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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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ジョージ・パッカードのバカ野郎

日米安保50周年を迎え、より悪質で、ふざけた主張をしているジャパンハンドラーズの頭目パッカード:「フォーリン・アフェアーズ」誌に掲載された論文から読み解く。古村治彦(ふるむらはるひこ)筆 2010年4月25日


米外交評議会(CFR, Council on Foreign Relations)が出している、外交・政治専門誌「フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)」の最新版(2010年3・4月号)に日米安保についての論文が掲載されました。執筆者はジョージ・パッカード(George R. Packard)です。パッカードは、ジョンズ・ホプキンズ大学・ポール・ニッッエ記念高等国際問題研究大学院(Paul Nitze School of Advanced International Studies, Johns Hopkins University)の院長を務め、現在米日財団(the United States-Japan Foundation)理事長をしています。1960年代から、アメリカの日本管理班(ジャパンハンドラーズ、Japan Handlers)の頭目の一人として活動してきました。

パッカードはタフツ大学(Tufts University)の大学院生時代、東京大学に留学し、日米安保反対運動に触れました。タフツ大学はボストン近郊にあり、近くにあるハーバード大学(Harvard University)とマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)に、政治学や国際関係論の分野で引けを取らない名門校です。その後、エドウィン・O・ライシャワー米駐日大使の補佐官として1963年に再来日、その後、安保反対運動を素材にして博士論文を執筆しました。彼はライシャワーの右腕として学会でも活躍しました。

パッカードは、「フォーリン・アフェアーズ」誌の2010年3・4月号で、「日米安全保障条約50周年:日米で意識を共有している取り決めであろうか?(The United States-Japan Security Treaty at 50 Still a Grand Bargain)」(92-103ページ)と題する論文を発表しています。「フォーリン・アフェアーズ」誌が持つ重要性を考えると、この論文は大変に注目に値します。

この論文の中で、ジョージ・R・パッカードは、昨年(2009年)に民主党が政権を奪取し、自民党が下野したことに触れながら、「日米安保条約は現在もその維持にかかるコストを上回る利益を両国にもたらしているだろうか」という問題を提起しています。次の段落以降、パッカードが描く日米安全保障条約の歴史を概観していきます。

パッカードは、それから、日米安保体制を概観しています。その中で、日米安全保障条約が1952年に締結されたとき、日米が対等の主権国家ではなかったこと(戦勝国と戦勝国に占領された敗戦国)を指摘しています。そして、日本国民の意思に関係なく(国権の最高機関である国会の承認を必要とせず)、アメリカ軍は日本国内に2800以上の基地を建設し、26万人のアメリカ軍の軍人や軍属を駐留させました。(93ページ)1960年、当時の岸信介首相は、安全保障条約の改定を強行し、安保反対運動が高まりを見せました。

1980年代、日米安全保障条約は、日米両国間の経済問題によって危機を迎えました。アメリカは日本に対し、自主的な輸入制限を求めました。また東芝が軍事製品に利用可能な技術をソビエト連邦に売却したことで、アメリカの日本に対する攻撃が大きくなっていきました。「日本は、第二次世界大戦に敗れたが、経済戦争でアメリカを打ち負かし、アメリカの産業を壊滅させる」という主張がアメリカで

1993年にビル・クリントン(Bill Clinton)がアメリカ大統領に就任しました。パッカードは、クリントンについて、「クリントンと閣僚をはじめ政権に入ったメンバーの多くが、日本はアメリカの敵だという考えに強く影響されていた」(95ページ)と指摘しています。クリントン政権下の1996年、ジョセフ・ナイ(Joseph Nye)安全保障担当国防次官補(assistant secretary of defense for national security affairs)が主導して、「ナイ・レポート」を発表しました。その中で、ナイは、アメリカは東アジア地域に10万人規模の軍隊を駐留させること、アメリカは引き続き日本の防衛の責務を担っていくことを明確に書いています。

