翻訳、評論の分野で活動するSNSI研究員の古村治彦のブログ
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2010年 05月 11日 ( 1 )

『バーナード・マドフ事件』書評を掲載します。

しつこいようですが、私が翻訳した『バーナード・マドフ事件 アメリカ巨大金融詐欺の全容』(2010年4月、成甲書房)の書評を以下に掲載します。

金融業界の体質であるインサイダー取引を許容する文化がこのような詐欺を生んだのだ、と書評の中で書かれています。

『バーナード・マドフ事件』をまだお読みになっていない方は是非、お読みください。

それでは拙訳をお読みください。

↓成甲書房のウェブサイトはこちら↓
http://www.seikoshobo.co.jp/

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うなずきあい、目配せしあう

Talking Points Memo(インターネットサイト)
2010年1月9日
ビマード・アヴィシャイ(Bemard Avishai)筆

私は今、アダム・レボー著『バーナード・マドフ事件 アメリカ巨大詐欺の全容』を読んでいる。この本は、バーナード・マドフ(Bernard Madoff')が起こした詐欺事件を取り上げていて、大変面白く、驚くべき内容の本である。この本は2カ月ほど前にイギリスで出版されたが、アメリカでは出版されていない(訳者註:その後出版された)。この本には、私たちがどうしたらそんなことができるのかと考えるしかなかった、マドフの「親近感を利用した詐欺(affinity scam)」の手口の詳細についてたっぷりと書かれている。マドフはユダヤ人ネットワークを利用し、目的に適うエズラ・マーキンとの関係を築き、ナスダックからパームビーチまで、自分のイメージを大切にした。この様な本では、「強欲(sordid)」と「詳細(details)」という言葉がうんざりするほど出てくる。この『バーナード・マドフ事件』でも出てくるがそれほど酷くはない。

著者レボーはマドフの人間性について多くのページを割いている。しかし、マドフの人間性について説明できていない。マドフの人間性によって、サイモン・レヴィとその妻は30年以上にわたり、彼を家族同然に考え、考えることや疑うことが全くできなくなっていった。彼らは数カ月に1度の割合で夕食を共にした。そして、自分たちの老後のための資金を全てマドフに委ねるというところにまで進んでしまった。レボーは、最近私にメールをくれて、その中で次のように書いている。「興味深いのは、マドフはどんな気持ちで生活をしていたのか、ということです。長年にわたり、詐欺がいつ発覚して自分を滅ぼしてしまうのかという思いを抱えながら生きていたのでしょうから」レボーは、マドフが、階級差別による怒り、自分の先祖たち(ポーランドやロシアからの貧しい移民)が受けた差別に対する憎悪に突き動かされたと考えている。ポーランドやロシアの寒村からの貧しいユダヤ人移民は、彼らよりも1世紀も早く移民してきていたドイツ系のイェッケたちから激しい差別を受けた。そしてイェッケたちがニューヨークのユダヤ社会を支配していた。レボーの考察はほぼ正しいと言える。

レヴィ夫妻のように、「投資家は騙されやすい(gullibility of investors)」のである。このことは説明しやすい。ビジネスのほとんどは、これは大丈夫だというお墨付きを得たものに、顧客が集まる。それは、私たちはリスクを避けたいと思っているからだ。最近、テルアヴィヴで、多くの中国人出稼ぎ労働者が詐欺の被害に遭い、なけなしのお金を騙しとられたという事件が起きた。詐欺の犯人は、彼らが稼いだお金を本国の家族に送金する際に起こるトラブルを防ぐことができる、と甘言を弄してお金を騙しとった。「私がきちんと対応しますからね」と詐欺師は言ったそうだ。そして、中国人労働者は次々と仲間を紹介していった。

