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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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『バーナード・マドフ事件 アメリカ巨大金融詐欺の全容』の発売決定(宣伝)

前作、『メルトダウン』に引き続き、副島隆彦先生が監訳・解説、古村治彦が翻訳しました、アダム・レボー著『バーナード・マドフ事件 アメリカ巨大金融詐欺の全容』(成甲書房刊)が、2010年4月17日に発売されることになりました。

おととい(4月9日)に、見本が完成し、監訳者、翻訳者に渡されました。自画自賛で申し訳ないのですが、大変分かりやすく、大変面白い内容の本です。海外メディアの書評を1つご紹介したいと思います。アマゾンではすでに予約販売が開始されております。

どうぞよろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

ニューステイツマン(New Statesman):イギリスの左翼系月刊誌

アダム・レボー(Adam LeBor)著『バーナード・マドフ事件』(The Believers: How America Fell for Bernard Madoff’s $65bn Investment Scam )
評者:ブライアン・アップルヤード(Bryan Appleyard)筆
2009年12月3日付



「犯罪の天才」



 本書は、バーナード・マドフ(Bernard Madoff)と彼が行ったネズミ講・無限連鎖講(Ponzi, or pyramid-selling, scheme)を取り扱っている。そして、「マドフはどのようにネズミ講を行ったのか?」という疑問に鮮やかに答えを出している。バーナード・マドフは、魅力的な人柄、傲慢さ、並はずれた残忍さを使い、ネズミ講を成功させていた。しかし、本書の著者アダム・レボー(Adam LeBor)は、「バーナード・マドフはどうしてネズミ講を行ったのか?」という疑問には答えを出していない。しかし、誰にもその答えを出せない、というのが公平な評価であろう。

 ネズミ講とは、新しい投資家から得たお金を、古くからいる投資家に支払うという方式を取る詐欺行為だ。ネズミ講は、最終的には破たんする。時間が経てば、新しい投資家を見つけられなくなるからだ。マドフはそのことをよく分かっていた。それでもマドフはネズミ講を運営するために努力し続けた。そして、マドフのネズミ講が明るみに出たとき、被害総額が650億ドル(約5兆8500億円)となっていた。マドフは、ネズミ講を止めることができなかった、と発言している。しかし、彼はネズミ講を止めることができたはずだ。そして何より疑問に思うのは、「バーナード・マドフがどうしてネズミ講を始めたのか?」ということだ。

 マドフのネズミ講の特徴は、「親近感を利用した詐欺」である。ユダヤ人であるマドフは同胞のユダヤ人たちをターゲットにした。マドフの被害者たちは自分とマドフは親友だと思っていた。被害者たちは、マドフのことを魅力があり、信頼できる人物だと考えていた。しかし、あるウォール街で活躍している投資銀行家が述べたように、自分の人種をセールスに利用する人物には近付いてはいけないのだ。バーナード・マドフはあらゆる機会に、自分がユダヤ人であることをアピールし、利用した。そして、多くのユダヤ人たちが籠絡されたのである。

 本書の著者レボーは、マドフのネズミ講事件の背景を私たちに分かりやすく説明してくれている。マドフの父方、母方の祖父母たちは共に20世紀の初めに、それぞれワルシャワとガリツィア(ウクライナの南西部)からアメリカに移民してきた。彼らは、ユダヤ人の大量移民の波に乗ってアメリカにやってきた。しかし、この20世紀の初頭に起きたユダヤ人の大量移民の波は、すでにアメリカに定着していたユダヤ人たちを恐怖に陥れた。彼らは、「イエッケ(Yekkes)」と呼ばれ、都市に住み、専門職に就いている者が多かった。彼らの先祖は19世紀にはアメリカに移民してきており、少なくとも1世紀以上にわたり、アメリカ人として生活していた。

 新しくやってきたユダヤ人たちは二つの特性を持っていた。悪い面で言うと、新しくやってきたユダヤ人たちは虐げられ、差別された。それに対抗するために、彼らの中にはギャング団を結成する者たちがいた。ユダヤ系ギャングは、現在でも小説や映画によく出てくる。だが一方で、彼らは、勤勉で、創造性にあふれていた。また、同じユダヤ人である「イエッケ」と、他のアメリカ人が持つ反ユダヤ主義(anti-Semitism)を乗り越えようと努力していた。マドフはユダヤ系アメリカ人の中でも最悪の人物である。著者レボーは、マドフのことを「金融犯罪の天才」と呼んだ。私はマドフが天才であるかどうか分からないし、天才とはどのような人のことなのか、はっきり分からない。しかし、彼はただの愚か者であり、敗北者である。しかし、「犯罪(criminal)」であることは間違いないが、「悪徳(evil)」まで言えるかどうか、私は自信を持てないでいる。

