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翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
by Hfurumura
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アメリカのウィスコンシン州で起きていることに思う

古村治彦です。

アメリカはドル安による輸出の増加と共に、「安全な」米国債が安定的に買われていることによって、景気回復基調にあると言われています。中東情勢によって石油は高騰し、穀物の先物市場も上昇しています。これは消費者や製造業者、運送業者にとっては打撃ですが、その反面、石油業者や農家にとっては買取価格が上昇するのですから良い面もあります。

アメリカの景気回復は、オバマ政権とFRBによる景気回復策が効果を上げているからだと言われています。確かにFRBは金融緩和策(QE2)を行い、オバマ政権もARRPを実施しています。市場にはお金があふれています。そのお金が「安全な」ドル買いには向かわず、米国債や実物市場(石油や穀物)、そして、中国や新興国に向かっています。そしてそうした国々からお金が還流しています。しかし、これは危険なことです。何の裏付けもないドル紙幣を刷って、それを還流させているだけで、財政赤字は増大していきます(景気刺激策ですから増加するのは仕方がない面もありますが)。アメリカ経済が輸出型に転換し、内需(アメリカ人の買い物)が減り、一方で中国が輸入を増やしたり、国内需要を増やしたりすることで、アメリカの大借金、中国の過剰貯蓄のアンバランスが解消されていくと考えられます。しかし、そううまくいけばよいのですが、巨額の財政赤字によって、危ない米国債、信用のないドルということを市場が考え始めたときにドル崩壊、アメリカ崩壊が始まると考えられます。

アメリカ全体では現在、政府予算の削減が行われています。2011年の国家予算も赤字削減が盛り込まれています。地方もまた惨憺たる状況です。日本では、カリフォルニア州が財政危機だという報道がたびたびなされてきました。カリフォルニア州はリベラルな州で、小さな「福祉国家」であると言えます。全米で最大の公務員数を誇り、その退職者年金組合(カルパース)は機関投資家としてサブプライムローン崩れで大打撃を受けました。カリフォルニア州は州債を発行していますが、その支払期限日になるとシュワルツェネッガー知事が何とかやり過ごしていました。日本の銀行などもカリフォルニア州債を買って支えている(変な日本語ですが、支えさせられている)状況です。

全米各地の自治体では、病院の閉鎖、大学の授業数の大削減と先生の削減、消防士や警察官、教師の削減が行われています。こうしたリストラの場合、既得権のある年齢層の高い人々や実務経験の長い人ほど優遇され、若い人たちから切られていきます。そこで世代間の争いが起こります。

以下の新聞記事では、ウィスコンシン州をはじめとする全米各地でのリベラル派によるデモの様子が報道されています。ウィスコンシン州のウォーカー知事は、リバータリアン系の知事で、政府の無駄を徹底的に削減する立場です。そして州議会でも共和党が出した公務員の労働権の一部を制限する法案が審議され、実際に州下院を通過して上院に送られています。

ウィスコンシン州は、リバータリアンと現代リベラル派の戦いの最前線なのです。隣のイリノイ州はオバマ大統領が上院議員をしていた州で、先日、大都市シカゴの市長に、オバマ氏の側近で大統領首席補佐官であったラーム・エマニュエル氏が当選しました。それほど民主党(リベラル派)の強い州ですが、お隣の州では、思想的な戦いの最前線になっています。

日本では公務員の労働権が制限されていますが、アメリカでは一般の労働者と同じように扱われています。ウィスコンシン州知事ウォーカーはそれではあんまりだから一部制限しようとしているのです。肥大化した公務員制度に切り込むということで支持を受けています。日本でいえば、名古屋市長の河村たかし氏に主張が似ていると思われます。一方、リベラル派はこれに反対しています。労働権という人権を制限するとは何事かということです。また、労働組合が力を落とすと彼らの支持を受けている民主党にとっても痛手となります。

この状況をどのように考えるべきでしょうか。労働者の権利としての団体交渉権を制限するというのは近代の原則に反します。しかし、公務員たちが貴族のように肥大化していることもまた改善せねばなりません。これが平時であればリバータリアン的な立場を支持すべきだと私は考えます。しかし、アメリカ全体が景気回復に向けて進もうとするならば、財政支出を増加させることが有効な手段となります。それならば、現在は、景気回復のためにケインジアン的な財政支出増加を思い切ってやるべきで、公務員たちもその対象となるべきです。ですから、団体交渉権の一部制限は一時凍結し、財政支出の効果を上げるようにすべきです。「組合の力が弱まるということは、自分たちを守ってくれる組織が弱くなるということだ。そうなると簡単に首切りや減俸ということになる。それでは、
将来が不安であるから支出を控える」という論法が成り立ちます。ですから、州政府は徹底的な無駄の削減をしながら、財政支出を行うと同時に、公務員の労働権には手を付けないで妥協するというのが私の考えです。


(転載貼り付けはじめ)

ウィスコンシン予算削減策に全米50州で抗議デモ
CNN.co.jp 2月27日(日)13時21分配信

(CNN) 米中西部ウィスコンシン州のウォーカー知事が提示した予算削減策に同州の公務員らが一斉に反発している問題で、公務員側を支持するリベラル系政治団体「ムーブオン・オーグ」などが主催する抗議デモが26日、全米50州で行われた。

デモの震源地となったウィスコンシン州の州都マディソンでは、降り積もる雪と寒さのなか、議事堂前に約7万人が集まり、知事退陣を求めるスローガンを叫んで行進した。地元警察によると、衝突などは起きていない。

一方、ワシントン州の州都オリンピアでは、公務員支持のリベラル派と知事支持の保守派がそれぞれ議事堂前で集会を開いた。

ウィスコンシン州では、公務員の団体交渉権を大幅に制限する共和党の法案が下院を通過し、次の段階として上院での採決が予定されている。これに対して民主党が、「労働組合をつぶす行為に等しい」と強く反発。採決を阻止するため、同党の上院議員14人が隣のイリノイ州へ逃げ込む事態となっている。

ウォーカー知事は、州の財政赤字を縮小するための法案だと強調。議会で可決されなければ州から地域への補助金が削減される可能性もあると指摘するなど、説得に努めている。

一方、ソリス米労働長官は26日、ワシントンで開かれた民主党全国委員会の会合で、ウォーカー知事や、同様の法案成立を目指すオハイオ州のケーシック知事を批判。公務員の労働者としての権利を尊重すべきだと呼び掛けた。

(転載貼り付け終わり)

※2011年3月19日発売!!
アメリカのウィスコンシン州で起きていることに思う_c0196137_3151582.jpg

by Hfurumura | 2011-03-05 03:16 | アメリカ政治
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