パッカードは、続いて、日米安保の利益とコストについて論じています。パッカードは、「少々の摩擦はあるが、アメリカ、日本両国は日米安保がもたらす利益がコストよりも大きいことを認めている」(96ページ)と主張しています。パッカードは、「日米安保は日本の安全保障に役立っているし、日米安保のおかげで日本は経済発展に集中することができた」という吉田ドクトリン(Yoshida Doctrine)と呼ばれる主張をそのまま述べています。一方、アメリカから見ると、日米安保と日本の存在(不沈空母 unsinkable aircraft carrier、中曽根康弘元首相の発言)によって、冷戦下、東アジアにおける対ソビエト戦略を進めることができました。日本の安保ただ乗り(free-riding on the United States for its security)という批判もあり、また、日米間の核持ち込み密約(secret agreement)という問題もありましたが、日米安保は、日本にもアメリカにも利益をもたらしてきた、というのがパッカードの主張です。

2009年8月30日、日本では民主党が総選挙で勝利しました。パッカードは民主党と鳩山由紀夫総理大臣の紹介をしています。その中で、鳩山首相がアメリカにスタンフォード大学で博士号を取得していること、鳩山首相の説く「友愛(brotherhood)」が曖昧であること、鳩山首相がより対等な日米関係を求めていることを書いています。加えて、日本側で、アメリカ軍の駐留に伴うコストを負担だと考えるようになっているとしています。その一つが米軍の軍人や軍属が起こす犯罪、もう一つは増大し続ける思いやり予算(host nation’s support)です。思いやり予算の中には、米軍の娯楽施設の職員たちの給与も含まれています。そうしたものまで日本が払う必要があるのか、と現在日本国民は思っています。

パッカードは、オバマ大統領も鳩山首相も、外交に不慣れなため(ham-handed)に現在のような状況を招いたとしています。鳩山首相は連立相手の社民党や国民新党の突きあげを受けて厳しい立場にあるとパッカードは見ています。(100ページ)

パッカードは沖縄の状況をかなり正確に掴んでいます。沖縄は平均所得の面で日本で最も貧しい県であり、沖縄に住む人々は自分たちを「二級市民(second-class citizen)」であると感じている、とパッカードは書いています。そして、沖縄駐留米軍は、「沖縄を自分たちの奪った領地であるかのように扱い、日本政府やアメリカ国防省の意向を無視し、勝手に運営をしている」(101ページ)と書いています。パッカードは、「沖縄ではどうして米海兵隊が最も重要な部隊として扱われているのか?彼らが直面している脅威とは何なのか?」という疑問を呈しています。これは日本側も持つ疑問ですが、アメリカ政府はこれらの疑問に何の答も出していない、とパッカードは述べています。

論文の最後、パッカードは「つまずきに続く道(The Road of Bluders)」という節を設け、その中でこれからの日米関係について自説を述べています。この節は大変重要であると思い、以下に翻訳をしたいと思います。

(翻訳はじめ:102-103ページ)

 アメリカ政府は普天間基地移設問題について、鳩山政権にもっと考えて、立場を明確にするための時間を与えるようにすべきだ。更に言うと、アメリカ政府は、昨年の総選挙で強力な第二党が選挙に勝ったことをもっと喜ぶべきだ。なぜなら、政権交代は、アメリカが種をまいた日本の民主政治体制が日本に根付いたことを示す証拠だからだ。そして、アメリカ政府は、これからの日本政府に対して、米国防総省の命令に唯々諾々と従うなどということを期待してはいけない。アメリカ政府は、日本の諸政党が日本の安全保障について独自の見解を持つ権利があることを認識しなければならない。ホワイトハウスと国務省は、アメリカの対日政策についてシヴィリアン・コントロール(civilian control)を発揮する時期にきている。国防総省は、ブッシュ政権下、日本の自民党前政権がアメリカ政府と結んだ合意を、発足1カ月しか経たない鳩山政権に履行するように求めたのは愚かなことだった。

