などに孫名義で口座を作り、将来の教育資金を一括して贈与した場合、一定額の贈与税を非課税にする。1人当たり1000万~1500万円を上限とする方向で検討している」というものです。おじいさんやおばあさんが孫の名義の口座に纏まった額のお金を贈与しても非課税ということです。これから、どのように教育費に使われたか、孫が使ったかを証明する方法が検討されるでしょう。

 お金持ち層にしてみれば、相続税でこれまでよりも多額の税金を取られるよりも、かわいい孫にお金をあげることを選ぶでしょう。これで、潤うのが、少子化で沈滞していた教育産業です。私立学校や塾は活況を呈するようになるでしょう。子供たちの数が減っても、一人にかけるお金を増やすことで売り上げを維持することができるということになるでしょう。公立に流れていた層もまた私立にということになるでしょう。

 今回、教育再生会議も設置され、早稲田大学の鎌田薫総長が議長になりました。現在の文科相は早稲田大学教育学部出身の下村博文代議士であり、安倍氏の側近です。早大出身者には伝統的に文教族が多いのが特徴です。早稲田は積極的に付属校新設を進めてきましたが、佐賀、大阪の中高一貫校、小学校からある早実、中学もある早大学院などへの志望者、また明治の後塵を拝している大学の受験者数もまた増加することが考えられます。

 更に言えば、アメリカもこの措置を喜んでいるでしょう。アメリカの各大学は世界各国からの留学生を受け入れています。日本からの留学生の数は最盛期の半分にまで減少しています。ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は、日本人留学生の減少を機会あるごとに訴え、日本人にもっとアメリカに留学するように促しています。また、一部にはこのお先棒を担ぐ形で、留学を煽る言論も見られます。

 1500万円という金額は、アイビーリーグなどアメリカの一流大学の4年間の学費と生活費のほとんどをカバーできる金額です。経済的な理由で留学を諦めていた人たちが、おじいさんやおばあさんの支援で留学できるようになることで、アメリカから日本への留学が増えることが考えられます。また、留学生は合法的にアメリカに銀行口座を開設することもできますから、グローバル化した今日、何かと便利です。世代間での所得移転ということですが、そのお金がアメリカに流れるということが考えられます。

 更に言えば、現在の状況を考えると、シンガポールへの大学留学がおじいさん、おばあさん孝行になるのではないかと思います。シンガポールは日本から直行便も出ていて、安全、英語と中国語、ヒンズー語も学びやすい環境にある、これからますます発展する東南アジアの中心地であり、人脈作りもできるといった利点があります。また、アメリカの場合と同じく、現地の銀行や世界的に有名な銀行の口座を合法的に解説することができて、グローバル化時代には大変便利です。気候の安定しているシンガポールで勉強している孫のところへ、おじいさんやおばあさんが様々なお土産を持って、勉強の様子見がてら訪問するという光景も見られるようになるかもしれません。

 こういう話は「風が吹けば桶屋が儲かる」式の話ですが、とりあえず書いてみました。笑っていただければ幸いです。

 笑えない現実としては、お金が富裕層内部でしか移転しないので、社会の階層化、お金のかかる高度の教育を受けて高収入の仕事に就けるのがお金持ちばかりということなり、階層の固定化が進むということはあると思います。「機会の不平等と結果の不平等」がどうしても出てくることになると思います。

●「「交際費緩和」「孫の教育費非課税」 緊急経済対策、減税措置が判明」
2013.1.10 05:00 Sankei Biz

 政府が11日に策定する緊急経済対策の税制分野の全容が9日、分かった。飲食店などでの接待需要を呼び起こして経済の活性化を図るため、中小企業の交際費の一部を必要経費(損金)に計上できる法人税の軽減措置を拡充する。雇用や給与支払額を増やした企業の法人税減税や、祖父母が孫に教育資金をまとめて贈与した場合に一定額まで贈与税を非課税にする措置も設ける。

 これら6項目の減税措置を含めた緊急経済対策は11日に閣議決定し、詳細は自民・公明両党が24日までに決定する2013年度税制改正大綱までに詰める。

 資本金1億円以下の中小企業は現在、年間600万円を限度に交際費の9割を必要経費とみなし、法人税を軽減する措置を受けている。緊急経済対策では限度額の拡充を明記し、企業の接待需要の喚起を図る。

 交際費は1992年の6兆2000億円をピークに、長引く不況で減少を続け、2010年には2兆9000億円まで落ち込んだ。寂しくなった夜の街を税制面で明るくする効果を期待する。

教育資金の非課税措置は、若年層への資産移転を促進する狙いがある。これまでは教育費名目であっても、まとめて贈与すれば課税対象だったが、祖父母が信託銀行などに孫名義で口座を作り、将来の教育資金を一括して贈与した場合、一定額の贈与税を非課税にする。1人当たり1000万~1500万円を上限とする方向で検討している。

 雇用促進面では、新規雇用だけでなく、在籍している従業員の給与や賞与を増やして人件費総額を拡大した場合も減税対象にする。人件費増加分の1割程度を減税する方向で調整する。

 少額の株式投資を非課税とする制度「日本版ISA」に関しては、14年から3年間としていた実施期間を5年間に延長、非課税になる投資総額も期間内の合計で500万円に増やす。

 このほか、企業の研究開発に対する減税措置の拡充や、設備投資を増やした場合に法人税の減税幅を拡大することも明記。緊急経済対策に6項目の減税措置を盛り込むことにした

項目            内容

 研究開発税制の拡充     企業が試験研究にかかった総額の

               8~12%分の金額を法人税額の20

               %を上限に差し引くことができる

               研究開発税制を拡充する

 企業の設備投資の促進    企業が設備投資の総額を増やした

               場合、法人税額を減らす

 企業の労働分配を促進する  企業が給与や新規雇用を増やした

 税制措置          場合、給与支払総額の増加分の一

               定割合を法人税額から差し引く

 交際費課税の緩和      中小企業の交際費の損金計上を現

               行の上限600万円から拡充

 若年層への資産移転を促進  祖父母が孫らに教育資金として一

 するための教育資金の一括  括贈与した場合、一定額まで贈与

 贈与に関する税制措置    税を非課税にする

 日本版ISAの拡充、金融  個人に対する証券優遇税制を延長

 所得課税の一体化      し、年間100万円、5年間で最大

               500万円まで非課税にする

(終わり)

アメリカ政治の秘密

古村 治彦 / PHP研究所


# by Hfurumura | 2013-01-12 01:31 | 日本政治