翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
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2010年 05月 05日 ( 1 )

パラグ・カンナの新しい論文を紹介します。古村治彦訳 2010年5月5日

パラグ・カンナの新しい論文を紹介します。古村治彦訳 2010年5月5日

 今日はパラグ・カンナの新しい論文を皆さんに紹介したいと思います。カンナは1977年生まれの現在33歳です。インドで生まれましたが、祖父が外交官、父親がビジネスマンということで、ドバイ、ニューヨーク、ドイツで育ちました。現在は、ニューアメリカ財団の国際統治計画部門のディレクター兼アメリカの戦略プログラムの主任研究員を務めています。

 カンナは2008年に処女作であるThe Second World: Empires and Influence in the New Global Order を出版し、話題となりました。日本では、2009年に講談社から『「三つの帝国」の時代:アメリカ・EU・中国のどこが世界を制覇するか』(玉置悟訳)として出版されています。この本の中で、アメリカ、EU、中国を現代の帝国として捉え、それらが共存していく、世界は統合されていくという主張を行っています。

 今回ご紹介する論文はタイム紙に掲載されました。この中で、現在の国民国家の基礎となる国境線が役に立たないもので、国境線を取っ払ってしまえ、というやや過激な、夢想家のような主張を行っています。短い論文ですので読みやすいと思います。

それでは拙訳をお読みください。

==========

世界を見直し、新しい世界を描いてみる(Remapping the World)
「タイム」紙 2010年3月12日
パラグ・カンナ(Parag Khanna)筆

 世界中で、政治的に決められた国境線というものがあり、それが人間の進歩を妨げる根本的な障害となっている。国境のない世界(a borderless world)は実現すれば人間にとって素晴らしいものとなるだろう。しかし、それが実現する可能性は低い。それでも私たちは国境のない世界を建設しなければならない。国境のない世界ができれば武力を使った紛争を正統化する理由はなくなるし、経済は大いに発展する。これからの十年で世界に新しい地図を描くことは、人間にとって価値のあるゴールとなる。そればかりでなく、道徳的、経済的、戦略的に避けられないものである。

 国境のない世界という考えは空想のように思われる。グローバライゼーションが進んだ現代でも、世界人口の90パーセントは自分が生まれた国から出ることなく生活している。そうした人々にとって、国境は大きな存在のままである。そしてそうした人々に国境が襲いかかることもある。イスラエルとパレスチナを分ける「フェンス(fence)」からアメリカとメキシコの国境まで、国境というものは、軍産複合体(military-industrial complex)にとって、国を分かち、監視し、守ることが大きなビジネスとなっている。

 私たちはこれまで国境の堅固さについてだけ知識を与えられていたが、実際のところ、多くの国々の国境が崩壊し、機能していないという事実を全く無視してきた。コンゴやパキスタンのような、多くの植民地状態から独立した国々(postcolonial states)は国境を築いていないか、国境のようなものがあっても機能させていない。機能しない国境という存在によって、長期にわたる、解決できないジレンマを生み出してきた。

中東について見てみよう。外交上のこぜりあいとホワイトハウスのローズ・ガーデンでの儀式が数十年も繰り返されてきたが、中東地域が安定したことはなかった。しかし社会資本が持つ力が大きいことは証明されてきた。パレスチナ国家の承認を妨げている障害は、ヨルダン川西岸地区(West Bank)とガザ地区(Gaza Strip)がつながっていないことだ。二つの地区をつなげ、近代的な空港と港を建設することで、パレスチナ国家がこれからも存続していけるようになる。社会資本なき独立は全く意味のない、不毛な試みでしかない(Independence without infrastructure is futile)。

 クルド人たちはそのことを良く分かっている。だから、クルド人たちは、イラクという国がいつなくなっても良いように、自分たちの地区の油田に関し、カナダやノルウェーの会社と石油採掘に関する合意を結んでいるのだ。オスマントルコ時代に意図的にひかれた国境線を一回ご破算にし、地図の上にパイプラインの通っている様子を描いてみたら、どこの国が影響力を持っているかとどことどこが相互依存関係にあるか、良く分かる。そして、どうしたらこの地域に平和をもたらすことができるか、正確に考えることができる。クルド人の国は海に接しておらず、周囲を他国に囲まれている。だから、石油を外国に輸出しようとするなら、周囲の国々と協調していくしか選択肢はない。

 これと似たような話がある。スーダンはイギリスの植民地で、アラブ人のイスラム教徒とアフリカ人のキリスト教徒が国民となっているアフリカ第二位の大国である。この国では、3か所、ダルフール、南部スーダン、東部スーダンでそれぞれ内戦が起こったが、それぞれは関係がない。この様な国が存続していることを私たちはどうして当たり前だと思ってしまっているのだろうか。このスーダンと呼ばれている国に安定と平和をもたらすには、ダルフールと南部スーダンが独立し、小さな国として再出発することが重要だ。そうした国々が近隣諸国と平和に共存するようにすべきだ。決してスーダンの大統領とスーダン国内の無法な勢力と対峙する道を選んではいけない。

 スーダン以外でも、アフリカ大陸にある国々とって現在の国境線を考え直すのは大変有益である。タンガニーカ湖、ヴィクトリア湖などを含むアフリカ大湖沼(Great Lakes)地域での共同水力発電プロジェクトや国境を越えた自然公園のような国境にこだわらないプロジェクトが考えられている。実際に南アフリカはこうしたプロジェクトを近隣諸国と進めている。アフリカは経済的に成功するだろう。そのためには弱々しい50の国が2つか3つのまとまりになること、それしかない。

 現在の世界的な経済危機と不完全雇用に対処したいと考える世界各国の指導者たちは、恣意的な国境を越えた成功例から教訓を得ることができる。その成功例とはヨーロッパ連合(the European Union, E.U.)のことだ。EUは世界で最も平和で、最大の経済ブロックである。EUには27カ国が加盟し、4億5000万人が生活し、GDPは20兆ドル(約1800兆円)にのぼる。世界中に走る無数の線が地球と私たちを傷つけてきた。その傷を癒すためには、人々がつながれるような国境線を実際にひくことだ。私たちが既存の国境を越えようとして戦い、または守ることに使っている莫大なお金のほんの10パーセントでもそれを乗り越えることに使うなら、これから10年、いやそれ以上の期間、今より良い世界を作ることができる。

(終わり)

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by Hfurumura | 2010-05-05 23:33