 アメリカ政府が採るべき賢いやり方は、日本語で「低姿勢(low posture)」と呼ばれるものだ。アメリカ政府と日本政府は、日米安保条約によって起きている様々な問題について慎重に再考すべきだ。沖縄に米海兵隊を駐留させるべきだという主張が強力であるなら、それを日本のマスコミを通じて日本国民に伝え、それを受け入れるかどうか決めてもらえば良い。対等な日米関係の中で、普天間基地移設問題はほんの小さな問題に過ぎない。

 アメリカ政府は、日本政府が持つ「日本領内に駐留するアメリカ軍を減らしたい」という願いを尊重すべきだ。ドイツ、韓国、フィリピンでも同様の願いがあり、それらはこれまで尊重されてきた。アメリカ政府は日本における米軍の駐留について進んで交渉のテーブルにつくべきだ。日本側では、米軍の駐留を19世紀の不平等条約と同じように感じている。日本の有権者たちが日米同盟の未来を決定するということを忘れてはいけない。アメリカ側の担当者は、「日米同盟は世界第一、第二の民主政治体制国家と経済大国の同盟である」という前提から、日米安保条約は同盟という枠組みに比べたら小さな存在でしかないということを肝に銘じておく必要がある。アメリカ政府は日本政府と、環境、健康、人権、核兵器の不拡散、対テロなどの分野で協働し、より大きな成果を得ることができる。

 日本領土からアメリカ軍を撤退させ、基地を日本側に返還することで、日本政府は、日米両国の安全保障と世界平和により貢献するようになる。日本は集団的自衛権(the right to engage in operations of collective self-defense)を有しているということははっきり述べておかなくてはならない。アメリカの参加なしに、東アジア諸国で何か共同体のような創設するような愚かなことを日本政府はしないだろう。朝鮮半島の非核化のため、日本政府は6カ国協議という枠組みにおいて、アメリカ政府と共同歩調を取る必要がある。日本政府は、競争力の全くない農業分野を守ることを止め、アメリカとの自由貿易協定(free-trade agreement)を締結すべきだ。この考えは、この20年間、様々に議論されたことであり、民主党のマニフェストにも書かれている。

 最後に、日米両国でできる象徴的な、素晴らしいジェスチャーについて提案したい。まず、オバマ大統領と鳩山首相は、来年秋に日本で開催されるAPECの後、広島を訪問し、核兵器の製造と拡散を止めることについて話し合い、宣言を出す。核廃絶は両首脳の気持ちをぐっと近づけるはずだ。その後、両首脳でパールハーバーを訪問し、だまし討ちは2度と行わないと宣言する。こうした両首脳の行動で、第二次世界大戦での傷は癒され、これからの日米関係は強固なものとなる。(102-103ページ)

(翻訳終わり)

 この最後の節を読んで、ジャパンハンドラーズの恐ろしさを感じました。笑顔で近づいてきて、日本を利用しつくそうとする態度が見え見えの文章です。日米安保条約は日米同盟の一部分であり、普天間基地移設問題はその日米安保条約のほんの一部にすぎないとパッカードは書いています。日米同盟は世界の大国の同盟であり、日本に協力させることで、アメリカの抱えている諸問題を解決できるとしています。一番驚くのは、日本から米軍を撤退させ、基地を返還することで、日本は日米同盟により貢献するようになると書いていることです。やや抽象的ですが、日本が対テロや安全保障に貢献すると言うのは、自衛隊の海外派遣(派兵)のことです。これは恐ろしいことです。

 このように、笑顔で、日本に近づいてくるジャパンハンドラーズは、このように恐ろしい意図を持っていることを忘れてはいけません。

(終わり)

『バーナード・マドフ事件』大変面白い本です。是非お読みください。
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by Hfurumura | 2010-04-27 00:40
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