詐欺の被害者は「強欲(greed)」だけで動いてはいなかった。詐欺の被害者が何か罪を犯したと言うなら、それは怠惰(sloth)の罪だ。彼らは何かを深く考えると言うことを放棄していた。マドフの被害者となったイギリス貴族のアンソニー・ジェイコブスは次のように語っている。「私がまず申し上げたいことは、マドフの詐欺の被害者たちは強欲で高い利益を求めていたという主張は事実とは正反対であるということです。私がマドフに投資を始めた10年前、利益は年利で11パーセントでした。投資の世界で10パーセントの年利というのはまぁまぁというレベルで決して高いとは言えません。私は爆発的に儲かることもあるが、損失も大きいというような投資ではなく、安定した利益を出す投資をしたいと思い、何か良いものはないかと探していたんです」

もちろん、10パーセント前後の年利というのは、多額の損失を出すとか、投資資金全てを失うと言うことを考えた場合、「まぁまぁのレベル」ということになる。プロのファンドマネージャーに言わせると、年利10から11パーセントを30年近く毎年出し続けるというのは結果的には大変高い利率ということになる。この本『バーナード・マドフ事件』を読み、私は次のような疑問を持った。「一般の投資家は仕方がないが、どうしてプロのファンドマネージャーや銀行家たちがマドフのファンドは詐欺だと考えなかったのか?」金融業界の中で、ボストン在住のファンドマネージャーのハリー・マーコポロス(Harry Markopolis)だけがマドフのビジネスを調査し、マドフが詐欺を行っていると主張し続けた。どうして他の多くのプロたちは、マドフのビジネスを怪しいと感じなかったのか?ラスベガスのカジノではカウンターごとにカメラが付いていて、あらゆる不正を見逃さないようになっている。そうしたことが、ウォール街の金融業界で、どうしてできなかったのか。

レボーは、その答えを「業界の体質」としている。マドフの会社であるマドフ証券は2つの部門を持っていた。一つは株式取引部門であり、もう一つは投資・投資顧問業部門だった。投資・投資顧問業部門では、投資家たちからお金を預かり、投資をするというものだ。これがねずみ講(Ponzi scheme)だったと露見したのである。ウォール街の金融のプロたちの多くは、レボーの問いかけに対し、マドフ証券の株式取引部門が大きな利益を上げ、そこから投資部門にお金が流れていたと考えていた、と述べている。また、マドフは彼が築いた巨大な人脈によって利益を得ていると思っていたとも語っている。彼の人脈はユダヤ人社会に留まらず、ナスダック(Nasdaq)やカントリークラブにまで拡がっていた。そうした場所で、マドフは株式取引についてのインサイダー情報をやり取りしているのだろうと思っていた、とプロたちは述べている。インサイダー情報のやり取りは違法であるが、それによって、マドフ証券は大きな利益を上げ、投資家たちを満足させているに違いないとウォール街では考えられていた。

読者の皆さんは次のような疑問を持たれることだろう。「ウォール街の金融のプロたちはどうして、通常ではありえない取引(インサイダー取引)に対して警告を発しなかったのだろうか?」と。ここで「うなずきあい、目配せしあう」という言葉が出てくるのだ。インサイダー取引はウォール街では良くあることだと読者の皆さんは思われるはずだ。それなら、インサイダー取引を疑い、告発するという行為はウォール街で起こらないということも分かるだろう。誰が「あいつは馬鹿な奴だ」などと同業者に思われたいだろうか?

レボーは、「それでもウォール街のプロたちは矛盾を抱えている」と指摘している。マドフがインサイダー取引をしているとするなら、どうして他人を儲けさせるために投資金を集める必要があったのか、という疑問が沸いてくるとレボーは述べている。彼は自己資金、もしくは借入金だけでインサイダー取引をやっていれば良かったはずだ。そうすればねずみ講になど手を染めなくて良かったはずだ。それに対しては次のような反論ができるだろう。投資ファンドを運営していなければ、インサイダー情報を集めるためのネットワークを維持できなかっただろう。何が怪しくて、何が正常なものかを見分けることは難しくなっている。これはウォール街の存在が大きくなってきているからだ。

(終わり)

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by Hfurumura | 2010-05-11 19:19