 マドフのトリックは成功した。彼は、マンハッタンにあるリップスティックビルの2つのフロアを借りて、手広く株式取引ビジネスを展開していた。彼は、コンピューターによる株式取引の先駆者のひとりであり、ナスダックの会長を務めた。ウォール街の伝統的な勢力はマドフのことを嫌っていた。しかし、ウォール街は、伝統勢力はマドフの成功を無視することはできなかった。投資家たちにとって、マドフは優良な投資先であった。

 リップスティックビルの1つのフロアでは、ネズミ講が大きく成長していった。ネズミ講には、秘書や幹部社員は関わっていなかった。ネズミ講に関わっていたのは、礼儀知らずのフランク・ディパスカリと古ぼけたIBM製のコンピューターであった。ディパスカリの使命は、顧客に送る報告書に記載するために、何百万ドルもの虚偽の取引をでっちあげることだった。ディパスカリは顧客に対して横柄な態度で接した。不快感を覚えた顧客たちがマドフに電話をかけたが、マドフは顧客に対して礼儀正しく接した。

 マドフの噂話は、マンハッタンのユダヤ人たちの間に最初に拡がった。ついで、コネチカット州のワスプたち、そして、パームビーチの金持ちたちにまで拡がった。バーナード・マドフのファンドは年率10から12パーセントの利益を安定的に出すということで評判になった。安定した利益というのが投資家たちにとって魅力的だった。年率10から12パーセントの利益というのは、人々を惹きつける。それより高ければ嘘くさいし、何より高すぎる利益を出し続けていたら、ネズミ講は数カ月で破たんしていただろう。

 手ごろな利益率は詐欺の一部分にすぎない。マドフは、投資ファンドをカルトに仕立て上げた。人々の証言によれば、マドフの投資ファンドに投資するのは大変に難しかった。マドフは投資家を選別していたし、ビジネスを拡大しなかった。しかし、マドフがうなずいたり、ウィンクをしたりすることで、投資家たちは顧客として受け入れられたことになった。実際、投資家たちが何も知らないまま詐欺に騙されていたというのは、このマドフ事件のもっとも笑えるが悲しい点である。今回の事件で悪名が高まったフィーダーファンドは、投資家たちに知らせることなく、マドフに何十億ドルものお金を流していた。コネチカット州やパームビーチに住む大金持ちたちは、金融の知識を持っていたにもかかわらず、お金をバーナード・マドフに渡していたのだ。

 マドフのネズミ講の最後の特徴は、政府機関がきちんと機能しなかったことである。証券取引委員会は、1999年から後、マドフのネズミ講を摘発できたはずだった。金融の専門家たちは、マドフがネズミ講を行っている可能性が高いことを指摘していた。バロン誌で記事を書いているジャーナリストのエリン・アーヴェドランドは、マドフが巨大なヘッジファンドを運営していたのに、手数料も、出した利益の一部も受け取っていなかった。アーヴェドランドの調査によると、マドフは2億4000万ドルを稼いでいた。フランスの銀行ソシエテ・ジェネラルは、マドフの投資戦略について秘密の調査を行ったところ、その戦略を行っても利益が出ないことを確認した。マドフは胡散臭かったのだろうか?政府機関はマドフを胡散臭いと考えなかった。重要な点は、強欲は、セックスと同じように、理性を超えてしまう。マドフは、頭が空っぽの金持ちたちに、自分は選ばれた人間でそれによって金儲けができると思わせた。彼らは、「マドフは金儲けのための秘儀を持っている」という根拠のない幻想を本当のことだと信じたのだ。

 マドフのネズミ講を破たんに導いたのは、2008年に起きた経済危機だった。マドフは市場を利用してのし上がり、そして市場によって殺された。マドフは現在、サウスカロライナ州の刑務所に収監され、机やドアにつけるネームプレートを作っている。株式市場などは少しずつ回復しつつある。住宅価格は上昇している。金融機関では再び高額のボーナスが支払われるようになっている。そして、新しい詐欺事件も次々に起こっている。私はブレヒト(Bertolt Brecht)の警句を引用したくないのだが、あの有名な警句で締めくくりたい。「私たちは敵をやっつけることができた。しかし、油断してはいけない。私たちの敵を生み出した売女は再び発情している(The bitch that bore him is in heat again)」


(貼り付け終わり)

『バーナード・マドフ事件 アメリカ巨大金融詐欺の全容』の発売決定(宣伝)_c0196137_185110.jpg

by Hfurumura | 2010-04-11 01:06
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